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「私とエヴァートンのすべて」-実相編 Part.4 -月刊NSNO Vol.7/ エヴァートンFC ブログ

前回までの記事はこちらから。


「私とエヴァートンのすべて」
-実相編 Part.4-
月刊NSNO Vol.7/ エヴァートンFC ブログ
 (2022年1月号) Written by BF

ベニテスよ、さようなら

なんてダサいクラブなんだ…
浅薄な表現だが、率直な感情が沸いた。

1月中旬、わずか半年間の治世はノリッジ戦での無様な敗戦を受け終焉を迎えた。

ラファエル・ベニテス更迭の判断は、決してエヴァートンを追っていなくとも理解できる、始まりも終わりも拙劣そのものだった。

この6ヶ月、ベニテスは実にリアリスティックな手法でチームの変革に挑んだ。

そう、彼は就任直後から、彼の経験と流儀によってその''プロ''たる仕事を遂行していた。果たして今の時代とクラブ、そしてファンの望みにマッチしていたか?

クラブは、過去3年間で約2億6500万ポンドもの赤字を出し、その見返りもほとんどない状況だった。ベニテスは険しい環境と厳しい視線を受けることを覚悟し、この難解な任務を開始することになったのである。

自分の就任に対する先行き、チームを率いる不安解消の散財は許されず、まさに腕一本で臨む。そしてリヴァプールの監督を務めた経緯と、過去の発言なども当然ながら懸念事項だった。
ファンから嫌われて、彼を守るものはクラブにあっただろうか。

あらゆる猛者が集うプレミアリーグにおいて、彼の時代錯誤ともとれる手法、判断、実践はエヴァートンにとって相応しくなかったのだ。

初夏、私は出来るだけフェアにベニテスと向き合うことを選んだ。個人的には、リヴァプールの監督を務めたこと、「スモール・クラブ」だと揶揄したことは、就任当時ではそこまで重要視していなかった(一部現地ファンの反応は仰々しいものだったが)。それよりも、欧州の第一線を退き、既に''終わった''とみなされる人材を適任としたクラブの判断に不安を抱いた。

だからこそ、望みはあるのか、期待していいのか、過去に率いたクラブ、実績、戦術にも目を向けた。

今回、NSNO Vol.7の最終章にあたるPart.4は、夏に公開したVol.1のアンサーとして執筆する。Part.1~Part.3では回顧録とその実相を見つめ、私の原点と想いを述べてきた。私のベースを踏まえ、現況とラファエル・ベニテスの功罪を2021-22シーズンのトピックとし、前半戦を振り返る。そして、後半戦・今後のエヴァートンを考えるための論及にしたい。

ラファエル・ベニテスの功罪

自己流を貫いたベニテス。
"一戦必勝"、"ローマは1日にして成らず"
ただの絵空事として儚く散った。

▽人材確保

まず、夏の時点で私が残念だったのはネイサン・ブロードヘッドの貸し出しだ。アンダーカテゴリーでは実績十分、既に年齢的には中堅世代となり、今こそトップチーム入りを期待していた。

プレシーズンそしてレンタル先のサンダランドでも存在感を見せたブロードヘッド。現在は残念ながら怪我で離脱している。

プレシーズン、フロリダカップで見せたプレーは、ベニテスが求めるダイレクトアタックにマッチしており、グレイとの滑り出しは高揚感のある組み合わせだった。縦へのペース、テクニック、ボールタッチは必要なピースだと実感。後ろ向きの体勢からターンでき、前を向ける、相手を剥がせる、モイズ・キーンやギルフィ・シグルズソンとは異なるシームレスな流動性を見た。

そんな彼をサンダランドへ1年ローンで放出すると、代わりに確保したのは30オーバーでピークを過ぎたサロモン・ロンドン。彼がジェームズ・マッカーシーの件以来、ナイスガイだ!というのは知っていたが、今季ここまでは失敗のひとつとして数えられる。

大きな誤算の中、想定よりも早く出番が回ってきた。ベニテスの信頼は厚すぎるほどだったが…

試合を重ねて彼の良さが出るシーンも増えてはいる。しかし、ロンドンのポストプレイでは、ウインガーであるグレイやゴードン、タウンゼントへのフィニッシュ依存度が高まり、二次的なレベルでから脱し切れていない。簡素なカウンター攻撃の要因となっている。ダイレクトなカウンターペースについて行けない場面も目立つ。

