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「見たことがないものにはなれない」

こんにちは、ANRI江原ニーナです。今月から、日経COMEMOさんのKOLとしてnoteで発信していくことになりました!
個人的に強い関心&情熱のある、スタートアップやビジネス業界におけるダイバーシティ&インクルージョンおよびジェンダーの問題を中心に、ベンチャーキャピタリストという視点からあれやこれや綴っていこうと思います。
よろしくお願いします!

少し前に、Netflixで『ミス・レプレゼンテーション: 女性差別とメディアの責任』という映画を観ました。(調べたところ、Netflixでの公開期間は終わってしまったようでとても残念・・。)メディアが映し出す女性のイメージが、社会で規範化され圧力となって生きづらさを生み出していることを様々な事例とともに指摘し、それが女性のリーダーが増えないことにも繋がっていることや、男性の生き辛さにも触れる素晴らしい作品です。

この作品中には、こんな一文が登場します。

「見たことがないものにはなれない。」
(You can't be what you can't see.)

これは、わたしたちが将来について考え、自分の夢を描くときに、ロールモデルの存在が、その青写真を制限してしまう可能性を示唆しています。今回のnoteでは、女性として生きていくこととロールモデルの存在について考えていることを綴ってみます。

ロールモデルとは

WORK DESIGN:行動経済学でジェンダー格差を克服する』では、ロールモデルを「お手本になる人物」と端的に定義しています。ロールモデルの重要性については、わたしの尊敬する起業家のひとりであるYOUTRUSTのCEOイワヤンさんこと岩崎由夏さんも、以下のnoteで指摘するとおりです。

同書にも引用されているある研究は、女性リーダー(ヒラリー・クリントン氏、アンジェラ・メルケル氏)の写真を飾られた部屋でスピーチをした女子学生は、男性リーダー(ビル・クリントン氏)の写真を見た場合や、だれの写真を見なかった場合より、スピーチが長く、スピーチへの自己評価と審査員による評価も高かったことを明らかにしました。
(より詳しくは、『WORK DESIGN:行動経済学でジェンダー格差を克服する』第IV部ダイバーシティのデザイン を参照されたい。)

また、先述のイワヤンさんのnoteでも引用されていますが、あるインドの村では1993年に農村の村議会の議員の3分の1を女性枠とする方針を策定。すると、議員になった女性たちは公共サービスへの投資を増加させたり、女性議員たちがより活発に発言するようになった等、短期的にも変化をもたらしたことに加えて、女性のロールモデルが登場したことにより、親たちが娘の将来に対して抱く願望も変わったことが報告されています。具体的には、女性議長を2人以上経験した村では、親が娘に高等教育を受けさせたいと考えるケースが増えて、教育の男女格差がほぼ解消されたそうです。クオータ制の導入により、ロールモデルが生まれ、これまでの常識の範疇にとどまらない女性の人生にも、価値が見い出されることになったといいます。

"クオータ制が導入されたことにより、「ニワトリが先か、卵が先か」という問題が解決された。人々が女性リーダーに偏見をもっていれば、女性がリーダーの座に就くのは難しいが、女性リーダーを実際に見なければ、古い偏見を改めるのは難しい。その点、村議会に女性枠が設けられたことで、インドの農村の有権者は、歪んだステレオタイプに基づいて判断するのではなく、実際に役職について職務をおこなう女性リーダーたちを見て判断できるようになった。そのうえ、インドの女性すべてがロールモデルから学び、刺激を受けられるようになった。"(『WORK DESIGN:行動経済学でジェンダー格差を克服する』第IV部ダイバーシティのデザイン)

これからのロールモデル

「じゃあ、女性のロールモデルを増やしましょう!」と言っても、それは何も言っていないに等しいでしょう。ここからは最近わたしが「こういうベクトルがいいんじゃないかなぁ」と思っている方向性についてお話します。

