--SS|失恋墓地
霧が晴れると、そこは墓場だった。
ここはどこなのか。なぜここにいるのか。そんなことを考えるよりもまず、恐怖で頭がいっぱいになった。
すぐにでも逃げ出したくなって、墓地に背を向けると、青白い顔に笑みをたたえた男が立っていた。足がすくんで動けない僕に、男がかすれた声で語りかける。
「ここは、あなたの失恋を葬った墓地なのです」
男に促され、並び立つ墓石に沿って歩いた。
最初の墓標は、20年前のものだった。同じクラスの女子に恋心を抱くも、当時小学生の僕はまともに話しかけることすらできず。甘酸っぱいどころか無味無臭の初恋だった。
途切れることなく刻まれた墓標の文字が、恋多き僕の心をえぐる。3度の告白が全て失敗したあの恋も。三角関係を憂いたあの恋も。クリスマス前に別れを告げられたあの恋も。苦い記憶が鮮明に蘇ってきた。気づいたらあの男の姿はない。自分一人となったこの墓地に、僕のため息だけが響く。早くこんなところから出たい。僕は顔を上げて、最後の墓石まで走った。
「これが、一番新しい失恋です。」
姿は見えないが、どこからともなくあの男の声がした。
最後の墓石。それを見た瞬間、突然冷や汗が出滲む。刻まれていたのは、僕の妻の名前だった。
目が醒めると、僕はベッドの上にいた。リビングに向かう。案の定、妻はいない。机に残されていたのは、僕が判を押すだけとなった離婚届だけだった。
- Fin -
Created by mouto
たらはかに(田原にか)さんの、毎週ショートショートnoteに参加させていただきました。
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