ハメス・ロドリゲスについても触れておきたい。昨季、センセーショナルな活躍と、チームトップのアシスト期待値を残したファンタジスタは、それを必要としないベニテスによって見限られた。だが、アンチェロッティが去り、欧州カップ進出を逃したことで、ハメス自身もエヴァートンに残ることには拘っていないようだった。シーズン終了前にチームを去り、コパ・アメリカを目指した。

結局、コンディションの問題も懸念され招集されなかったのは皮肉だが、今季プレミアリーグ開幕後もエヴァートンの対戦相手を把握していなかったほどである。愛娘と再会し、Instagramに投稿された写真を見ると、フットボール以外の幸せを垣間見て、一概に責めることはできなかった。

高給取りのハメスに限らず、ベルナールとモイズ・キーンも飽和した賃金体制の煽りを受けて放出された。ブランズは資金の捻出に躍起だった。モシリとベニテスに提案を拒否される中で彼なりに出来ることを全うしていた。

▽グレイとタウンゼント

2人とも一時は怪我で離脱したが、共にすぐさま復帰。後半戦も重要なピースとして期待が寄せられる。

しかしながら、ベニテスが夏の市場で人材確保に動いた実績は失敗ばかりでは無い。むしろ、たった170万ポンドでデマライ・グレイを獲得し、チームの主軸へと昇華させたのは大きな功績だ。今やグレイがいない前半戦を想像しただけで身体に悪寒が走りそうである。

アンドロス・タウンゼントは幾多のクラブを渡り歩いた経験豊富なベテランとして、ベニテスの望む守備貢献と鋭いクロスを供給する貴重なピースとなった。

互いに自身のドリブルやキャリーでチャンスと結果をもたらし、直線的なカウンターで脅威となった。序盤のゴールに直結する活躍は見事なもので、2人が限りなく低い確率のスーパーゴールを決めたことは、今季の数少ないハイライトである。

ベニテスは、エヴァートンの内部情勢の酷さを「予想以上」としながら、軍資金を利用できない現況、あるいは費やし過ぎた過去に縛られ、限られたリストの中から補強した選手を改めて知ると、決して見る目が無かったわけではないと感じている。開幕前に二人の噂が挙がった時、落胆した自分を恥じているところだ。

▽解放と喪失

昨季から進化をみせたBox to Box 2.0。
どこでもドゥクレ。

ハメスの放出と、タウンゼント獲得における恩恵は単に財政面の影響だけでなく、アブドゥライェ・ドゥクレの解放という思わぬサプライズを引き出した。既にアンチェロッティの采配においても無尽蔵なスタミナ、広範囲に渡るカバー性能の高さを示しており、ドゥクレに更なる伸びしろがあったことを予想した人はどれくらいいただろう。

ベニテスは昨季の彼に満足していなかったのだ。

ドゥクレと対話を重ね、相手のエリアに近い位置でプレーしたい、という本人の希望を汲んだ。「もっとシュートを打つように、シーズン5ゴールを目指そう」と攻撃意識の向上を呼びかけた。その成果は開幕節から発揮されていく。

開幕節の豪快なゴールが恋しい

4節バーンリー戦終了時点で、ドゥクレは対戦相手の1,000タッチあたり平均12.64回のボールリカバリーを行っており、この指標ではリーグ全体のMFの中で4位という記録を残していた。まさにトランジションの中心だ。

ハメスのお守りで隠れていた、ゴールに直結するエネルギーを開花させ、チームが搭載するエンジンには、まだまだ余力があることを教えてくれた。

ところが、そんな解放的な高揚感を抱いたのも束の間、チームに突如暗雲が立ち込める

第3節から長期間に渡り離脱したDCL。
足のつま先と大腿四頭筋を痛めた。
ターコウスキの激しいタックルを受けたリシャーリソン。怪我しらずのリシャーリソンでもさすがに疲労の色を隠せない。今季は怪我で2度も戦線離脱している。

開幕4試合で3勝1分の軽快な滑り出しを見せたエヴァートンだったが、3節ブライトン戦でドミニク・カルヴァート=ルウィンを、4節バーンリー戦でリシャーリソンが負傷離脱し、大黒柱のWエースを欠くことになってしまった。

