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くすのきしげのりの世界

絵本作家というと文と絵の両方を担当している人が多い印象がありますが、漫画家に漫画原作者と作画担当が分かれている場合があるように、絵本でも文と絵が別の人によることはよくあります。ただその場合でも組み合わせが固定化されていることが多く、古くは姉妹であったり、また最近は夫婦でそれぞれを担当してひとつのユニットとなっている場合も多いようです。そんな中でくすのきしげのり氏はすでに100冊以上の絵本原作を手がけていますが、絵はさまざまな人が書いているので、この絵の人、というイメージの固定化からは縁遠く、作者としてあまり意識されていないかもしれません。図書館の絵本の分類を見ても文と絵が別の人の場合は絵の人の名前の五十音順にするパターンが多いように思います。
くすのき作品の共通点を挙げると登場人物の台詞が関西弁のことが多い点がありますが、ご本人のプロフィールを見ると徳島の方のようです。そして何より、ストーリーにほろっとさせられる場合が多いこと。絵本に出てくるのと同じ年頃の子どもがいるとなおさらです。また絵本には珍しい気がしますが、あとがきないしは作者のことばが収録されていることが多いのも特徴でしょうか。仕込まれていたネタがそこで明かされていることもあります。そんなくすのき作品からいくつかピックアップしてみました。

おこだでませんように

くすのきしげのり 作, 石井聖岳 絵 『おこだでませんように』 (小学館,2008)
七夕の絵本でもあります。家でも学校でもいつも怒られてばかりの1年生の男の子の内心が綴られます。お母さんや先生から見ると問題行動ばかりにしか見えないのも分かります。しかし本人に悪気はないし、個々の行動の理由もあるのです。七夕の願いを短冊に書くことになり、一所懸命に考えて一文字ずつ心を込めて書いた願いがタイトルの言葉です。ここで偉いのはその祈りともいえる願いを先生がしっかり受け止めてくれていて、お母さんにもそれをちゃんと伝えてくれている点です。このあたりはあとがきで作者の願いとして触れられています。

ぼくのジィちゃん

くすのきしげのり 作, 吉田尚令 絵 『ぼくのジィちゃん』 (佼成出版社,2015)
2年生のヒロシは走るのが遅く徒競走のある運動会が嫌です。PTAクラス対抗リレーの選手である父さんと練習しますが一向に早くなった気がしません。運動会前夜、田舎からジィちゃんがやってきますがなんだかかっこ悪い。徒競走でやはりビリになって落ち込んでいるところへ、父さんがトラブルで出社せざるをえなくなり、リレーのアンカーにジィちