見出し画像

出遅れは騎手のせいじゃない。〜小島太「競馬八方破れ 言いたい放題」を読んだ。

こちらの本を読み終えました。

小島太著「競馬八方破れ 言いたい放題」

1993年発行

小島太と言えば。

サクラショウリとサクラチヨノオーでダービーを2勝。他にも、数多くの”サクラ”の馬に騎乗。馬主・さくらコマースの全演植ジョンヨンシュク氏を親父と呼び、日本では珍しいオーナーとの騎乗契約を結ぶほど絆が深かった。
ジョッキーとしては通算勝利1024勝。引退後、調教師に転身後もG1三勝のマンハッタンカフェを管理するなど活躍し、2018年2月に定年退職。
この本は、1993年発行なので、騎手としての晩年にあたる時期に書かれた本だが、この時期にサクラバクシンオー、サクラチトセオー、少し後にサクラローレルにも騎乗して引退直前まで大レースをいくつも勝っている。

個人的に印象深いのは、1995年の秋。
サクラチトセオーで秋の天皇賞、妹のサクラキャンドルでエリザベス女王杯を勝ち、距離不向きと思えたチトセオーを有馬記念で3着に追い込ませた騎乗ぶりをよく覚えている。


本の内容。

この本は、競馬人気が盛り上がりを見せる中、自分の立場から言えることをファンに伝えておきたい、という意図で書かれたようで、以下のような構成になっている。

<1>ダービー2勝ジョッキーが四コーナーで考えたこと
<2>いまだから話せるあの人のこと
<3>馬券のヒントになることも話してしまおう
<4>オレが言わなきゃ誰が言う

<1章>では、サクラショウリ、サクラチヨノオーとのダービー制覇の話はもちろん、「短距離なら一番強い」と語るサクライワイや、サクラシンゲキ、トーヨーアサヒ、サクラロータリーなどについて思い出が書かれている。
(イワイについて「短距離で一番強い」と語っているが、執筆の時点で、同じく短距離の歴史的名馬・サクラバクシンオーはまだ本格化していないのでこう書いたのかもしれない。)

<2章>では、”オヤジ”全演植ジョンヨンシュクオーナーや、"アンちゃん”と呼び親交の深かった中島啓之元騎手(コーネルランサーで昭和49年のダービーに勝利)、同期で”血を分けた兄弟”というほどの仲間である田島良保(ヒカルイマイで昭和46年の皐月賞・ダービーに勝利)などなど、親交のある競馬界の人物について語っている。
なお、”競馬ファン”についても語っており、当時増えていた”競馬ギャル”よりも、昔からの競馬ファン(競馬おやじ)たちの方が好き、とも語っている。

ひとつ飛ばして<4章>では、競馬本には必ず内容に含まれる、競馬界に対する提言。この本では、西高東低の状況や、若手騎手に対する苦言(もっとも、当時まだ若手だった武豊に対してはベタ褒めしている。)、レース番組に対する提案などなど。


3章の「馬券のヒントになることも話してしまおう」に含まれる内容が、特に現在の競馬にも通じる部分が多かった気がするので、この記事ではその中の、スタートに関わる部分を取り上げたい。


出遅れは騎手のせいじゃない。

”「スタートのうまい下手」と「出遅れ」は、あまり関係がないんだ”という章で、スタート・出遅れについて、非常に重要(と思えそう)なことが書かれている。
少し引用してみる。

 スタートのうまい下手というのは、おおよそは馬によるね。
 ファンは簡単に、「あいつはスタートがうまい」「あいつは下手だ」というふうに言うけど、それはちがうんです。(中略)
 あんなもん、人より先に出ようと思ったって、閉まっているものは出られるわけがないんだ。だから、遅れないように出れば、それでいいんです。
171pより引用。
 馬というのは例外なく、早くゲートの中から出よう、早く出たい、という性質を持っている。だって、あんな狭苦しいところに押し込められていたいわけがないよね。だからガタガタしたり、キョロキョロしたりする。なかには、あんまり長く待たされるもので、立ち上がって引っくり返ってケガをする馬もいる。
 たまたま出遅れたときに、
 「このバカ野郎、出遅れやがって」
 というふうにみる人は多いだろう。だけど、こっちにしてみればそんなときは、
 「わかりもしねえくせに、ふざけるんじゃねえや」
 と思う。なぜかと言ったら、騎手にはだれも、出遅れなんかしようと思っているヤツはいないんだから。
172pより引用。
 ちょっと逆説的に聞こえるかもしれないけど、「スタートのうまい下手」というのと、「出遅れ」ることとは、あまり関係がないんだ。
 「スタートの遅い馬の出遅れ」というのは、絶対ない。「出るのが遅い」というのと、「出遅れる」ということは、全然ちがうんだ。分かるかな。
172-173pより引用。