ベニテスは長年貫いてきたダイレクト・フットボールを武器とし、縦のスピードに加え、ルウィンに如何にしてクロスを送るかを大前提として戦術を練っていた。ルウィンは開幕3戦で3ゴール、エースとして爆発の予感を漂わせた。

ベニテス期からPKキッカーも任され、得点量産の期待が高まっていた。

リシャーリソンはコパ・アメリカと東京オリンピックを連続で戦いチームに帰還。ベニテスは満身創痍の中でも起用を続けた。1節サウサンプトン戦ではリシャーリソンのポジションチェンジを指示して流れを変えるなど、ベニテスにとっても、リシャーリソンにとっても明るいスタートだった。

ベニテスの首が飛んだノリッジ戦では華麗なバイシクルゴールを決めた。復活の狼煙となるか。

2人を欠く中で挑んだアウェイ、アストン・ヴィラ戦でチームの雰囲気が一変した。0-3での完敗。可能性を示したのはグレイの個人技、変わったロンドンはコンディションが整っておらず、目立ったのは自慢のコンパクトさを失った守備の脆さだ。その問題は顕著で、直後のカラバオカップでもQPRにPK戦の末3回戦で敗退。失点シーンも似通っており、相手にポゼッションを譲るも、規律のない守備へ疑問符が浮かんだ。結局、休ませたかったドゥクレをカップ戦で出場させたのは、昨季のアンチェロッティも同様だった。

その後、さらに替えがきかなくなったドゥクレは、案の定8節のウェストハム戦で足を痛めた。エバトニアンが危惧していた通りになった。ストレス性の中足骨の痛みを発症。

離脱直前の8節終了時点では、彼が走った距離、91.3kmを上回る選手は他におらず、プレミアリーグの全選手の中で、ドゥクレの195回を上回るプレッシャー(ボールを持った相手選手に圧力をかけること)を記録したのは、チームメイトのアラン(203回)だけである。今季は、より高い位置でプレーできるようになったため、ドゥクレはプレッシャー成功数でもリーグ7位に。また、8試合2ゴール4アシストと、攻撃的MFのトップクラスと比較しても遜色がなかった。

ドゥクレの負傷は昨季の酷使された悪夢を想起させ、 同じ過ちを繰り返してしまったように思う。だか、彼の代わりを務められる選手など他にいないのが現状だ。

4節ではグレイへの絶妙なアシスト、7節マン・ユナイテッド戦では自陣から電光石火のカウンターでタウンゼントの同点弾を演出。昨季と違い、低い位置での組み立てに参加するのではなく、高い位置でカウンターの起点となり、ボールを拾う。要のFWを喪失していく中、解放されたボックス・トゥ・ボックスと、ふたりの新戦力/ウインガーがその穴埋めを果たし、一定の期待感を保たせてくれた最中だった。

ベニテスにとってはこれ以上ない不測の事態であり、大きな誤算。ただでさえ厳しい環境がより一層濃くなってしまった。この点には同情の余地がある。

言わずもがな、ここからエヴァートンの勢いは急降下していく。

▽若芽の希望、ゴードンの戦力化

Wエースとチームの心臓を失う一方で、ピッチには小さくも確かな希望が芽生えていた。

喜びを分かち合うタウンジー、グレイ、ゴードン。

7節、オールド・トラッフォードでタウンゼントが決めた劇的ゴール、本家と比べると些か恰好がつかなかったが、潔いセレブレーションの横で飛び上がって歓喜していたのは、この試合でスタメン出場を果たしたアンソニー・ゴードンである。

対面するアーロン・ワン=ビサカをものともせず、果敢にドリブルとスプリントを繰り返し、ルウィンとリシャーリソンの不在を感じさせないプレーを披露したのだ。

怪我人を多数抱える中、ベニテスはゴードンを起用した。この事実だけ見れば、仮に他の監督であっても同じ選択をしたはず、と指摘する意見も多いだろう。しかし、ゴードンはベニテスのカウンタースタイルだからこそ、爆発的なスピードやプレイスタイルの良さが出たと感じている。加えて、近い戦術を用いたアンダーカテゴリーでの努力が活きたこと、ローン先のプレストン・ノースエンドで経験したタフネスさと彼自身の成長が相乗したことはもちろんだ。

