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”経済大国ニッポン”時代の競馬小説。〜清水一行「匿名商社」を読んだ。

この、表紙が怖い小説を読み終えました。

清水一行著「匿名商社」
1996年発行(単行本は1974年)


中身はというと、中規模の商社が、不動産会社を隠れ蓑にノミ屋事業で荒稼ぎする、というものです。

読んだことのない雰囲気の本。

競馬のレースや競走馬の名前など、すべてフィクションなのかと思って読んでいたら、途中で1972年(昭和47年)頃の実際の競馬に基づいていることに気づきました。

この時代の競馬は知らないのですが、Wikipediaにこんなページが。

強い世代として知られていたようですね。
(ロングエース、タイテエム、ランドプリンスの3強が世代の中心。さらに、同年の有馬記念を勝つイシノヒカル、翌73年の有馬記念を勝つストロングエイト、73年の天皇賞(秋)、74年の有馬記念を制するタニノチカラ、中山大障害四連覇のグランドマーチスもこの世代だそうです。)


ただ、小説にはあまりレースそのものは描かれず、ノミ屋事業が急速に拡大していく様子と、商社をやめてノミ屋会社を切り盛りすることになるモテモテの主人公と、彼を取り巻く3人の女たちとのロマンスがストーリーの中心です。


個人的に楽しめたのは、物語そのものより、ノミ屋という商いが繁栄していた時代背景が垣間見えたところでしょうか。

例えば、当時は今のようにいつでもどこでも馬券が買えるわけではなく、馬券流通が不整備だったこと。
インフレを背景に、誰もが”何かに賭けていないと損をするのではないか”というムードが充満していたこと。

小説でもこのように表現されています。

 三流大学の事務長といい、小病院の医師といい、金が余っている。その余っている金で思いきり大きなギャンブルをやりたがっているのだった。GNP世界第二位、経済大国ニッポンには、正体不明の金持ちがごろごろしていた。

358pより引用。


”経済大国ニッポン”


なんとも懐かしい響きです。。


確かに、競馬産業も、この頃は売上も急成長、サラブレッドの生産頭数もうなぎのぼりだったようです。

競馬産業界隈にある種のダークさが色濃く残っていた時代かもしれません。

この時代の雰囲気を感じてみたい方にはおすすめできる小説です。

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