海岸・小景

空の冷たい青が
せわしなく回る地球儀をゆっくりと止める
僕はイヤフォンで音楽を聴きながら
秋の海岸を歩く
貝殻みたいなさびしさが
やさしいユウガオの群落に潜りこみ
セピア色の砂浜を
一すじの轍が駆け抜ける
ここよりずっとずっと向こうに 透明な鐘が落下する
音もなく
振り返る人もなく
やがてその鐘は 傷口のような水平線に触れて
藍色に弱くひらめく
藍色の光の繊維が降り積もり
海面は希土類の断面のように冷たい
天球を縁取る気流のなかで
飛行機が銀色の腹を晒し
発電所にかかる桟橋は静止することは止めず
外灯と外灯のあいだを吹きつける風が埋める
磨かれた石がこの夕暮に投じられ
波紋が流木を撫でるみぎわに
僕は僕の体内に一輪の大きな造花を咲かせる
その花びらの裏側で
一つの孤独が回り続けている
新しい磁気のような空気のなかで
吹きつける風が
僕と世界のすきまを埋める
この海のまえで
この秋空のしたで
この砂浜のうえで
僕の歩行が世界をかすめた。
その跡が世界の傷口となって、
ぬらぬらと光っている。

立ちのぼる暗い煙は
二つの半島と二つの島に閉ざされた
この中城湾を満たした。夜が始まっていた。

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