ベニテスの短い任期において、ゴードンの戦力化は大きな功績だと言いたい。彼の潜在する才能ならば、いずれ近い未来に見られた光景かもしれないが、ベニテスの残した数少ない手柄である。だが、素直に私が讃えたいのはベニテスではなく、チャンスを掴み取ったゴードン本人だ


▽不整合な戦術とマネジメント

期待された有観客、ホームでのダービーは1-4の完敗。

4-4ブロックを縦横コンパクトに保ち、自陣に引けばある程度の守備力を保つ。しかし、解放されたドゥクレは前線へのプレッシングやボールリカバリーの意識が上がり、それはアランも同様であることはデータも示している。一方で守備時の最前線はプレッシングに一貫性がなく規律は緩い。プレシーズンから好調だった開幕数節はプレスに行かないことで自陣でネガティブトランジションに備えることができていた。

ロウブロックでネガティブ・トランジションに備えたいバック4と、前でボールを狩りたい2ボランチ、そのライン間はちぐはぐな守備の脆弱性を表していた。

ベニテス・エヴァートンの守備において特徴的だったのは、その中途半端なプレス体勢を始め、ボールサイドに極端に人員をかけてしまう整合性のない光景が散見された。一度や二度の話ではない。

どのチームに対しても大きくポゼッションを譲った。相手に合わせて戦術を変えるのではなく、頑固で無鉄砲な守備陣形だ。ベニテス時代の平均ポゼッション率は40%。これを下回るのはワトフォード、バーンリー、ニューカッスルのみだ。当然ながら守備機会は相応に増加し、ディフェンス陣への負担は大きくなった。個人のミスもひとつやふたつでは無かったが、それよりも大きな問題は山積みだったと思う。ボールを奪っても低い位置からのビルドアップを放棄し、パス成功率はポゼッション同様にリーグで下から数えて4番目だ。

ベニテスのエヴァートンでの成績を示したデータ。特にアウェイでは守備力が下がり、ボールを奪い返すのに多くの時間がかかっていた。(Smarterscoutより引用)

ショッキング極まりない、0-3で敗北したアストン・ヴィラ戦、2-5で大敗した9節ワトフォード戦、直近で言えば21節のブライトン戦も酷かった。芳しくない結果にはずさんな原因が露わになっていた。

アンチェロッティが息子のダビデに託したCKの守備構築は愚かにもリセットされ、いとも簡単に失点しつづけた。ウォルバーハンプトン戦やクリスタルパレス戦は記憶に新しいだろう。アンチェロッティはフルシーズンでCKからの失点は「7」だったが、クリスタルパレスとのゲームでジェームズ・トムキンスにゴールを許し、既にその記録に並んでしまったのだ。そしてその光景は、トランジションと同様に一向に改善されなかったのである。

一般的に守備構築に評価のあるベニテスだが、アップデートの見られない対策は怪我人が増えようとも見逃すことはできなかった。4バック、3バックとフォーメーションを入れ替えたが、「1-0」の達人と呼ばれた戦術家という肩書には程遠い出来だった


ディフェンスラインの要であるイェリー・ミナの怪我は、過去を振り返れば想定の範囲内だ。開幕からCovidの影響で肺機能に問題を抱えたゴドフリーの不調もあった。しかし、加齢によるパフォーマンスの低下が目立ってきたコールマンに負担をかけ続け、頑固にボール保持を諦めた姿勢はチームの熱量を奪う結果を与えてしまった。ホームのノリッジ戦で勝利して以来、マージーサイド・ダービーで大敗するまで8戦未勝利。この不名誉な戦績は、暗黒期サム・アラダイスの時代を塗り替える重みがあった。

怪我人が次々と増える中、戦術家に期待したのは引き出しと上乗せだ
11節のトッテナム戦では、一縷の望みが生まれたようにも見えた。守備時は4-4-1-1だが、攻撃時にはこれまでの2ボランチのスタイルではなく、デルフをアンカーに配置した。ポジティブトランジションではリンクマンとなり、ポゼッションの繋ぎ目として存在感を放ったのである。嬉しいサプライズだった。

