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第3回AI歌壇 北原有 選


こんにちは、北原有です。
沢山のご応募ありがとうございました。
皆さんの短歌を読めてとても嬉しかったです。嬉しかったのと同時に本気で選をするぞ!と心がけました。
どのような基準で選をしたのか明記いたします。

・特選、秀作、佳作の3つの賞を設け、特選と秀作に選評を書きました。

・読んでいて特にグッときた作品を選んでいます。韻律の気持ちよさ、新しい視点がある、語の選択が面白い、エピソードを上手くアウトプットしている等理由は様々です。それらを複合的に検討し、選びました。

・選をする上で、応募者の名前を隠して選をいたしました。評を書くときも名前を見ていません。選評記事にまとめるときに名前を拝見いたしました。

・分かち書きや句ごとの字空けなどがある作品は、それらが歌の魅力を増幅させているか、効果的に使われているかを吟味しました。

それでは、各部門の発表に移ります。

自由詠部門
【特選】

室内の蜥蜴をそっと逃がす時ティッシュでくるみ握る生と死/宇井モナミ

部屋に入った虫や蜥蜴を駆除せず、逃す時ティッシュで掴むことは多いだろう。ティッシュごしに感じる、蜥蜴が確かに生きている感覚、また、このまま蜥蜴を殺してしまえるという感覚は両立する。優しさと残酷さを同時に自覚する瞬間は確かにあるだろう。
経験と感覚が丁寧に表現されていて特選とした。

【秀作】

ねこそろり ふすまあけます ゆうぐれに よるをよぶのが ねこのおやくめ/とも

猫がふすまを開ける一瞬を切り取っている。僕はそれを見たことはないけれどイメージとしてはそれをわかる。その一瞬を猫のお役目としたところに詩情を感じる。全ひらがな、句ごとの字空けが独特の浮遊感を生んでいる一首。

ひとりだけノルマを達成したせいでロボットなのがバレてしまった/高原すいか

韻律の気持ちよさにグッときた。作中の主体は自分のことをロボットと言ってるけれど、人間味がある。その感覚が絡まってくる感じが面白い。

今食べてゐるものは分らなくても自販機の釣は掠め取る父/菊池洋勝

いろんな事を忘れてしまっても、その人に身についた習慣はきっと身体は覚えている。またそうであると信じたい。「掠め取る」という言葉の選択が、その人をずっと見てきた人の視点であると感じ、秀作に選んだ。どんな事だとしてもその人らしさや面影を見た時の心の動きは素直である。

フルーチェが固まるまではわたしたち家族のように過ごしましょうよ/tali

フルーチェのとろとろ感が作中の関係性の不安定さと重なって苦しい気持ちになる。家族のように過ごそうという提案のつらさ、その後の関係性の少しぎこちない感じが浮かんでくるようで心を掴まれた。

【佳作】

君のいない場所はさびしくつらかったですと言えたらどんなにいいか/赤月宙

制服のスカート下は短パンで怖いものなど何もなかった /円山すばる

飛べるのが天使で浮くのが幽霊で見たかんじだと姉貴は後者/高原すいか

書かれてもゐないことまで受け取つて滲んでしまふあなたの手紙/高田月光

見ていても見ないふりしてやり過ごす透明なきみ僕たちの罪/あおいそうか

セリフの入った短歌部門
【特選】

「光あれ」「そこになければないですね」神はキャン・ドゥへ向かわれた/伊津見トシヤ

神が光を求めてそそくさとキャン・ドゥに向かう絵が面白い。宗教画にしたらなんとも楽しそうだ。キャン・ドゥという固有名詞の選択も納得感がある。他の100均には光が置いていなくとも、キャン・ドゥにはありそう。なるほど名前の響きに希望があるのか。日常にある言葉のいままで見えていなかった側面が露わになっていく一首。

「10歳はお若いです」と血管を褒められている祖母のハレルヤ/tali

きっと作者の祖母が作者や家族に嬉しい気持ちを伝えたくなったのだろう。それを作者は短歌にして歌った。なんと愛がある歌だろう。10歳は若いという褒め方も素敵。普段、あまり褒められない部分を褒められるのは何歳になっても嬉しい。

「ETCカードが挿入さ「していません」」ふたり叫んで祝日を発つ/石村まい

愛を表現する手段として短歌という文芸は大きな力を持っていると僕は思う。ふたりの関係性やふたりだけのお決まりのセリフ、祝日にドライブに出かけるふたり、でっかい愛を感じた。韻律も面白い。楽しい歌だ。

