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ナスの庭

その昔、インドのある国にマハラジャがいました。


マハラジャには8人の優秀な大臣がいました。ラーマと言う人も大臣の一人でした。

マハラジャのお城の庭には見たこともないナスが植えてありました。それはとても貴重なナスで、そのナスで作ったカレーはマハラジャの大好物でした。あまりにもマハラジャがそのナスを大切にしていたので、ナスの庭は誰にもみることができないよう厳重に囲まれていました。



ある日、8人の大臣たちに貴重なナスのカレーが振る舞われました。そのカレーがあまりにも美味しく、大臣の一人、ラーマは家に帰ってからもナスカレーの美味しさを妻に興奮しながら話しました。ラーマの妻はラーマにそんなに美味しいナスカレーならば私も食べてみたいと言いました。いくら大臣でもマハラジャの大切なナスをもらうことはできないと妻に言いましたが、何度も何度もあのナスが食べてみたいと妻がラーマに頼むので、ラーマはこっそりと秘密の庭に入ってナスを取ってくることにしました。



取ってきたナスでラーマの妻は早速カレーを作りました。美味しいカレーをぜひ息子にも食べてもらいたいとラーマに言うと、息子が他の人に言うかもしれないからそれはダメだ。とラーマは言いました。どうしても息子にナスカレーを食べさせたい妻はラーマに何度も何度も頼みました。困ったラーマは仕方がなく、屋根の上で寝ている息子のところに行き、バケツいっぱいの水を息子にかけて息子を起こし「雨が降ってきたから、家の中で夕飯を食べよう!」と言いました。



その夜、ラーマと妻そして息子もとても美味しいナスカレーを食べました。



翌朝、お城では秘密の庭から3本のナスがなくなっているので大騒ぎしていました。マハラジャが愛するナスを盗んだ犯人を探すよう大臣を始め家来たちは命令されました。一番偉い大臣が、誰にもみられないようにナスを盗めるのはラーマくらいだと言いました。そこでラーマの家に使いが出されラーマはマハラジャに呼び出されました。ナスを盗んだか聞かれたラーマは盗んでいないと答えました。一番偉い大臣がラーマは嘘をついているに違いないと思い、息子を呼び出して昨夜何を食べたか聞いたところ、息子は「今までで味わったことがないような美味しいナスカレーを食べた」と言いました。驚いたマハラジャにラーマは言いました。昨夜、息子は早く寝たので夢の話をしているのかもしれない、と。そこでマハラジャがラーマの息子に学校から帰ってきてから何をしていたかを尋ねると、屋根の上で勉強をしていたが寝てしまったところ雨が降ってきたので父に起こされ夕飯を食べた、と。マハラジャと一番偉い大臣はさらに驚きました。なんせ数日間空気は乾きっぱなしで雨なんか一粒も降っていないのだから。



後日ラーマの嘘はマハラジャに知られることになりますが、その気転と知恵が評価され特に罰せられることはなかったそうです。




インドの家庭では当たり前のように出てくるナス。原産地はインド東部と言われています。約4,500年前からインドでは栽培されていたとされ、様々な色や形のナスを市場ではみることができます。その身の92%が水分と言われ、油、スパイス、塩などを良く吸収してくれます。辛い油とたっぷりの塩を吸わせたナスのアチャールは私の大好物です。そしてナスをじっくりと直火で焼いてからつくる焼きなすのカレー「ベイガン・バルタ」は私のおじいさんの好物だったそうです。



そういえば鎌倉のアナン邸の入り口にはいつからか「アナン」と書かれたナスの焼き物が置かれています。下向きに花を咲かせることから「優美」、花が咲けばほぼ実がなることから「希望」と言う花言葉がつけられているそうです。



インド原産のナスは山を越え、海を渡り様々な色や形に姿を変えながらたくさんの人たちに愛されるようになりました。



インドのスパイスや食文化を通してナスのようになりたいと思う今日この頃。



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