だが、次節マン・シティ戦では強豪相手に覇気の無い戦いを演じてしまった。望みは一瞬で絶たれてしまった。どうしてトッテナム戦での成果を引き継がなかったのか。相手のスーパーゴールを含む失点とはいえ半ば諦め気味の姿にも見えた選手たちの表情は、すでにベニテスが理想とする士気からは遠く離れていたようにも見える。

13節のブレントフォード戦では驚異的な回復力で復帰したドゥクレを早速起用した。この頃からベニテスからは焦りの色が滲み出ていた。ドゥクレはこのゲームでフル出場し、現在に至るまで以前の調子を取り戻しているとは言い難い。

15節、奇跡的に勝利したアーセナル戦では、同じくトレーニングに復帰したばかりのミナを起用したが前半31分に負傷。再離脱を余儀なくされた。一戦必勝を掲げた指揮官のリアリスティックな手法は、現代のマネジメントにおいては不整合であり、肝心の戦術を整備することなく、自身の判断によってチームの足を引っ張っていた

正直なところ、この前後を含めるマージーサイド・ダービーと、クリスタルパレス戦は振り返るのも辛いところだ。最後に歓喜したアーセナル戦。リシャーリソン幻のハットトリック、グレイのスペシャル、その勝利はブランズらの追放で心の底から喜べなかったのだから。

さて、話も長くなりすぎたので次のトピックに移りたい。

▽瓦解と確執

少し時間を巻き戻して、昨年10月のことだ。
ベニテスはプレスカンファレンスにおいて、クラブの改善について自身の見解を表明した。

「私はスタッフに大きな信頼を寄せていますが、もし何かを施す必要があれば、私たちはそれを実行します。一つはっきりさせておきたいのは、私はすべての部門を改善しようとしているということです。ファンも、クラブも、大金を費やしたオーナーも、競争力をつけることに必死です」

「ある記者会見で、8位といった順位は私にとって何の意味もないと言いましたが、本当にそう思っています。生き残るためだけに努力したいとは思わない。さらに上を目指し、私の経験、私の見解、私のスタッフで何でも改善できると確信したいのです」
The Guardianより

ベニテスは6月の就任と同時に全部門の分析を開始したと述べ、ファルハド・モシリへ巨額の投資を反映した全面的な改善を要求したという。

その手始めとして、ベニテスの主導で医療部門を見直した結果、クリスティアン・フェルナンデスをトップチームのリハビリ・フィットネスコーチに任命した。ベニテスは、ニューカッスル時代にフェルナンデスと一緒に仕事をしていたこともあり、当初は人員を追加するだけだと思っていた。

しかし、驚くことに怪我人の多さを懸念して、長年エヴァートンのメディカル部門を支えたダニー・ドナチーを解雇したのだ。

解雇されたドナチー氏のTwitterより。神妙かつ凄惨なクラブ情勢が伝わる内容だ。

そして、ベニテスの発言通り''改善''はさらに他の部門でも執行されていく。

2018年よりフットボール・ダイレクターを務めたマルセル・ブランズを電撃解任。マージー・サイドダービーで敗れた後のことだ。その発表に合わせ、リクルート部門の長でありブランズの側近、グレイター・ステイソン、スカウティング部門のダン・パーディーを解雇した。
選手の獲得、移籍に関しベニテスが責任を取る立場となり自らが動きやすい体制を作っていく。

現地エバトニアン、esk氏の記事を翻訳させていただいた記事。稚拙ながら、財政やリーダーシップについて学ばせてもらえた。今一度、フットボール・ダイレクターの役割について考える第3部より。
the esk(@theesk)氏の記事より

勝利のための現実主義…少なくともベニテスにとってはこれが最善の策であり、自分の流儀に従った結果だったのだ。過去のクラブの失敗をしきりに取り上げ、''ローマは1日にして成らず''と口にしてきた。確かに監督が絶えず入れ替わってきた数年を見れば、近年のエヴァートンは失敗続きだっただろう。
だが、彼が行う''プロ''たる術は、既に監督としての範疇を超えていた。本当ならば改善すべきポイントは自身にあるにも関わらず、その失敗は環境のせいだと投げ打ったのである。

