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保育業界の人材不足から全ては始まった。新しい企業年金「はぐくみ基金」誕生秘話

「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」という企業理念のもと、現在および将来にわたり、人々が「お金の心配なく」「自分らしく働ける」社会を目指す株式会社ベター・プレイス。医療、保育や介護など、人々の生命と社会生活を支える人たちの資産形成や福利厚生を支援するための「はぐくみ基金」の設立のほか、DXにより企業年金を刷新し、初心者の方でも手軽に老後の資産形成ができるような取り組みを行っています。
今回は、「はぐくみ基金」の産みの親とも言える、学校法人立山学園理事長・社会福祉法人森友会理事長の立山貴史氏とベター・プレイス代表取締役社長の森本が「はぐくみ基金」立ち上げまでの日々を振り返ります。「はぐくみ基金」はどのような課題から着想され、どのような想いのもと誕生したのか。ぜひご一読ください。

保育業界の人材確保の苦労から生まれた「はぐくみ基金」の構想

森本:今回は「はぐくみ基金」設立までの道のりを支えてくださった立山さんと共に、これまでを振り返っていきたいと思います。最初に僕と立山さんの出会いですが、たしか弊社顧問の桑戸真二先生のご紹介でしたね。

立山:2016年頃ですね、当時、わたしは運営する幼稚園や保育園で、保育士さんはもとより、管理職の人材を集めることに非常に苦労していました。そこで拡大をしている株式会社がどうしているのか調べてみると、ストックオプション(会社の上場時などに、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利)によって人材確保をしている面が大きかった。しかし、わたし達のような社会福祉法人には持ち株がありません。「いったいどうしたら、良い人材を集めて長く働いてもらえるのだろう」と頭を悩ませていました。

そのときに桑戸先生から「人を集めるには、将来の安心につながる退職金と保険だ」とアドバイスされて、紹介されたのが森本さんです。

実際問題として、すでに福祉医療機構の退職金制度が打ち切られる話が出ていたところでしたし、私学の退職金制度は法人組織の負担が大きいわりに、運用がどうなっているのか、掛けた金額より多くもらえない状態に陥っていました。そこで森本さんから、企業年金や退職金制度の仕組みについて、いろいろとお話を伺ったわけです。

森本:最初にお会いした時は、弊社が扱っていた既存の企業年金をご紹介しました。

立山:あれはとても良い制度でしたが、なにしろ導入と手数料のコストが高い。保育園のようなちいさな規模の組織には難しかった。森本さんを紹介してくれた桑戸先生とともに、3人で集まっては「保育や福祉業界のためになる制度とは何か」をずいぶんと話し合いました。ただその時は森本さんが独自の基金を作るなんて思ってもいませんでした。当時は保育士さんたちの健保組合を作ろうと思っていたのです。しかし国のルールが変わって、メリットがなくなってしまった。保育現場を支える制度作りの話はもうここで終わりかな、と思いました。

ところが、森本さんは健保組合を断念してからも、保育園の先生や福祉で働く方々を支援できる制度を作れないかと考えてくれていました。次にお会いしたわずか数カ月後には、すでに基金の構想を描いていましたよね。

森本:そうですね。企業型DC(確定拠出年金)かDB(確定給付企業年金)のどちらかがいいのではないかと考えていました。

立山:実際に基金の枠組みを聞いて、現存の退職金制度などと照らし合わせながら、わたしと森本さん、桑戸先生の3人で「保育や福祉の業界にとってのメリット・デメリット」を洗い出し、制度の設計を細かく詰めていきました。というのも、一般的な企業と、保育や福祉の法人では背景が違うからです。

たとえば、保育業界は平均勤続年数が7~8年と短い。ですから60歳になったら積み立てたお金がもらえますよと言われても、現場で働く方たちにはあまり響きません。そこで森本さんは、60歳以前でも退職時に掛金がもらえる、育休のような一時金としても受け取れる基金の骨組みを考えた。それは大きなメリットです。

デメリットとしては元本保証の課題がありました。元本保証は社員にとってはいいのですが、万が一元本が割れた時には法人側が負担しなくてはならない、ここをクリアしないと保守的な組織が多い福祉業界での基金導入は難しいわけです。

森本:毎月1回くらい、議論を戦わせていましたね。

立山:最終的に元本保証については、3年に1度の財政再計算(2023年現在では5年に1度)により積み立て金の過不足を計算する期間を長くする。また、10年国債の利回りに連動した予定利率にして逆ザヤ*¹を起こしにくくする。3つ目に、運用益の概ね3分の1を口座に残し、万が一の元本割れに備えるという手段に落ち着いた。なんとか福祉業界の法人を説得できるのではないかというところまで進みましたが、そこから「はぐくみ基金」を世の中に出すまで、本当に大変でした。
出典 *¹ 日本取引所グループ https://www.jpx.co.jp/glossary/ka/588.html

全国を駆け巡り「はぐくみ基金」の必要性を熱弁した日々

立山:こうして実際に動き出したのですが、年金基金は当然ながら厚生労働省の認可が必要です。その認可をとるには一定数の加入事業者を確保しなくてはならない。そこはわたしがお手伝いできると思い、知り合いのところをまわって全国各地でこの制度を紹介しようと森本さんと話しました。それが2017年秋でした。

