訴状「エバートンめちゃくちゃにした罪」

 アンチェロッティが白い巨人に移った後、エバートンは格好の機会を得た。PSVを救った男の方針に従い、ゼロから継続性のあるフットボールチームを作る機会を。しかし、オーナーがブランズに耳を傾けることなく選んだのは、直前まで中国リーグで指揮を執っていたラファ・ベニテスであった。本稿は、そんなベニテスをエバートンめちゃくちゃにした罪で訴追する、検察側の文書である。

 エバートンめちゃくちゃにした罪の構成要件は、以下の通りである。

1:戦術

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 エバトニアンは攻撃的なフットボールを好むと言われている。しかしカルロ・アンチェロッティが逃げ切り型の比較的守備的な戦術を多用していた際、ある程度の結果は出ていたことから批判するものは少なかった。このことから、ラファの戦術が受け入れられなかったのは、ひとえに目的と結果の不一致という点にある。

【ベニテスフットボールの目的】
 彼が志したフットボールは、いわゆる「堅守速攻型」である。これは統計にも色濃く示されている。

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 これはチームスタイルを比較した表である。縦軸が縦へのスピード、横軸は連続したプレーにおけるパスの本数を示している。左上に行くほど直線的でゴールまで少ないパス本数で向かう特徴を持つのに対し、右下に行くほどゴールまでじわじわパスをつなぎながら攻め入る特徴を持つと言える。

 これを見れば、エバートンはリーグでもかなり左上の位置にいる。加えて、asによればポゼッション平均もリーグランキング15位の40%にとどまっていて、リーグでも屈指のカウンターサッカーを志向していたことがわかる。

【ベニテスフットボールの結果】

 結果はご存じのとおりである。

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 19戦で5勝10敗、34失点クリーンシート3。明らかに守備的フットボールは失敗した。

【なぜこうなったのか】

 戦術素人ではあるが、私は3点原因があるのではないかと考える。それは予想しやすい攻撃、個への依存、人選よりもエゴを優先したという点だ。

・予想しやすい攻撃

 縦への速い攻撃、直線的なフットボール、これらを使うことはとても予想しやすいサッカーに陥る危険性がある。特にボール奪取の位置が低いと、相手チームは選手の配置次第でいくらでも対応できてしまう。そのため、最初の数試合以降は攻撃として機能しなかった。

・個への依存

 予想しやすい攻撃が看破されたとしても、それを打開する方法が、「個人の能力」だ。実際にこれによって得点できたシーンはあった。しかしプレミアリーグの過酷日程では怪我をしないことが難しいし、パフォーマンスにだって波がある。私たちがタウンゼントやグレイのゴラッソを目にできていたというのは、裏を返せば組織として点を取る方法が整備されていなかったからであろう。

・人選よりもエゴ

 ベニテスは自尊心を何よりも大切にする。彼はアーセナル戦から突如副キャプテンを干し続けた。特に敗北したブライトン戦においては右サイドバックを本職とするコールマンを明らかに適性がない左WBで起用してまでディニュを干した。そしてその後のFA杯ハルシティ戦の試合前記者会見では「チームより自分を優先する選手にプレーしてほしくない」という旨の発言をしたが、「チームより自分を優先」し、勝ち点を失った監督がする発言ではなかったであろう。

 もちろん、選手自身のクオリティにも問題があった。しかしベニテス解任前の数試合は明らかに選手はメンタルに影響を受けており、これを選手のパフォーマンスが悪いとして糾弾するのは酷であると感じたため、要素から除外した。


2:人柄

 誤解してほしくないのは、ここで彼の人格攻撃をするつもりはない。あくまで彼のピッチ外の行動を「戦術」と対比して「人柄」とする。

2(a):ピッチ内外の混同

 彼がファンとの関係を構築する際に一番の問題となったのは自分の失敗と、エバートンの問題を混同してしまったことであった。

 FA杯ハルシティ戦後の会見において、ベニテスは「私たちが抱えている問題は、ここ3か月に由来するものではない。もっと昔からのものだ」と主張した。彼は自身の12戦1勝という乏しいスタッツを、エバートンという組織の体質一つのせいにしたのである。
 比較するようで申し訳ないが、前任者はピッチ上で起きたことをピッチ外の責任にした記憶はない。実際にセットプレーを問題視した際は、その改善に取り組み、終盤にはストロングポイントまでにしていた。さすがダビドである。
 そして「勝てないのはエバートンの長年の問題のせい」とする彼の頑固な思いは、ピッチ外にも悪影響を及ぼしていく。

2(b):権力欲 

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 不調の原因は「エバートンにある長年の問題」と信じて疑わないベニテスは自らの正義を貫徹する方針を選んだ。自身の権力の拡張に乗り出たのである。
【メディカルスタッフの追放】
 エバートンは今シーズンも怪我人に悩まされた。これを問題とみなしたベニテスはメディカルスタッフの変更に着手した。長年エバートンで仕事をしたドナーチーに別れを告げ、自身のスタッフを持ち込んだ。果たしてこれは功を奏したのか。結果はノーだ。ミナを復帰早々つかってまたすぐ離脱させてしまったのは、スタッフ云々の問題ではなかったことを明確にさせた。

【マーケットにおける権力】
 エバートンにはクラブへの貢献度以上に給料を圧迫する選手たちがいる。これも事実ではある。これを問題とみなしたベニテスは、移籍市場を統括するマルセル・ブランズの追放に乗り出した。しかしリバプール・エコーの擁護記事を見れば、彼がエバートンの移籍市場でどれだけ貢献していたかがわかる。彼は問題の本質を見極めようとする胆力が足りなかった。冬の移籍市場で獲得した第1号と第2号のミコレンコとパターソンが「邪魔者」ブランズのリストからの獲得であったのは、ベニテスにしてはなんとも面白い冗談であった。笑えないが。

 以上より、検察側は構成要件が満たされたため、「エバートンめちゃくちゃにした罪」が成立すると主張する。


おわりに

 ベニテスは不憫でもあります。彼を選んだのはモシリであり、彼自身ではありません。彼を強大化させてしまったのも、モシリ以外の誰でもありません。彼だけではなくそれ以前の監督や形式的なSDに責任を取らせ続け、それらの後ろに隠れ続けるこのモシリという男に、我々はいまこそ厳しい目を向ける必要があるでしょう。

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