見出し画像

夏の夜が明ける呪縛

4ヶ月ぶりにヘアーサロンに行った。4ヶ月ぶりとは思えないほど、キレイな髪ですと言われた。あまり手を加えることは好きじゃないけど、毎日の丁寧なブラッシングの効果だと思った。

近年稀にみる悪夢で、よくある映画のシーンみたいに、うわーと叫びながら、がばぁぁっと起きた丑三つ時だった。あゝこれはあなたを苦しめている、強烈な邪気邪念が、私のところに飛んできたんだね。妬みや呪いのエネルギーは重く重く相手を蝕んでいく。私は幼少の頃、夏の夜の闇が明ける寸前に、神社の境内で藁人形を打ち込んでいる女性を目の当たりにしたことがある。大きな杉の木の向こう側で、真っ白な装束に身を包んだ女性の姿を見て、神社に新しい巫女さんがやって来たのだと思った。次の瞬間、巫女さんだと思った女性は、その黒くて長い髪が、境内の土と並行になるほど走り込み、何度も何度も、柱に括り付けた藁人形に釘を打ち付けていた。今思えば、あの女性は私に見られていたことに気づいていたと思うけど、そんなことは、もう気にもならないくらい、憎しみのエネルギーのみで生きていたのだろう。その証拠に、ひとしきり呪縛の儀式を終えると、当然のように、すーっとこちらにやって来て薄笑いを浮かべながら、見たこと誰にも言っちゃいけないよと言って神社の境内から立ち去った。新しい巫女さんじゃなかったんだと、家に戻って見たことを家族に話すと、叔母は今すぐに、縁側に座って息を吐きなさいと言って、私の背中を何度も叩いた。子どもながらに身体から、何かが流れ出していくことを感じた。

今朝は霧雨が降った。いつのまにか、ウッドデッキに出て眠っていた朝の5時。いつのまにか…までの、その僅かな時間の出来事を、あまり憶えていない。藁人形を打ち込んでいた女性の黒くて長い髪は、とてもキレイだった。ブラシではなく、つげ櫛で毎日欠かさず、お手入れをしていたような艶やかな髪だった。あの日だけはしなかったのだろう。私はいつもと同じようにブラシで丁寧に髪をとかした。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?