【秀作】

寂しさを隠した母の「じゃあ、また」が残って少し重たいスマホ/ 岡乃あや

メールやLINEなどで親とやりとりをすると、いつもと違う気持ちになることがあるだろう。顔を合わせて喋る時とは違ったさびしさが残ることがある。気づきがあって心に残る一首だ。

試し書き用紙のすみの「ごめんね」に「ええで」と足したブルーブラック/tali

優しい眼差しの一首。誰宛でもない言葉を拾い、言葉を返す。つやつやとしたブルーブラックの色がまた良いと感じた。

「平生のヘーゼルナッツ」「うるせえよ」なんで笑ってしまうんだろう/久久カナ

くだらなさの中に面白さがあるんじゃないか。くだらなさに付き合う人がいることでその面白さが浮き上がってくることがある。七七の温かさが楽しい。手を繋いだまま、俯瞰で見ている感じが良い。

【佳作】

質問です この歌好きって言われたら、それは広義の告白ですか/梅鶏

「離れてもだいじょうぶ?」「だいじょうぶ」というふたりごと近くて遠いいつかの話/鯛

9月の自選短歌
【特選】

映写機のように朝日が差し込めば無職の日々に解釈の余地/あひる隊長

自分の状況も映画であると思れば、確かにまだなんとかなりそうな気がする。起承転結の起か承の段階っぽいし、伏線がありそう。そしてこのあと何か転機があるだろう。斬新な見方。こういう視点がゆっくりと心を癒してくれることがある。だから短歌は面白いし、僕も短歌をもっと読もうと思った。素敵な短歌をありがとうございます。

大谷と言えばバイトのリーダーでお局様(おつぼねさま)と呼ばれていたっけ/古城えつ

有名人より実際にあった人の印象が名字の印象になってしまうことがある。作者にとってあの大谷は、バイトリーダーのお局でそれは幸か不幸かわからないけど、読み手としては面白い。なんか笑ってしまうし(ごめんなさい)、経験したことある感覚なのに、自分では歌にできるまで到達できなかった感覚なので一本取られたなーという素直な感想です。

メロンパンは悪口ですか 来月の同窓会は出席します/tali

いや、同窓会には行くのかよ!と思ってすごく笑ってしまった。読み上げた時の楽しさが光る。メロンパンは確かに悪口チックに思うが、それを言った人たちの意図は掴みかねる。だから同窓会には行くのかなあ。いや、同窓会には行くのかよ。

【秀作】

もうあとは捨てられるだけのわたしとかインクの切れたボールペンとか /図書猫

「とか」を2回重ねることで開け放した哀しさが表現されていると感じた。悲しい歌だが、捨てられずに取っておかれることもあるんじゃないかという希望もすこしだけ見え隠れしている。

他所行きの顔で狭いバスの席真実なんか知りたくなかった/円山すばる

ひと息で詠んだのかなあと感じた。おそらく定型のかたちにはできる歌だが、この中八でつっかかる感じは、作者の素直な気持ちを詠んだからなのかなと選者は思った。辛かった記憶は妙に細かいディティールが残ることがある。それが「狭い」バスの席だったのだろう。

【佳作】
等間隔に並ぶ人影踏み鳴らし私が17時をお知らせします/虚光

青色に塗り直された海がありみんなそうだよのみんなって誰/くぼたむすぶ

ふきんしん そんな名前の神様を信じる人に燃やされた本/高原すいか

ああなんか心が割れていたみたい こぼれた中身を丁寧に拭く/文月のペンタトニック

泣くほどに辛くはないし笑うほど優しくもない霧雨のなか/未知

それぞれに形があって君を待つ心はきっとポストのかたち/未知

はじめての彼女ができて僕史上最も許せる目覚ましが鳴る/猫背の犬

こちらで選を終わります。
ご応募いただいた方で、この短歌に素直な感想が欲しいという方がいらっしゃいましたら、応募した歌を添えて北原有のXアカウント(@yagennankotsu06)にご連絡ください。

選者になるということは貴重な経験になりました。自分の短歌観について見つめ直す事ができたのです。皆さま本当にありがとうございます。
また選者ができますように。

AI短歌には愛があります。愛を信じてください。

北原有

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