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スパイスというメディア

昔からスパイスは世界中を旅してきた。たくさんの人によって遠くに運ばれてきた。その土地土地で価値や形を変えながらそれぞれの理想の調合になったり、お守りになったり、薬になったり。
昔、アラブの商人はヨーロッパの人々にシナモン鳥の話をよくしていたそうだ。遥か遠くの国の人が登れないような高く険しい崖の上に大きなシナモン鳥が巣を作っている。この巣がシナモンスティックでできていて、とても人は登って取りに行くことができないので崖の下に大きな肉の塊を置いておくのだとか。そうしたらシナモン鳥はそれを取りにやってきて自分の巣に持ち帰る。大きな肉の塊を巣に置いた時に少し巣が壊れる。カラカラカラと壊れた巣からシナモンスティックが崖を転がってくる。それをアラブの商人たちが拾ってヨーロッパまで運んでいるのだとか。
嘘のような本当のような嘘な話。

しかし多くの人々はその話を信じたのだそうだ。

世界中を駆け巡っていたスパイスはきっとメディアのような活躍をしていたのではないだろうか。メディアとして活躍していたスパイスの記憶が多くのスパイスブレンドとなり、各地に残り、その歴史を紐解いていくとその土地に暮らしていた人々の記憶や歴史、風土、料理が見えてくる。イギリスが開発した「カレーパウダー」。日本で生まれた「七味唐辛子」。インドの「チャートマサラ」、中国の「五香粉」、ヨーロッパの「エルブドプロヴァンス」、南部アメリカの「ケイジャンミックス」。それぞれ使われているスパイス、料理の使われ方だけでもその土地の食文化やその土地の人々がどこからやって来たのかが少しわかってくる。

メディアとして活躍していたスパイスはその記録を各地でブレンドスパイスとして残し、今に伝えてくれているのだろう。

ご縁あり、私は多くの方々のためにブレンドを作り、それを販売したり何か加工するために使ったりしている。ソーセージのためのスパイスブレンドを作ったり、マグロのためのスパイスブレンドを作ったり、鳥羽の海藻を使ったブレンドを作ったり、瀬戸内のいりこ、椎茸、昆布、各地の塩をブレンドに入れたりもする。商品や製品としてとても面白かったり、美味しかったりするものが各地で誕生している。スパイスが繋げてくれたご縁だとも思っている。

繋げてくれているのがメディアであるスパイスの力だとしたら、そのスパイスブレンドを生かして様々なものを作っているとてもユニークで魅力的な人々をブロードキャストしていくのもスパイス商の役割の一つなのかもしれない。

見渡せばスパイスの調合を頼んでくれている人々は何方も多くの方々にその魅力を伝えたい人ばかりである。

私はその人々の魅力をスパイスを通して伝えていきたい。

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