交通量調査

雲間からのぞく青空なんて欲していない
手を伸ばした距離よりも遠い空 そして 今日も
得るものなんて何もない

軽トラの荷台に座り込んで
叩きつけるような雨に打たれたい
ただ独りきりで酔いつぶれ ゲロを吐くのに疲れたら
苔むしたブロック塀にもたれて夢を見ていたい

砂利敷きの駐車場の
揺れるイネ科の雑草にくすぐられながら
無精ひげとヨレヨレの服で
錆びて軋んだパイプ椅子に腰かけて
道路を走り抜ける車を数えてる
僕のそばを通り過ぎていくものごとなんて
気にも留めていなかったし
空港で預けた荷物を受け取ったときから
涙なんて流したこともない
パチンコ屋の看板のへりに太陽が触れると
街の画素が荒くなる
不規則なリズムに慣れた指先からこぼれる疲労が
夕暮れの空の冷たさと溶けあい
ガードレールの柱の腐食穴から見える水たまりに映る
空きテナントの白い内装の肌寒さが
視界のすべてを曇らせる
疲れ目の熱さと、こめかみの凝り
積み重ねてきた無意味や
胃の痛みなどがこみ上げては
僕自身の影となり
膨らんで、伸びて、分岐しては
街中のスージ道を窒息させ
暗渠からガーブ川が現れる瞬間や
歩道橋の卑猥な落書きを塗り潰していく

日没後。
水銀灯が光で濡らしたフェンスをよじ登り
蓋のない排水溝を飛び越えると
汗くさい空気や
街の扁平な夜景が押し寄せてくる
資材置き場を囲むギンネムの茂み越しに拡がる
ヘッドライトとテールランプの奔流、
滑走路の進入灯、
クルーズ船の電飾文字、
その一つ一つを
シラフで夜通し抱きしめていたい
何も失わず、何も得ないことに
目を見開きながら溺れていたい

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