SS・彼氏は私の味方じゃない

「会議に使う資料、印刷お願い」

営業アシスタントの後輩くんにそう頼んだのは会社の朝礼が終わった直後だった。
私は午前中は外回りの予定があったから、自分で資料を印刷できなかったのだ。
商談は予想以上に長引いて、ランチをする時間はなかった。慌てて会社に戻ったら、頼んでおいた資料が印刷されてなくて、「嘘でしょー!?」 って叫び出しそうになるのを必死にこらえる。
私がイライラしながら大急ぎで資料を印刷しているとランチを終えた後輩くんが、のんびりした足取りでオフィスに戻ってきた。

「ねえ、佐藤(仮)くん。午前中って忙しかったの?」
「ああ、まあ、そっすね。結構次から次に電話がかかってきちゃって。どっかで印刷できると思ったんすけど、そのまま昼休みの時間になっちゃって……」

余裕のない私とは対照的にヘラヘラしながら後輩くんが言う。私は説教したくなるのを必死にこらえて、引きつり笑いを浮かべた。

「あのさ、できれば優先順位を考えながら仕事をしてほしいかな。この資料は午後の会議に必要なものだからさ。朝礼後すぐに印刷するとか、ほかの人に頼むとか、色々できたよね」
「えー? なんか俺に非があるみたいな言い方されるの納得できないんすけど。的確に指示を出さなかった鈴木さん(仮)が悪いんじゃないすか。午後の会議に必要だから最優先でやってくださいって」
「…………」

後輩くんの言葉に私は言い返せなかった。後輩くんの言ってることは正しいから。でもあまりにも責任感がなさすぎない!?
仕事が終わってもむしゃくしゃした気持ちは収まらず、私は彼氏に怒涛の長文ラインを送った。
使えなさすぎ、気が利かなすぎ、常に受け身でやる気がない、責任感なさすぎ、他責思考、思考停止、KY、デリカシーない、ああいうのが家庭崩壊を招く旦那さんになるんだ、エトセトラ、エトセトラ。
でも彼氏からの返信はこうだった。

「後輩くんをきちんと教育できてない自分を棚に上げている花子ちゃん(仮)だって人のこと言えないでしょ。っていうか余裕なさすぎ。俺だって仕事終わって疲れてんのに、そういう話聞きたくない。面倒くさい」

その文面を家で見た瞬間、どっと涙があふれてきた。
私は彼氏にとって面倒くさい女らしい。
彼氏は私がストレスを感じていることなんかどうでもいいらしい。
私の味方になってくれる人はどこにもいないんだ。
辛い、辛いよ、神さま……。
私だって好きでイライラしてるんじゃないのに、誰もわかってくれない。
辛くて、悲しくて、寂しくて。
私の目から涙はとめどなく流れ続けた。

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