「ロールモデルを増やす」ための構成要素は、女性の数と多様さ が鍵になると考えています。 数を増やす必要性は、上のクオータ制のエピソードからも明らかでしょう。

今の日本社会のように、絶対数が足りていない状況では、まずは事例を生むために数を増やしていく必要があると思います。絶対数が少ない状況下では、特定の属性(例:シスジェンダー男性)だとロールモデルとなるようなリーダーの誕生が容易な一方、別の属性の人(例:女性)にとっては隠れた障壁が存在している場合があります。それは、そのポジションの働き方であったり、構造的なものであったり、あるいは無意識バイアスであったりと様々で、一枚岩ではありえません。まずは、それらの障壁の存在に想像を働かせることが第一歩でしょう。

また、女性の数を増やしていくことに加えて、「色んなタイプのリーダー像」という多様さが、見落とされがちでありながら重要な要素だと思っています。現状、女性のリーダー像というと「つよつよ」「バリキャリ」なんて言葉で形容されるような人が多かったような気がします。しかし、当たり前ですが、世の中にはその形容詞には当てはまらない女性も当然たくさんいるわけです。そういった多様なあり方が、リーダーシップ像にも反映されていくと良いなと思います。

(ちなみに先述のYOUTRUST代表岩崎由夏さんや、ミレニアル女性向けのキャリアスクールSHE likes代表の福田恵里さんは、スタートアップ起業家でありながら出産も経験した母であるという新しいキャリアを切り開いており、多様なリーダーシップ像の実現という点においても大きく寄与していると思います。彼女たちをみて、起業家を目指す女性も増えていくだろうな、そうだといいな、と勝手に思っています。)

女性の数が増えることで、ともなって多様さも上がる部分はあるでしょう。しかし、もしわれわれが現時点で持っている「女性のリーダー像」に多様さがなければ、新しいリーダーを選ぶ際にも、そのリーダー像に当てはまらない人を無意識に「リーダー素質からの逸脱」と判断してしまう可能性があると思います。すると、本来リーダーとしての能力を持っていても、選ばれなくなってしまうでしょう。ここはある程度、意識的であらなければ、無意識に持っている「リーダーになる人はこうあるべき」という画一的な規範を、リーダーを目指す本人も、その周りの人も内面化してしまい、より強固な規範にしてしまうのではないかと考えています。(これを勝手に自分で、「女性リーダー像のトラップ」と呼んでいます。)

最近は、大手企業の子会社社長を女性が務める事例も増えているそうです。この記事に登場する日本IBMデジタルサービス社長の井上裕美氏は、「強い女性社長のイメージを壊す」ことに取り組んでおり、"等身大のリーダー像をグループの次世代に広げていくことも自分の仕事だと考えている"と紹介されていますが、これはまさに女性リーダー像のトラップをかわしながら、多様なロールモデルの誕生に大きく寄与する取り組みだと思います。

VCとして何ができるか?

ベンチャーキャピタリストという職業を活かしてこの問題に対して何ができるか、というのも私がよく考えるテーマです。こと日本のスタートアップ業界では、女性の起業家はマイノリティですが、女性の起業家を増やして業界のエコシステムをより良くするには何ができるか、日々奮闘しています。

女性の起業家を増やすために必要な要素の一つに、「ロールモデルを増やすこと」が挙げられる点には確信がありますが、先に述べた女性リーダー像のトラップに陥ることなくロールモデルを増やすにはどんな仕掛けが必要なのかはまだ答えの出ていない問いだと思います。

そこでANRIではまず、数値目標を立ててメンバー皆で達成に向けて動いています。

ANRI4号ファンドでは、全投資先のうち女性が代表を務める企業の比率を最低でも20%に引き上げる投資方針を決めました。これは、数を増やす取り組みでもありますが、多様性の部分も意識しながら進めたいと思っています。

長くなってしまいましたが、この問題にタックルするには、一人ではリソースも与えられる影響もかなり限定的です。この動きを、スタートアップ業界に、そして日本社会に波及させていくには、もっとたくさん仲間を作る必要があるなと日々感じています。もし、これを読んでいる人のなかで、なにか一緒にできそうな試みがある人は遠慮なく連絡してほしいですし、身の回りに女性の起業家の方がいて資金調達等に動いていれば、ぜひDM等で相談いただけると嬉しいです☺️


ワーイありがとうございます!