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「ホップステップだうん!」 Vol.168

今号の内容
・巻頭写真 「 池松靖博さん」 江連麻紀
・続「技法以前」142 向谷地生良 「不確かさへの耐性-人は合理的に動かないもの」
・ 伊藤知之の「スローに全力疾走」 第95回 ぱぴぷぺぽ珍道中
・「商売すっぺ!」を研究する 宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 030 向谷地宣明 「研究思考/志向(Research approach)」
・ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「ほめほめシャワー」
・「べてるアーカイブ」配信のお知らせ


池松靖博さん

今週でべてるの家に来て8年になった池松くん。

自己病名
統合失調症基本がんばり型、信用回復不安タイプ。

「手を洗おうね」が「出ていけ」に頭の中で変わる。
  ↓
爆発・・・口爆発、イス蹴ったり
  ↓
言ってくれた人がおどろく
  ↓
周りの人に信用がなくなり、自分自信への言葉にも信用がなくなる
  ↓
深呼吸、体操、起きた出来事をスタッフと一緒に記録をつける。

お金の苦労がある池松くんは、スタッフが(池松くんが羨ましくなる)いいものを持っていると、昔の苦労が蘇ってきてワナワナしてきて欲しくなって似たものを買ってしまいます。
「私のカメラも結構いいものなのですが、大丈夫ですか?」と聞いてみると、「江連さんのカメラは仕事だから平気。趣味だとダメ。仕事のものは平気。」と答えてくれました。

(写真/文 江連麻紀)

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続「技法以前」142 向谷地生良

「不確かさへの耐性-人は合理的に動かないもの」

「オープンダイアローグ」(以下OD)の基本要素の中に、「不確かさへの耐性」という概念があります。わかりやすさ、説明のしやすさ、数字に表わしやすいこと、が重んじられる中で、「不確かさ」というのは、当事者研究で言うと「今日も、明日も、あさっても、ずっと問題だらけ。それで順調」の理念に重なるものです。この「不確かさ」を考える時に、参考になるのが「行動経済学」です。

「行動経済学」は、今までにも三度(2002年:ダニエル・カーネマン、プリンストン大学名誉教授、2013年:ロバート・シラー、イェール大学教授、2017年:シカゴ大学リチャード・セイラー教授)ノーベル賞を受賞しているように、大変注目されている経済学理論で、従来の経済学が「人は誰もが賢く、完璧に自己管理ができる、いつも合理的で正しい選択をすることを前提している」のに対して、「行動経済学」は、「人間がかならずしも合理的には行動しないことに着目し、従来の経済学では示せなかった社会現象や経済行動を、人間行動を観察することで説明しようとする新たな経済学」(日経ビジネス2019.0114 No1974)であることに特徴があります。

この理論的な発展を概観した時に考えたのは「行動支援学」の可能性です。もちろん、このような学問は存在しません。しかし、経済学がそうであったように医療や福祉を支える考え方には「一定の知識、技術、価値に基づき養成された専門家は、誰もが賢く、完璧に治療、ケア、支援ができる、いつも合理的で正しい選択をする」ことを前提し、当事者に対しても「人間は自己実現に向かう有機体であり、常に自分自身の維持と自分自身をより良い方向に向かわせる力が備わっている」(C・ロジャーズ)ということを前提として成り立っているからです。

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