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ディルは幸せの道しるべ

沖縄の北部「やんばる」に行くのは恒例となりつつある。言葉は同じでも世界が違うような場所で現地の素材をスパイスで様々に仕上げていくのは楽しくて仕方がない。カレーやサブジ、アチャールをたくさん作った後はやんばる巡りが旅の醍醐味でもある。今では沖縄独特の気候を活かしてスパイスの栽培も少しずつではあるが広がっているようだ。緩やかな山の頂上らへんにスパイスを育てている農家がある。少量多品目でその季節にできる様々な野菜を育てる傍ら色々なスパイスの栽培にもチャレンジしているそうである。オスとメスが対になっているオールスパイスの木を見せてもらい日本のジャークチキンの未来が明るく見えたり、遥か昔からトゥールダールを沖縄では土を豊かにするために育てられていたことを知り、南インドと沖縄のつながりに興味が湧いたり、ワイルドなカレーリーフを見て興奮したり、ターメリックの土の匂いが心地よかったり。畑に植わっているスパイス達を見ながらワクワクが止まらなかった。ディルの実が綺麗に咲いており、その横にディルの最盛期を祝いながら、次の主役の座を待っているフェンネルがいた。仲間なので交配しないように咲く時期をあえてずらしているようである。そんな謙虚なディルとフェンネルの姿が微笑ましくも見えた。

 ディルの爽やかな香りが溢れている畑はどこか落ち着くような気がする。

 約5,000年も前のエジプトの医学書にもディルのことが書かれているようにとても歴史があり、それぞれの時代で様々な形で愛され、使われていたそうである。ディルの語源でもある Dyllaは北欧のバイキングの言葉で「落ち着く」や「リラックス」を意味するらしく、畑に入った時のゆったりとした感じはかつてバイキングもそう感じていたと思うとなんだか時空がグワンとするような感覚に陥る。1世紀ごろのローマでは幸運のシンボルとして冠にしたり、呪いから身を守るためのお守りともされた。ギリシャでは富の象徴とされしばしば税金をディルで収めることもあったらしい。

 新しい門出、新生活、4月に入ると環境が変わり慌ただしくなる人も多い。そんな時は玄関にディルを飾ったり、靴の中に忍ばせたりするとより良い方向に導いてくれるとも言われている。
ベルギーやドイツの結婚式ではブーケにディルを忍ばせることで「幸せ」にと導いてくれるのだとか。またディルとマスタードリーフをブーケに一緒に忍ばせておくと妻が生活の主導権を握ることができるのだとか。

 季節の変わり目、だんだんと暑くなってくるこの頃にディルを効かせたドレッシングやピクルスはきっと幸せを運んできてくれるだろう。

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