見出し画像

「手話通訳見てられない」...都知事選政見放送における手話通訳・字幕の問題点


先日、東京都知事選挙の政見放送がありましたが、かなりモヤモヤしてしまいました。政見放送に手話通訳がついていたのは以前からですが、今回は新たな課題が浮き彫りになりました。さらに、手話通訳と字幕の必要性について、まだまだ多くの方に知られていない点もあります。ここでは、これらの問題点と解決策を改めて整理してみます。

政見放送とは?

政見放送とは、公職選挙法に基づいてNHKと民放に義務づけられた放送で、衆議院選挙、参議院選挙、都道府県知事選挙で行っています。選挙において政見を放送するもので、国政選挙と都道府県知事選挙でのみ行われます。国政選挙ではスタジオ録画持込ビデオの2つの方法があります。スタジオ録画は、候補者が放送局に出向いてスタジオで収録を行う方法です。持込ビデオは、プロモーションビデオのような動画を事前に作ったものを放送局に持ち込んで放送する方法です。こちらは、自由に映像を加工することができるので、自分で字幕をつけたり、手話通訳を入れたりすることができます。また、政見放送の対象となる選挙においては、政見放送とは別に、学歴や職歴といったプロフィールのみを簡単に紹介する経歴放送を行う時間が設けられています。

一方、都道府県知事選挙の場合はスタジオ収録のみですので、字幕付与は、時間の関係でつけることが難しくなってしまいます。(詳細後述)

政見放送は、NHK総合テレビ、NHKラジオ第1、MXテレビ、TBSラジオで行われています。例えば、NHK総合テレビでは、6月24日(月)から7月4日(木)にかけて政見放送が行われる予定で、既に放送された分に関しては、今回、次に記載するような問題点が露呈しました。

新たに浮き彫りになった問題点

問題点1: 当選目的でない立候補者、どうにかならない?

「手話通訳見てられない」と感じる場面がありました。当選を目的としない立候補者が政見放送を乱用するケースです。これでは選挙の公平性が損なわれ、有権者に誤解を与えます。

今回の政見放送では、多様な候補者による非常にユニークな内容が放送されました。特に、ジョーカーの姿で机の上に椅子を置いたり、カメラに接近して笑い続けた男性候補、大きな紙で顔を隠しながら話した男性候補、放送中にシャツを脱ぎチューブトップ姿になった女性候補が注目を集めました。

手話通訳を介した品格を欠けた候補者の言葉の内容は見るに耐えないものでした。前回の都知事選政見放送でもちらほらありましたが、具体的な政策の主張もなく、自己PRや党の思想のPRとしか思われないものが今回より一層目立って来たように思います。

旧来の政見放送の制度やルールでは当選目的でない立候補者のことは想定されておらず、通訳者の安全や尊厳も守りつつ情報が公平に伝わるように、時代に即したルール作りが必要だと思います。

補足:公職選挙法では、手話通訳に関しては、手話通訳士(厚生労働省が定める公的資格)と規定しています。

以前から指摘されている問題点

手話通訳と字幕の両方が必要な理由は、多様な聴覚障害者に対応するためです。手話を使用して生活をしている方にとって手話通訳が、手話を習得していない方にとっては字幕が、それぞれ重要な情報源となります。そのため、手話通訳と字幕の両方を提供して、視聴者が自由に選択できるようにすることがとても大切です。

ちなみに、公職選挙法では、手話通訳と字幕について、制限する規定はありません。規定に違反する場合は、中央選挙管理会と協議の上、字幕番組としないとあるだけです。

以前に東京オリンピック開会式放映において、手話通訳がつかなかった時に同様に「手話通訳と字幕の両方が必要で、視聴者が自由に選択できることが大事である」ことを述べた記事があるので、関心がある方はぜひご覧ください。

問題点2: 手話通訳をつけるかどうかが候補者次第?

手話通訳をつけるかどうかが候補者の選択に委ねられていることも問題です。これでは、手話通訳が必要な有権者に十分な情報が届きません。政見放送における手話通訳費用は選挙管理委員会が負担することになっていますが、その啓発が不十分であったり、党や候補者自身の手話通訳に対する認識が不足していることが原因です。

障害者による情報の取得利用・意思疎通にかかる施策を推進することを定めている障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が施行されている現在では、候補者全員に手話通訳の提供を義務付けても良いのではないでしょうか。

以前の記事(2021年)ですが、朝日新聞が国会議員選挙に関して各政党の対応をまとめていたので、関心のある方はぜひご覧ください。

問題点3: なぜ字幕が提供されていないのか?

政見放送に字幕が提供されていないことも大きな問題です。放送局側での原稿作成や内容確認等のための体制構築が難しいことが理由とされていますが、これは改善を求めたい点です。今回の場合、過去最多の52人が政見放送を実施し、合計で約11時間にも上るため、困難さが増してきています。

現状の音声認識の技術では、話し方によっては文字変換が正確でない場合もあり、修正が必要である場合があり、内容確認に時間がかかることを考慮すると導入が難しいという実情があります。将来的には、音声認識技術の向上を含めた字幕生成の効率化により、字幕付与が可能になることを期待したいです。

手話通訳や字幕のどちらとも必須にすることができれば、聴覚障害者など、視覚情報に依存する有権者への配慮を強化できます。そうすることによって、全ての有権者に公平に情報を届けることができます。

問題点4: 手話通訳へのストレス配慮が足りない!

過去(2021年 衆議院選挙 神奈川15区 政見放送)に「手話通訳大丈夫?」と思わざるを得ない状況がありました。まず、立候補者が手話通訳を襲うかのようなそぶりを見せたことです。これは手話通訳にとって大きなストレスになります。同じことが今回の都知事選政見放送でも起きないとは限りません。

政見放送の場で、通訳者が安心して仕事をするためには、彼らの安全を確保する環境が必要です。例えば、別室で通訳を行い、画面にワイプで表示する方法などがあります。コロナ禍の際には、感染防止のために手話通訳を別室で行うことが行われており、この時と同じ方法が使えます。

これにより、通訳者が物理的に立候補者から距離を置けるため、安全性が高まります。さらに、心理的な負担も軽減され、より正確な通訳が可能になります。通訳者の安全と精神的負担に配慮した方法の導入は急務です。

すべての有権者が平等に情報を得られる選挙制度を築くために

これらの課題を解決するためには、選挙制度の定期的見直しと改善が必要です。すべての有権者が平等に情報を得られる選挙制度を築くために、私たち一人ひとりが声を上げていくことが求められています。具体的なアクションとして、政見放送制度に対する意見を提出することが挙げられます。例えば、意見提出先としては、総務省や選挙管理委員会などがあります。

東京都知事選挙の場合は、選挙管理委員会は、東京都選挙管理委員会宛になります。

ちなみに、NPO法人インフォメーションギャップバスターでは、総務省に対して以下のように選挙における現状の課題をまとめて要望しましたので、関心がある方はぜひご覧ください。

今回のような政見放送における問題点のうち、問題点1については、選挙公報でも同じようなことが起こっています。また、立会演説において屋外では字幕をつけることができないなど、問題点が残っています。このような問題点にも触れ、改善を訴えていくことが大切です。みんなでより良い選挙を目指していけたらと願っています。


あらゆる人が楽しくコミュニケーションできる世の中となりますように!