「何でも言い合える仲」が、なぜ仲が良いということなのか疑問だったので再定義してみた

「何でも言い合える仲」というのは、人と人の仲の良さを表す上でかなり上位にくる表現だと思う。

ただ、わたしはこの表現に昔からしっくりきていなかった。何でも言い合えることは、仲が良いということになるのかどうか、どうもよく分からなかったのだ。

わたしがよく耳にする「何でも言い合える」というのは、「相手の嫌なところをすぐに指摘できる」とか「怒ってあげられる」とか「じゃれ合いながら悪口を言い合える」とかそういうものだ。もしかしたらわたしが、いなヤン（田舎のヤンキーの略称）の多いところで育ち、そうした友達が多くいたものだから、いなヤンらしい「何でも言い合える」の意味で解釈してしまっていたのかもしれない。

しかし仮に、広く一般的にもそうした意味で「何でも言い合える」が捉えられていた場合、やはり疑問に思うのだ。

「相手の嫌なところをすぐに指摘できる」とか「怒ってあげられる」とか「じゃれ合いながら悪口を言い合える」というのは、なんというか、村的な美徳の基準が根底にあるように感じるからだ。その基準をもってして、「それは悪いことだ」と言って、仲が良いとされている相手に説教しているようにしか感じないから、それは果たして「仲が良い」と言えるのだろうかと府に落ちなかったのだ。お互いのエゴのぶつけ合いじゃないかと思うわけだ。

それに、「何でも言い合える」とか言っている人たちは、相手とはもう気が知れている仲だから、何を言っても傷ついたりしないなんて思いがちだ。だから平気で「ブス」だの「バカ」だの言い合ってケラケラ笑っているわけだが、相手が本当に傷つかないかどうかなんて本人にしか分からないことである。悪口は、仲を深めるために一役買うものなのだろうか。

このような考えがあり、なぜ「何でも言い合える」ことが「仲が良い」ことを表現するのか分からなかったのだけれど、最近「何でも言い合える」とはこのことか！と思うことがあった。

度々このブログにも登場しているのだけれど、わたしには「これぞ友達」と思う大学時代の友人が一人いる。わたしは見た目がちょっと派手に見られることが多いのだが、その子は真面目に見られる子なので、その子と仲が良いと言うと周りの友達にはよく意外がられたものだ。

しかし、大学時代から仲が良くて、一緒にいれば笑いが絶えなければ真面目な話も堂々とすることができて、お互いに泥足を突っ込もうとすることなく、程よい距離感だった。社会人になった今でも電話をすれば1時間は話し込んでしまう。

そんな友達が仕事でオーストラリアにいるのだと電話をかけてきてくれた。彼女には今とある悩みがあって、それを聞いて、わたしの実体験や考えを伝えた。彼女も自分の感じていることや考えていることを率直にわたしに話してくれて、わたしはわたしで自分の意見を無駄にオブラートに包んだりせずに、きちんと伝わるように言葉にした。

その時ふと思ったのだ。「何でも言い合える」とはこのことではないのかと。

つまり、何を言っても相手に否定されたり侮辱される心配がなく、安心してお互いの意見を伝えられる関係こそが、「何でも言い合える」ということなのではないかということだ。その根底には必ず相手を尊重する気持ちがあり、信頼があるからこそできることなのだ。だから「仲が良い」と言葉を置き換えることもできるのだ。

こうして考えてみると、いなヤンももしかしたらただ若くて子供なだけであり、わたしが再定義した「何でも言い合える」と然程遠い所にはいないかもしれない。考えや言葉が稚拙だったからわたしは違和感を抱いていたけれど、彼らにおいても、何を言っても大丈夫という安心感があったのかもしれない。

何でも言い合うことができる相手というのは、きっと誰にとっても稀有な存在だろう。わたしはどんな人にも率直に意見を言う方だと思うけれど、同じように言葉を濁さずに考えを伝えてくれる人なんてほとんどいないし、わたしだって、自分の思っていることをストレートに言うことを躊躇ってしまう相手というのもいる。

「否定されそうだな」と言う前に思ってしまったりすると言葉にできなくなってしまうのは、賛成されたいという気持ちから来るものというよりも、「自分を受け入れてもらえない」という寂しさから来るものだ。もしくは、自分が相手より知識が乏しいことが分かっているがゆえに「自分の意見は幼稚なのではないか」と口に出す前に怯んでしまっているのだ。

「何でも言い合える仲」である人との距離感は絶妙だ。相手を尊重し、優劣を持たず、自立していて、時に頼り合える、そんな人間関係が築けるなんて奇跡のようなものである。