極東エバトニアン支部として、日頃お世話になっているAquiさんのnoteより。「エバートンめちゃくちゃにした罪」は実に簡潔にその愚行をまとめてくれている。私の長ったらしいブログよりも安心してオススメできる素晴らしい記事。
Aqui(@attoffees)さんのnote
最後まで悪口を貫いたtoffeeさんへ拍手を。
toffee (@mintsoranje)さんのnote 

誰にリーダーになってもらいたいか。
NSNO Vol.5では、クラブ上層部にも焦点を当てた。

特殊構造をもつエヴァートンという組織。それが故に招いた愚行とも捉えられるだろう。しかし、ファンの声に耳を傾けることなく、オーナー、会長、そして監督が、優秀な人材を意見の異なる人間として排除していく光景は、もはや私の知っているエヴァートンではなかった。好きになったクラブは、このような独裁的な支配を生み出す集団ではない。意見が異なる中で最善策を見つけるのではなく、我が我がと意志を押し通すばかり。一貫性が生まれないのも当然である。悪手にブレーキをかける人間は残されていない。

そして、それは恐ろしいことに、主役である選手にも影響が及んでいく。

▽ディニュ…心からありがとう。

リュカ・デイニュが退団し、同じリーグの中堅ライバルであるアストン・ヴィラへの移籍が決定した。

極東エバトニアンのタイムラインでも、たった1ヶ月の騒動が迅速に収束を迎え、落胆する想いや惜別の念が溢れた。それぞれにとってのディニュという存在が、どれだけファンの心を掴んできたか、皆さんのツイートを拝見してその背景を感じる次第だ。

一部では、現地を始め別角度の見方もある。ヴィタリー・マイコレンコ、ネイサン・パターソンという新進気鋭の若手を手に入れ、同じフルバックである28歳の代表プレーヤーを放出したことは理にかなっているという意見だ。

金銭的にクラブを助けたことは一理ある。その事実一点だけを見ればそうだろう。だが、それだけで収めていい出来事では決してない。私の上記ツイート、140文字以内に想いを込めたが、全く足りないことは自明的だ。

ディニュの移籍で手にした金額など、これまで負の遺産として積み上げた多くの監督に纏わる費用をもってすれば、直ちに解決できるレベルであり、その多くの指揮官とオーナーたちがこぞって振り上げた私欲を計画的に取捨選択していれば、簡単に賄える程度のものだ。

仮に、ベニテス就任時に、ディニュを構想外としニールス・ヌクンクら若手を起用し計画立てて放出していたならば少なからず話は違っただろう。
現実は違う。

「新しい顔ぶれを連れてきて、選手間の競争を高めることだ」ミコレンコとパターソンの加入後にチームに求めることとして、ベニテスは雄弁に語った。
私からすれば支離滅裂である。本来ならば、ディニュの控えとしてミコレンコを出場させるのが理想的だ。ベニテスのスタイルにマッチするのはゴドフリーであることは、最近の試合を通して伝わることだが、「ネイサンとヴィタリーは、私たちが求めている特性、つまり前に出るのが好きな選手、前線の選手にクロスを供給するのが好きな選手です」と発言する。ならば、ディニュをファースト・チョイスにするのがセオリーであり、自身の支配下で彼のクロスやチャンスメイクの数値が下がっている戦術面を思案すべきだった。
その実情に警笛を鳴らした本人をコントロール、マネジメントすることなく、フィットに時間がかかる若手をコンディションが整わないまま、FAカップのハル・シティ戦とリーグのブライトン戦で起用した。

ディニュの放出後、ベニテスの決断を尊重したクラブ、その受け入れ難い舵取りと向き合い、今季終了までベニテスと付き合うことを覚悟した自分が恥ずかしくなった。結局解任に至り、不可解なクラブの選択にも嫌悪感を抱いたのは多くのエバトニアンの共通点だと認識している。今冬に加入したミコレンコ、パターソン、エル・ガジに対しても示しがつかない。


先日、ベニテス解任後初となる、ダンカン・ファーガソン暫定監督率いる最初のゲームが開催された。対戦相手はアストン・ヴィラ。ディニュはスティーブン・ジェラードの指揮下でグディソンパークに戻ってきた。

新たなスタートを切ったリュカ・ディニュ。日本のファンダムからも、多くの言葉が寄せられ、私も彼との思い出を振り返ることができた。クラブへの忠誠心と、ワールドカップへかける情熱が報われることを信じている。