うーん。分からない。(読んでいる方、わかりますか?)
もう少し続けて引用。。

 むしろスタートの速い馬にこそ、出遅れがあるんだ。
 特別、速く出るような馬というのは、それだけタイミングがピシャっといくから速く出られるんですよ。
 ところが、そういう馬は、ちょっとでも歯車が狂うようなことがあると、もうダメなんだ。
 うんとすごい馬であればあるほど、ゲートの中でじっとしていられないから、それだけアクシデントが起こる可能性も高いわけだ。
173pより引用。

ちょっとわかった・・気がする。
まとめると、こういうことのようだ。

 要するに、スタートでいちばん肝心なことは、「人より速く出よう」と考えるよりも、「みんなに遅れないように気をつける」ことだと思う。
 出るのが速い遅いということを別にすれば、騎手には、たしかにスタートの上手、下手というちがいはあると思う。うまい騎手は、ゴーンとゲートが開いたときに、お尻がスポンとすぐ上に高く上がって、踵もスーッと上がる。つまり前傾姿勢になるんだ。前傾にしてやれば、馬との折り合いも早くつく。
 ところが、それを分かっていない騎手は、早めに踵を下げてしまって馬の上で立ち上がった格好になる。そうなると、早くゲートを出たがる馬との折り合いがうまくいかず、馬とケンカすることも多い。
174pより引用。

うーん。深い・・のだと思う。
なかなか、言葉で説明するのも難しいのだろう。
ただ、先日のNHKマイルでも、武豊騎乗のジャングロが大きく出遅れ最後方からの競馬となったが、あれについても藤田伸二元騎手が、youtubeで「あれは馬のせい。」と解説していた。

NHKマイル。1番マテンロウオリオン(横山典)、10番カワキタレブリー(菅原)、13番ジャングロ(武豊)の3頭。藤田元騎手の解説によると、これら全てが”出遅れ”と言うわけではないらしい。
藤田元騎手によると、13番ジャングロは馬がチンチンのような格好になり、タイミング悪くゲートが開き、”出遅れた”。10番は出遅れではなく、”立ち遅れ”という表現で解説されていた。1番は普通に出ており、鞍上の意識としてあくせく前についていくのを避けた、ということらしい。

福永祐一が藤岡佑介との対談本の中で、「出遅れは調教不足が原因(=騎手のせいではない。)」とも語っていた。とすると、出遅れる馬が多い厩舎、というのはあるのかも?

スタートの巧拙は騎手によって確かにあるように思えるのだが、(福永は確かに上手いと思う。)最低限、小島氏が言うように、”「人より速く出よう」と考えず、「みんなに遅れないように気をつける」”ことが重要ではあるらしい。

なので、”スタートが遅い馬”は、ゆったりとゲートが開いたタイミングで出るしかないので、”出遅れることはない”、ということになるのだろうか…。

だいぶ”スタート・出遅れ”寄りの記事になってしまった…。

今回紹介した本、またまた古いものではあるが、読んだことにより、今の競馬と繋がって色々考えさせられることもある、という一つの例ではあると思う。


<5月14日夕方追記>
出遅れの考察をしたら、翌日のメインレース・京王杯スプリングカップで、レーン騎手騎乗のギルデッドミラーが思い切り出遅れた。

3番・馬が立ち上がっている。
軽く5〜6馬身はあろうかというビハインド。

これは、ゲートが開く直前、馬がゲート内で二度も立ち上がってのもので、完全に馬のせいと言えるだろう。

最近、上級条件の大きな出遅れの方が目立つ気がするが、気のせいだろうか・・。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?