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100年以上前のミシンを使ってみる

SInger 12K New Family。多分1886年製。

スリーホイーラーの幌を作るのに流石に手縫いでは無理があるからミシンが必要だろうとメルカリを見ていたところ、古いミシンが詳細不明、パーツが揃っているかどうかも不明、という話で比較的安く出品されているのを発見。
写真をよく観察したところ、ボビンワインダーが破損しているものの、それ以外の状態はかなり良さそうで、基本的なパーツの大きな欠品も無さそうだったので、ちょっと迷ったけれど購入してみることにしました。

何故80年前の車の幌を作るために更に50年古いミシンを買うのかというツッコミは置いといて。

入手直後の確認

イギリスの工業製品だからebayやetsyでスペアパーツなどはある程度入手できるだろうという経験則からも勝算はあったものの、こちらもミシンは完全に素人なので、実際には飾りにしかならないという覚悟もしていた。

ケース

このケース自体も既にアンティーク家具の風合いで無茶苦茶格好いい。
取っ手が中央についているけれど、重心がかなり偏っているのと、固定があまりしっかりしていないので手に持って運ぶのはちょっと不安定。

本体のお目見え

土台の縫う位置左右に長方形のスライドするカバーが本来付いていますが、左側があるけれど右側が無い。これは写真の時点でわかっていて、適当な板で自作するかなと思っていたのですが、他のオプションパーツの中に紛れて入っていました。うれしい誤算。

手回しハンドルも問題なく滑らかに動くようです。これは期待が持てる。

右側に転がっているのは土台が折れたボビンワインダー(ボビンの自動巻き機)ですが、これは修理を試みるしかありません。

オプションパーツ

直線縫い専用のミシンではありますが、当時からいろいろなオプションがあり、折り返し縫いやリボン縫いなどはできたようです。
ただ、これらの使い方、これがわからない。
まぁ、この辺りはあくまでオプションですので取り合えず持っておくだけで使わなくて大丈夫でしょう。

ボビンとボビンケース

現代のものとは全く形が違うボビン。
当時のシンガーのエンブレムにも描かれています。
ミシンの仕組みを考えた人は本当にすごい。

これが壊れていたりすると危なかったんですが、状態も問題なくて一安心。
巻いてある糸は家にあった適当な手縫い糸を試しに巻いてみた状態なのでかなり太いです。

テストしてみたらばきっと折れた

試しに手縫い糸のまま縫ってみたところ、1本だけ残っていた古いオリジナルのミシン針が見事に折れました。
錆が出ていてちょっと使うのは難しそうかなとは思っていたのですが、さすがに糸が太すぎた模様です。現代の針とは形も違うため、代替の針を探す必要があるのは分かっていたため想定内。そのあたりは後述。

分解整備

というわけで外見上はほぼ問題が無かったため、細部を可能な限り分解して清掃、注油を行っていきます。
基本的に掃除と注油が修理の基本です。特にミシンは布を扱うので埃や繊維が動作部分に挟まったり詰まったりすると動きが悪くなると思わるため、細部までしっかり確認。

このくらいの年代の工業製品はかなり頑強に作ってるので、動かないところを無理に回したりしない限りメインの機構が曲がったりはそうそうないはずです。

裏の機構

布送りの幅を調整する部分の動きが渋かったので、まずそのあたりを重点的に確認。うっすらと出ている錆のせいでスライドがきつくなっていただけでそのあたりを掃除してやれば問題なさそうで一安心。
スプリングなどは折れる恐れがありましたが、それも問題なし。

外せる個所は外していく

分解を進めます。右側のメインシャフト周りはピンで固定されていますが、ちょっと触るのが怖いため一旦保留して取り付けられている状態のまま清掃していきます。

上下機構

軸の回転を上下運動に変換する機構はシンプルですね。大きな摩耗などは特に無さそうです。

蓋側

左側は上糸調子を調整する仕組み。
上部のネジを締めると、テコの原理で下側の糸押さえが強くなるという構造。

右側が布押さえ。
上部のネジで押さえつけの強さが調整出来るようになっています。

上部分解清掃

諸々外して掃除していきます。
上糸調子を調整する、糸が挟まる2枚の皿のようなパーツは特に念入りに磨いておきます。

本体の内部機構

手で回した横軸の動力を縦軸に分岐するシステムなギア周り。
この辺りも分解はちょっと様子見で清掃と注油に留めます。状態は良好。

手回しハンドルの倍速装置周り

手回しハンドルに少しガタがあったので軸を確認してみたところ、結構変摩耗がありました。とりあえず今のところ使用するのに支障が出るほどではないので、いずれ何らかの対策をとりたいところです。
肉盛り溶接をするにしても、細く削ってレースを入れるにしても、旋盤が無いと厳しい。

