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これから「エモい」はどこに行くのか

(多くの方から感想がいただけたらと思い、私のブログ『小麦粉惑星』より転載しました。ご了承ください。)


「エモい」という言葉がわからない、なかなか馴染めずにいるという話を以前ブログに書いた。

この記事を書いてから、そろそろ1年半が経とうとしている。言葉への抵抗感は徐々に薄れ、自ら進んで使いはしないが、かなり理解を深め、わざわざ距離をとることはしなくなった。

言葉を尽くすことは大切だけれど、決してすべてじゃない。「エモい」の正体をひとつずつ紐解いていくことが、いつでも求められるわけじゃない。そんなことに気が付いた。かなり遅かった。私は言葉に重きを置いて生活したいと常に思っているけど、そうじゃない人もいる。だから、「エモい」に反発しようなんて思わなくなったのだ。

文脈を省いてでも、気持ちを伝えなくてはいけないことはある。だけれど文脈が確かに其処にあったことを伝えるため、「エモい」の1語に置き換えるのだろう。少しでも「物語があったこと」を残そうとする感性が浸透していると考えると、かなり救われたような気がするのは私だけだろうか。

「エモい」に対して昔ごちゃごちゃ難癖つけてごめんなさい! 

などと謝るために、今回記事を書くことにしたわけではない。「エモい」の行く末についてだ。


「エモい」は瞬く間に消費された。目を引く形容詞として至るところに添えられた。作品の紹介文に、キャッチコピーに。インターネット広告に。

「エモい」はトレンドとして、様々に姿を変えて出荷されていった。「エモい」風のものが好まれるとして、人工的なエモいものが量産された。そして、それらを称賛する言葉も「エモい」だった。

「この○○がエモい」とか「エモい○○」に対して、多くの人は耐性が付いてしまったような気がする。繰り返されるそれらの用法に飽きてしまったという意味だ。メディアで使われすぎることがどれだけ言葉の寿命を縮めてしまうのか詳しくは分からないが、そういった側面はきっとあるだろう。

商業的な「エモい」を受け付けなくなる人も一定数増えただろう。こういった「エモい」を毛嫌いする人をよく見かけることがある。

これと、お笑い芸人の千鳥 ノブのツッコミは好きだが、素人のする「千鳥 ノブ風のツッコミ」は嫌いな人は多いみたいなことがなんとなく類似するかもしれない。

こちらはプロの技術、ノリを一般人が真似するという形だが、違うステージに輸入されたことによるギャップ、それに伴った評価といったところだと思う。

結局、受容する側の言葉だったのだ「エモい」は。感想を述べる時に適した形容詞だった。作る側、発信する側がこの言葉に頼ってものを作るべきでなかった。本当に個人的だが、そんな風に感じる。結果的に土俵を選ぶ言葉だったと今更明らかになったみたいな感覚だ。

「あぁ、はいはい、エモい系ねー」と先入観を持たれることは、作品に触れた後「エモかったなー」と感想を持たれることとかなり違う。長期的にみると前者は損失なのではないかと予想している(手に取ってもらい、購入に繋がる点だけでみるとプロモーションとしては成功しているのだと考えられるが)

「エモい」を使うことの否定ではなく、「エモい」を使ったブランディングが危ういという話だ。消費者の好んでいるもの、傾向にあったものを作ることは大事だが、「エモい○○」みたいな売り方は無限に続けられるものではない。

所謂「エモいもの」は身の回りに無数にあって、音楽や文学、漫画や演劇みたいな芸術だけじゃなく、生活の中にも沢山あって、みんな何処かで触れてきたはずだ。

その表現しきれない感情を「エモい」に置き換えていただけなのだと私は思う。

ある体験に対して、表現しきれない感情を抱くことは、恐らく言葉を尽くすことより大切なことなのだろう。(順序の問題もある)

元来「エモい」が指すものは、その人だけが抱いた想いのことだと私は感じている。納得のいく名前を付けられるまで「エモい」という仮ラベルを貼るだけで、特別なものであることは変わりない。自分だけのオーダーメイドの感情だ。これを大切にするべきだった。

なんだかんだ「エモい」はずっと使われる言葉になっていくのだろうと思っていた。支持される言葉であり続けるのだろう、時々変異しながらも言葉としての歴史を作っていくだろうと。突飛な響きであるが、その根源自体は日本人が大切にしてきた感情だったから。

しかし、ゆっくりと、そして確実に「エモい」は淘汰されていく方向に舵は切られてしまっている。このまま死語になっていく可能性は以前より高まった。

オーダーメイドの感情を指していたはずの言葉が、レディ・メイドな商品として大量消費されてしまった結果がこれなのだとしたら、皮肉で悲しい話である。




何か感想を持った方、コメントなどいただけると幸いです。

また、kei02様の写真を使用させていただきました。ありがとうございます。


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