最初の勉強会と懇親会を福井県で開催し、その後も大分、福岡、大阪とセミナーや勉強会を開いて、制度についての説明を続けました。福岡と大分の法人は初動でかなり加入してくれましたし、大阪はお金の運用に詳しい方も多くて積極的ですから関心を寄せてくれた。その後も札幌、宮崎、鹿児島、長崎、栃木、福島と全国各地を回って、法人組織の理事長さん達にお声をかけては、基金について説明をしました。

こうした説明会ツアーを敢行したのも「基金が認可される前提」でのお話です。

森本:万が一、認可が取れなかったら…と考えると、本当に必死でした。厚生労働省には何度も交渉に行きました。ところが「基金を支持する団体はありますか?」と言われ、保育団体の会長さん達が支援してくれていますと答えると、「では加入者はどれくらいで資産規模は?」と問われ、答えられないと「それでは認可は出せません」となります。

でも僕から言わせると、認可が出ていないのだから正式な募集はできないわけで、それで規模を問われても正しく回答できない。困ったなと立山さんに話をしたら、それなら「こういう制度を作るよ」と説明のみを行い、認可がおりたら契約をする形で進めてくれました。

立山さんは、都内だけでなく全国に複数の保育園や幼稚園を運営しており、保育や福祉業界で多くの法人さんとつながりがあった。「はぐくみ基金」の設立当初、特に大きな支持団体もない中で66事業所、加入者約1,700名という規模でスタートできたのは、画期的なことでした。これは立山さんのおかげです。その他にも素晴らしい人との出会いがあり、マーケットの状況も良かったこともあり、奇跡が重なって、今の「はぐくみ基金」があります。

保育や福祉の現場をより良くするために「同じ船に乗った」

森本:実際に基金を運営するにはガバナンス体制が必要で、何より重要なのが財産のセキュリティ部分です。その為、信託銀行などにも問い合わせをしたけれど、(設立前の基金なんて)相手にもしてくれませんでした。

奇跡といえば、現在「はぐくみ基金」の理事長であられる関さんとの出会いもひとつの奇跡でしたね。

日本に500人ほどしかいない「年金数理人」の資格を持つ関さんは、確定給付企業年金のプロフェッショナル。経験豊富でノウハウも持っていらっしゃる。もう関さんしかいないと思って、思い切って関さんがコンサルタントを兼任している会社(セキュリティ情報研究所)に電話をし、相談すると「設立はできるけど、お金を集めるのが大変だよ」と言われました。

それから半年近く理事長を担ってくれる人を探していたのですが、まったくいなくて。
やはり、ここは関さんしかいないと思って、無理を承知でお願いに行ったら「やぶさかでもないですよ」とおっしゃってくれた(笑)。

関さんは基金のコンセプトをとても評価してくれて、特に庶民のための資産形成に共感してくださった。なおかつ、これは勝手な憶測ですが、ご自身も専門家や人材を集めることに苦労なさってきた経緯もあり、数少ない専門家として世の中のために貢献しようという、そんな思いで「はぐくみ基金」に参画してくださったのかなと思っています。

立山:そうやって、少しずつ基金を支える形も出来上がっていきましたけど、設立前に「立ち上がったらうちも加入するよ」と言ってくれた法人さんたちの多くは、正直なところ「はぐくみ基金」がどういうものなのか、よくわかっていなかったんじゃないかな。ただ、なんか良さそうかな、くらいの感じでしたね。

それで加入して2年くらいたってから「ありがとう」と感謝されましたよ(笑)。わからないまま入ったとしても、それが学習の機会にもなって、今では後輩の法人さんを紹介してくれています。

森本:「はぐくみ基金」が無事設立したのは2018年。そして現在ベター・プレイスは、「はぐくみ基金」導入支援やサポート業務を行っています。

立山:基金を運営する上で重要なのは、役割分担と役員構成です。今の森本さんのお話を補足すると、ベター・プレイスと基金の立ち位置は、法的に言えば業務委託であって、森本さんは間違いなく創設者ではありますが、「はぐくみ基金」は別のガバナンスで動いています。

森本:立山さんからは、理事長や代議員(基金型企業年金の運営方針などを決める議決機関)の構成、フォーメーションがとにかく重要だと言われ続けてきました。基金型の企業年金が正しく運営されるには、理事や代議員が同じ方向で動いていくことがとても大切です。そういう意味では基金は、立山さんも代議員の方々も、お客さまであり同時に乗組員でもあり、同じ船に乗った皆さんによって支えられています。

立山さんと飛行機や新幹線に飛び乗っては全国をめぐった日々が、今の「はぐくみ基金」を誕生させてくれた。こうして振り返ると本当にすべてが出会いと奇跡の連続だったな、と思いますね。


ベター・プレイス顧問 立山 貴史
学校法人立山学園理事長、社会福祉法人 森友会理事長
現在東京都内21園、名古屋市内1園、明石市1園、福岡市内4園、大分市6園(2022年5月1日現在)の認可保育園および幼保連携型認定こども園を経営。「好きを見つけられる子へ」をモットーに、「誉める保育」「異年齢の関わり」「主体性の尊重」に努めている。

ベター・プレイス代表取締役社長 森本 新士
アリコジャパンを経て、スカンディア生命にて長期投資の可能性を学び、グローバル株式への積立を通じた資産形成を、まとまった資産を持たない個人でも行えるようにと、かいたく投信株式会社を創業。
その後、エッセンシャルワーカーが有利に資産形成できる仕組みを提供しようと株式会社ベター・プレイスを創業するとともに、福祉医療業界で働く人々の資産形成プラットフォームとして福祉はぐくみ企業年金基金を設立。
公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー。


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