手回しハンドルとフライホイールのリンク

手回しハンドルからフライホイールへ動力を伝える部分はかなり物理的というか、フライホイールの腕に手回しハンドル側の腕を差し込んで供回りするようになります。
先端の革が完全に撮れていたので巻きなおし。

これで一通り本体の確認、メンテナンスは終わりました。

ボビンワインダーの修理

ボビン巻き機が完全に折れてしまっているのを修理します。
フライホイールとボビンワインダーのホイールを接触させて回転させる仕組みになっているので、押さえつける力に負けてネジ穴部分で折れてしまったようです。
これが使えないとボビンに糸を巻くのがかなり大変なので修理は必須。

破断しているが欠品は無い

さてどうやって引っ付けたものか、というところですが、手元には溶接機も無く、そもそも鋳造品の溶接はかなり難しい上に強度が出にくいため、接着剤をメインに修理することにしました。

とはいえいくら強力な金属用接着剤でもこの面積で力のかかる部分を引っ付けたらまた折れてしまうのは目に見えています。

補強の板とシャフト

なので、本体を接着した上で裏に補強用の真板を接着し、更に土台の肉に余裕がある部分に穴をあけて破断部分を跨ぐ長さのシャフトを埋め込みました。
写真の状態の後、はみ出した部分は削って滑らかに仕上げてあります。

ここまでやればさすがに強度も大丈夫でしょう。

針を入手する

前述したように、この年代のミシンは現代の針とは違って太さが上から下まで同じになっており、家庭用ミシン針などは使用できないため、代替の針を入手する必要があります。

国内では代替使用可能な品番のミシン針は既に生産終了してしまっていたため、海外から代替使用が可能と言われている針を輸入しました。

また、工業用のミシン針には細目のタイプもあるため、そちらも買ってみてテストを行います。

左:工業用 右:代替品

工業用の針は番手によって上部の太くなっている部分の太さが2種類ありますが、これは細い方です。細いとはいえオリジナルの針に比べるとかなり太さがあります。

代替の針はオリジナル程の細さは無いですが、使用可能な範囲です。
ただ、太さの選択肢があまりなく、厚物には本来向かない番手です。

工業用の針が使用で切れば、今後レザークラフトなどにも使用できるのですが、さてどうでしょうか。

工業針はちょっと厳しい

結論から言うと、工業針は一応使えました。
ですが太い分取り付けに余裕が無く、針が片側に寄ってしまいます。
クリアランスに余裕が無さ過ぎて、これを使い続けるのはちょっと怖いですね。何かのはずみで針が左側に寄ってしまうと上下時に土台に引っかかって折れたり、場合によってはミシン側にダメージが入るかもしれません。

代替針は問題が無いので、スリーホイーラーの幌はこれで塗っていくことにします。ただ、あまり厚物に向いている針ではないため、幌の帆布が縫えるか、そこだけがちょっと心配です。

準備完了

とまあこんな感じで、使用する準備が整いました。
見てるだけでほれぼれします。

使用できる状態になりました

いくつか動画を取ってみました。
動作音も心地いですね。単純に何でもない布を試し縫いしているだけでも楽しいです。

各部の構造を考えると、自動巻き機構の糸の通し方はたぶんこれで合っていると思うのですが、海外の他の人の動画を見たら微妙に違っていたりします。
意外と適当でもちゃんと動作するみたいですが。

フライホイールとボビン巻きのホイールを手で押さえつけて回転を伝達しているので、左下のネジ穴部分で折れたのも納得。

ボビンケースの糸の通し方も、人によって流儀があるみたいですが、これも自分なりに考えた結果正しいと思う通し方です。
何度か試してみた感じでは、5つ並んでいる穴に入れてから戻すところは、IN/OUTの穴が離れるほど下糸と調子が強くなるみたいです。(あれ、逆だったかも?)

針の取り付けはかなりアバウトで、現代の家庭用ミシンなどと違って好きな位置に固定できてしまいます。
まず手前側に針の溝が来るようにセットし、上下するバーの上部に目印のラインが入っているので、そのラインがボディの上部に揃う位置で針の穴が土台からギリギリ見える位置に来るようにする、というのが正しいようです。

糸調子については、下糸はある程度布の厚さなどを考慮して決めたうえで、上糸を調整してバランスがいいようにセットするというのが良さそうでした。

綺麗に縫えましたね。

今後の改良について

ロイヤルメールのサイバー攻撃やストの影響で、まだ手元にパーツが届いていないのですが、針を固定する上下にスライドするバーのスペアを購入しました。

工業用の針が太いのであれば、固定部分を少し削ってセンターが出るようにしてやればよいのではないかという考えの元、少し改造して工業針が使用できるようにしてみるつもりです。
そうなればレザークラフト用針なども使用できるので、工作の幅がかなり広がることでしょう。

ボビンも現在は入手困難なのですが、3Dプリンタで複製している人がいました。SDGsですね(笑

ではまた。

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