Yoin
虹の庭⑦ レイはまた広い部屋を横断してコートスタンドまで戻ると、自分のコートとココのコートを手に取り、「寒いから」と彼女にコートを着せる。そして自分もコートを羽織りながら、シンク脇の収納棚からブランケットを取り出して、「それでもまだ寒かったらこれを使って」と言った。ココは「ありがとう」と受け取る。レイがそのまま窓際まで行き、二重窓を開けると、木枯らしのような冷たい風が部屋に流れ込んだ。 「うわ、冷えてるな」 「ホントね」 ココはそう言って、思わずレイの陰に隠れる。その時、ふと
虹の庭⑥ 「お茶、淹れようか」 レイが香炉の皿を揺らすと、茶葉がサラサラサラと心地よい軽やかな音を立てる。彼はまるで小さな楽器でも奏でているような雰囲気でそのまま窓際の棚までそれを持っていき、急須を出して茶葉を移した。電気ポットからお湯を注ぐ。そして急須を置いて、反対側の収納スペースへ行くと、折り畳み式の小さなサイドテーブルを出してきて、ソファの前に置いた。 「どうぞ。そこよりこっちのがくつろげるよ」 レイに言われてココが立ち上がる。 「部屋もあったまってきたから、コートを
虹の庭⑤ ********************************** キャンバスに向かって油絵を描いているレイをナーナがソファに座って眺めている。 “レイ、日本に来てくれてありがとう。小さい頃、遊びに来てくれた時のこと、今でも一つ残らず覚えてるわ。レイのこと自分の子みたいに可愛くて、夢の中にいるみたいに幸せだったな” レイは手を止めて振り返る。 “俺も一つ残らず覚えてるよ。ナーナは俺の初恋だったからね” ナーナは微笑を浮かべてレイを睨む。それから目を伏せて、その
虹の庭④ 第二章 カランカラン。倍音を響かせながらドアチャイムが黒猫を迎え入れる。 「おかえり、ラアザ」 ロマンスグレーの紳士が柔和な表情で微笑む。黒猫は瞬時に女性の姿に変わり、紳士の前にたどり着く頃には優美な笑みを浮かべていた。 「虹が完成するわ、シャダート」 ラアザと呼ばれた女性が紳士に微笑みかける。 「間に合ったな。随分と手間取ってしまったが」 シャダートと呼ばれた紳士は台帳を見ながら何かを書き込む。 「しかも扉も開くわよ」 シャダートは視線だけをラアザに向ける。「
虹の庭③ 「会社を辞めても今の仕事を続けるの?」 「よくわからない。今の仕事を続けたいのかどうかも」 「……十五年といったらかなりの長さと捉えることもできるからな」 ココが頷く。 「絵を描き始めて何年?」 「……二十五年かな?」レイが笑う。 「生まれながらの画家ね」 恐れ入ったという表情でココがレイを見る。レイは眉と唇をちょっと動かしたが、特にそれには答えず質問を続ける。 「仕事は楽しくなかった?」 「楽しかったわ。でもここ数年は全然楽しくなくなった」 「書くこと自体も楽しく
虹の庭② ココはしばらくその扉の前で立ち尽くしていた。我に返って振り返ると、虹の庭の絵が飾られていたはずのショーケースは空っぽで、その向こうの薄暗い室内はもう何か月も人が踏み入ったことがないかのように荒廃している。 (嘘でしょ!?あんなに階段を下りたのに……夢の管理人ですって?しかもどこへ消えちゃったのよ?) あまりのことにココは動くこともできない。 (どうなってるの?) 手にしている札を見た。確かに紳士に渡された札がある。錆びついたドアノブを回してみたが、扉は開かなかった
虹の庭①さらに神はいわれた。 「あなたたちならびにあなたたちと共にいるすべての生き物と 代々とこしえに私が立てた契約のしるしはこれである。 すなわち、私は雲の中に私の虹を置く。 これは私と大地の間に立てた契約のしるしとなる」 (創世記9章12-13) 第一章 私の人生は虹につきまとわれている。まだ長すぎはしないが、決して短くもないこの生涯の中で、一番多く見たのが虹の夢だ。記憶しているもっとも古い夢が虹の夢なら、記憶しているもっとも新
初めまして。Yoin(よいん)です。 ご覧いただき、どうもありがとうございます。 私は小さい頃から絵を描くこと、文章を書くことが好きで 家でいつも絵を描いて遊んでいる子供でした。 小説を初めて書いたのは小学5年生の時で、 学校の宿題でファンタジーもどき(?)を書いたことを覚えています。 子供のころからなんとなく社会になじめず、 学校には通いましたが、好きにはなれませんでした。 どこにいても所在ない感覚がつねにあり、 実態のある世界よりも、空想の世界で生きてい