本を拡散させるには?

「せっかく良い本をつくったのに、思ったように拡散されない」という悩みを、しばしば書き手の研究者や作り手の出版社の方々から聞きます。毎週のように数多くの本が出版されている現状では、どんなに良い内容の本であっても、十分な光もあたらずに大海のなかに飲みこまれてしまうことも珍しくありません。

街角から本屋がどんどん消えてなくなる一方で、アマゾンなどの通販をとおした本の入手が常態化したところで、感染症の社会生活への影響のせいもあり、読書人たちの世界も大きく変化しています。

書誌データが公開されてから反応の早い順で考えると、現在では大まかにいって以下のような拡散の段階があると個人的に思っています。15年くらい前までは、4~6にあたる部分が支配的でしたが、2010年代以降では SNS が大きな役割を占めていることは明白でしょう。

  1. SNS での言及・紹介

  2. ウェブメディアや動画サイトでの紹介

  3. 個人ブログなどによる紹介・書評

  4. 大新聞での紹介・書評

  5. 出版業界紙(『図書新聞』など)での紹介・書評

  6. 学会誌などでの書評

そうしたなかで、拡散力のある SNS を駆使できる敏腕の営業部をもたない、昔ながらの職人気質が売りの小規模な出版社では、インターネット上での宣伝もまともに展開されないことは稀ではありません。はては、出版社自体がアマゾンなどと取引していなかったり、アマゾンのカタログに書誌データがまともに反映されなかったりといったケースまであります。

本を出した後に出版社を変えることはできませんから、その他にできることを考えないといけません。著者自身が SNS で自著について連呼したり、自身でブログ記事を書たりすることにも限界があるでしょう。

そこで大事になるのが仲間です。やはり、多くの人々に信頼されている SNS 発信者たちと普段から仲良くしておくことが大事ですし、頼まなくても自発的に良いブログ記事を書いてくれる友人は値千金です。

知人の出版記念のイヴェントには顔も出さないのに、自著のイヴェントには沢山の人に来てほしいと考える身勝手な人がどんなに多いことか! せっかく出したばかりの本を献本したのに、受領した「合図」すらくれない方もいます。反対に、直接にお会いしたこともないのに、受けとった本について写真とともに SNS に投稿してくださる人徳のある方は、本当に神様のような存在です。大事にしてください。

さらに SNS とならんで、2020年代になって急速に重要になってきているのが、動画サイトだと僕は思っています。とくに本を紹介することに特化した動画チャンネルの興隆は無視できません。なかでも文筆家コンビの山本貴光さん+吉川浩満さんや書評家の渡辺スケザネさんなどによる、読書人をターゲットにした人気の動画チャンネルで本を紹介してもらうのは、出版後すぐの段階で非常に大きな力となるでしょう。

学問と本づくりに特化している BH チャンネルの狙いも、まさに潜在的な読者と本の「橋渡し」を強化することにあります。ひとつの動画でたくさんの本に触れる動画づくりをしているチャンネルが多いなかで、BHチャンネルでは、ひとつの本やひとりの書き手に長尺で光をあてることで、本の背景や本の先にひろがる世界、そして書き手の人間的な魅力までを引きだせたら良いなと思っています。

読書人はユーチューブを馬鹿にしていると考えたり、動画を参考にしている人は少ないと想像したりする方々も、まだまだ多いかも知れません。しかし歩みはゆっくりですが、世の中は確実に変わってきています。とくに若い世代ほど、順応性は高いと思います。

営業部が大きな拡散力をもっていない出版社のなかにも、そうした点に気づいているところを見かけます。BH チャンネルの場合でいえば、動画による本の告知が役立つことを理解していただいているのが、八坂書房さんであり、そして悠書館さんになるでしょうか。

たとえば以下は、古代ギリシア・ローマの薬物・植物についての知識を集大成したディオスコリデスの『薬物誌』(八坂書房、2022年)の出版を記念した生配信「ディオスコリデス祭り」の動画です。もともと歴史上とても重要なテクストなのですが、まったく「飾り気」のない高価な出版物となった本書の魅力を、幅ひろい読者層にいかにアピールするかにご注目ください。

訳者の方はご高齢で、さすがに生配信に参加されることはありませんでしたが、『薬物誌』の有用性をよくご存じで、お話も楽しい方々によって、視聴者も参加できる生配信のかたちで楽しみながら馴染めるコンテンツになっているかと思います。八坂書房の営業部の SNS で動画を大いに活用されることが理想的ですが、担当編集者さんのアシストはありがたいものでした。

つづいて、チョーサー『カンタベリ物語・共同新訳』(悠書館)のまとめ役・狩野晃一さんにたっぷりと語っていただいた動画です。

こちらは生配信ではなく収録なので、すこし硬めですが、共同新訳の計画から実現までを知りぬいている狩野さんのお話しに加え、その実直さと優しさにみちた人間味が伝わってくる動画になっているかと思います。こうした方のもとで英文学を学んでみたいと感じさせるコンテンツになっているのでは、ないでしょうか?

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