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Let The Dog Drive/BiblioTALK de KINOKO vol.037のお知らせ |2023-09-21

この告知は、うでパスタが書く。

まず大切なことから書く。そのあとで、もっと大切なことを話す。

明日の2023年9月22日(金)は20時ごろからYouTubeLIVE配信・BiblioTALK de KINOKOをお届けする予定だ。
配信は当定期購読マガジンの購読者限定で、その配信URLはこのノートの末尾、有料部分に記載されている。

最近はずっと私が損をしているので市況についてはあまり話をしていないが、そろそろまた少し市況セクションを設けてもいいのかもしれない。いずれにせよ、配信はだいたい「スモールトーク」→「市況セクション」→「最近読んだ本」→「質問箱へのお答え」→「サポートへの御礼」という順序で進む。

ご意見・ご質問は、noteの「サポート」機能を通していただいている。要するに百円以上の有料だが、そこは察してほしい。それが惜しいかまたは何らかの理由でみもとを隠したいという場合には、質問箱でのお尋ねにもお答えする。

ところで、もうご存じの方も多いと思うが月曜日に私の家に犬が来た。
「来た」というのはつまりパーマネント・メンバーとして加わった、ということだ。

幼いこどもが犬や猫を飼いたがったのは事実だ。しかしこどもはその意味をまったく理解していなかったので、結局は親である私と妻の考えで「夏が終わったら、保護施設にいる犬を引き取ろう」としていた。夏が終わったらというのは、一家がみんなそろって海外へ旅行に行ってしまう、そんな予定がなくなったらという意味だ。

ところでこれもすでにご案内の通り、私の妻はまぁまぁ偏った左派で、たとえば私は自分のことを「中道左派」と位置付けているが、妻の実家へ行くとセンターラインが大きく左へ寄っているのでほとんど極右みたいな扱いを受ける。「シン・ゴジラ」の話題になったとき、これなら入っていけると思って勢い込んだら場のコンセンサスがまず「ゴジラがかわいそう」だったのでまったく着いていけなかったことがあるが、一事が万事、この通りだ。

その妻は、いわゆるペットの生体販売にまつわる産業全体のありように強い嫌悪を示している。「売れ残った子犬や子猫がどうなるか」という問いはもうしばらく前から広まっているが、最近では交配が進んで小型化した愛玩犬のなかに骨盤が狭まりすぎて自然分娩ができず帝王切開でしか産まれてくることができない犬種もあるようで、象徴的にはこうした話に対する妻の憤りは激しいものがある。
イエイヌとはそもそも狼が人と暮らすなかで交雑・交配を繰り返し、いまではもはや人間社会のなかでしか生きられなくなった種だ。「狼は群れで暮らすため、犬もリーダーに対する忠誠心は強い」というが、犬種と飼い方によっては飼い主と離れることで分離不安を起こして吐いたりする犬もいるわけで、もともとネコ派の妻はこれを聞いて「メンヘラやん」と驚いていたが、つまり人類というのは犬にとり、そういう彼氏だったということだ。

ともあれ、私たちは犬との生活を望みながらも行きすぎたペット産業のあり方、ひいてはそこに顕現する私たち人類の犬に対する行きすぎた欲望に歯止めをかけるべきとの意思表明として、犬はペット産業の手から買わないと決めていた。

私は幼い頃に、実家で犬と暮らしていたことがある。しかしそれはもう三〇年あまり前のことだ。そのあいだに犬を飼うことにまつわる常識は変わり、それはペット産業が醜悪な姿へ変わっていった(あるいはそれが明らかになった)のと対を為すあかるい部分だ。いまでは昔のように人の残飯を食わせることは、飼い犬の寿命を縮ませるものとして戒められるかひどくすれば軽蔑されるだろう。
そこで私たちは、自分たち家族が犬を飼うことについてはまったくの未経験であると仮定して、それでも迎えることのできる保護犬をさまざまな施設や団体に問い合わせてきた。それは決してあり得ないわけではないが、条件はやはり多かれ少なかれ困難な状況を経てきた保護犬を探すうえでは狭き門であり、「犬を飼いたい」と考える人間が生体販売を頭から否定することの矛盾を突きつけるものだった。

だからこの月曜日、施設で出会った犬がその条件にぴったり合うと分かったとき、私たちはその日のうちに連れて帰ってうちの子にすることを決めた。

朝八時半からとしているパーソナルトレーニングの時間はいつも早すぎて、コンディションの良かったことがない。今週は犬を迎えたことで私の生活リズムとスタイルはめちゃくちゃで、なおのことひどかった。
しかしトレーナーは犬好きで、こちらの話には強い興味を示したようだった。
自分でも飼いたいといつも考えているが、まだ若いため大型犬を本当に老後まで支えられるという強い見通しまでは持てず、二の足を踏んでいるというトレーナーに、「犬を飼いはじめれば、その後のライフスタイルの選択肢はその分狭まりますからね」と応えて、そういうことかと私は合点がいった。
こどもを育てれば引越をしにくくなり、住む家やエリアも変わり、とれるリスクは低くなり、歳をとればなおのことそうだ。ローンを組んで家を買い、こどもが巣立つまでの十数年、無茶を控え、終電の時間を気にしながら酒を飲み、休みの日にも早起きをして食事の心配をする。
実家の家庭菜園よりも小さな土地をここに買い、家を建てると決めてからずっと私の心を捉えていたそのあまりに長い絶望のあいだ、私はきっと犬にとって良きホストになることだろう。やがて巣立つこどもの代わり、犬のために私はここにとどまることができるのだ。
その時間は、どんなに長くても長すぎるということがない。
Let the dog drive.

以下、有料部分にYouTubeLIVE配信URLを記載。

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