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甘いバニラの物語

今や銀よりも高いスパイスといわれているバニラ。
赤道より南北に20度くらいの南国で広く栽培されているバニラはその豊かで甘い香りが人々を魅了し様々なお菓子や料理、もちろんアイスクリームなどにも使われている。バニラを人工授粉する手法がマダガスカルの奴隷であった少年が1841年に発見するまでは原産地であったメキシコが唯一のバニラの産地であった。

遥か昔からトトナカ族はメキシコのベラクルースのパパントラに住んでいた。バニラの原産地であるパパントラ。甘い香りのするバニラは大切に扱われ、神々からの贈り物と信じられていた。メシカ帝国への年貢としても使われていたそうである。どのようにしてパパントラでバニラが栽培されるようになったかは不明だか、その昔トトナカ族の王様に美しい娘が生まれ、あまりの美しさに王様も女王も娘を手放したくなかった。王様と女王は娘を「Tzacopontziza(朝の星)」と名付けとても可愛がり、毎日お寺に花や食べ物をお供えする役割を与えていた。ある日、寺へお供え物を持っていく娘をみた青年が彼女に一目惚れをする。いてもたってもいられなくなった青年は彼女を連れ去ってしまう。連れ去られたのを知り、王は怒り兵隊たちに追わせる。初めて外の世界を知ることになった娘は青年に惚れてしまう。離れたくない二人、連れ戻したい兵たち。争った挙句、娘と青年は斬り殺されてしまう。大量の血が大地に流れ、赤い土はやがて黒くなり、月日が経ちそこから草が生え、花が咲き乱れた。甘い香りがパパントラを覆い尽くした。シャナトゥ(Xanath)と呼ばれるバニラが生まれたといわれている。シャナトゥとは「遠い花」という意味らしい。

その後、パパントラのバニラはメキシコ全土で有名になり、バニラを粉々にしてチョコレート、トウモロコシ、ごまなどと混ぜて「ショコラトル」という飲み物を作りアステカ国の皇帝モンテスマ2世は飲んでいたそうである。14世紀ごろにスペインからフェルナンド・コルテスがやってくるとヨーロッパにバニラは広く知られることになり、試行錯誤の末、今ではマダガスカルやインドネシアなどでも栽培されるようになり、原産地のメキシコのバニラは影を潜めている。

抗炎症作用、リラックス作用もあると言われ、古くから食用だけではなく薬用や宗教的な儀式にも用いられていたそうである。

「永久不滅」が花言葉のバニラ。パパントラの若い男女の恋物語。甘い香りは世界を魅惑で包み込む。

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