レジェンドであるレイトン・ベインズの後継として高きハードルを越え、彼がもたらしてくれたものは、大きく揺るがないものだ。契約更新時に語ってくれた言葉は、きっと次の舞台へと引き継がれるだろう。

ディニュ、今まで本当にありがとう!
私たちは、さらなる活躍を祈っている。

▽残留・そして来季へ向けて

2度目のケアテイカーを務めるダンカン。

ダンカン・ファーガソンが内に秘める想いを静かに焚きつけ、チームに新たな闘魂を注入する。
その熱量が士気を上げ、揃いつつある主力たちが再びチームを軌道に乗せるため奮起する。

結果は辛酸を舐める敗北。アストン・ヴィラには前半終了間際のCKで失点。今季の課題は引き続くまま、ディニュのアシストを許した。前半はシュート本数0。後半はファーガソンの喝が入ったか、再現性を求められる攻撃シーンを見ることができた。今後ファーガソンとベインズのペアがどこまでケアテイカーとして率いるかは定かでないが、課題は山積みのままであることを理解する。

ベニテス解任、次期監督探しなどについて、ファルハド・モシリと、デニス・バレット・バクセンデールがファンへ公式声明を公開した。内容はポジティブに捉えればはじめの一歩も、本質的には納得のいかないものだ。

ランパード、ルーニーといった若き指導者、直近では相変わらず介入を辞めないモシリが、お付き合いのキア・ジューラブシャンとタッグを組み、フェネルバフチェを解任されたヴィトール・ペレイラと交渉を開始したと報道される。

今、求められることは、プレミアリーグに残留すること。しかし、次の選択にまだ希望を抱くことはできない。

NSNO


私にとってのエヴァートンのすべて。
それは、あらゆる巡り合わせによって成り立っている。ある人にとって一部であり、共感するポイントとそうでないところが入り混じったPart.1〜4の全編だったと思う。

私がアルテタに魅せられたように、ベインズやディニュに惹かれた人、ルカクやリシャーリソン、バークリーやデイビス、ゴードン…そのきっかけは多様にあると思う。 

そこには選手から放たれる輝きと、その道標を作る監督やスタッフ、ひいてはクラブを運営する上層部が存在する。そして、それを鼓舞する偉大なファンがいる。

少なくとも、私が好きになったクラブには情熱的な魅力があり、強者を恐れない、たくましい誇りあるチームがあった。不器用だが愛着が湧く。

だが、今のクラブはファンの希望と期待に沿わない、独善的で排他的な要素が積み重なっている。

チームにアイデンティティを求めるのは、もはや諦めるべき期待かもしれない、そう感じてしまうのが自然な状況である。

ラファ・ベニテスの功罪はどちらが大きいか明らかだ。そしてそれはクラブも同様。
Vol.1のアンサー…
彼を''ラファ''と呼ぶ日は来なかった。
応援する気持ちを腐らせた。
同じ過ちを繰り返す以上に、
恥ずべき失態を犯した。
有意義なシーズンを過ごすことができていない。
それが私の答えだ。

高度なフットボールを求めるなら、ビッグクラブを応援すれば話は早い。トレンドの中心で戦術だって議論することができる。書店で並ぶサッカー雑誌も、もっと楽しく読めるだろう。チャンピオンズリーグを見たければ、毎年参加できるクラブは他にもいくつだってある。

それでも来季、またその次の年だってエヴァートンを応援する。エヴァートンにはエヴァートンの良さがある。エリートに喰らいつくチャレンジャーの美しさを知っているからだ。

それをどうか、クラブがファンの声を聞き、体現し、一刻も早く気づいて欲しい。

そう感じた21-22シーズンの前半戦。


長々とした内容でお詫びを、不快な想いをした方がいたら申し訳ない。ただ、率直で確かな感想だ。そして最後まで読んでくださった方に感謝を。いつもありがとう。遅れましたが、皆様本年もどうぞよろしくお願いします。


2022年1月 
月刊NSNO Vol.7
「私とエヴァートンのすべて」


参考資料

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BF
気に入ってくださり、サポートしてくださる方、ありがとうございます。 今後の執筆活動や、エヴァートンをより理解するための知識習得につなげていきたいと思います。