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【詩】密かに咲く

 黄昏時に
 出会った桜の木。

 ここに人は滅多に来ない。
 たとえ来たとしても
 誰も見向きもしないだろう。
 細く、淑やかな桜が一本
 雑木林の中でわらっていた。

 僕はそれを見て
 密かに咲いていると思った。

 僕はそれを見て
 密かに咲くことを覚えた。

 人がいる、
 人がごった返している、SNSの中で
 ただ、ぽつりと、佇む僕は
 その桜のようだと、ふと思った。

 桜は、人目につくところに咲くから
 人から愛されるのだ。
 しかし、人目につかない桜は
 一体、どうなる。

 その桜に、哀しみは無い。
 その桜は、ただ、わらっている。
 その桜は、静かに、わらっている。

 その桜は、密かに咲く。
 僕も同じように、密かに咲く。

 ただそれだけが、僕の人生かもしれない。

 近くの小さなダムの放水音が、
 轟々ごうごうと音を立て
 夕闇に溶けていった。

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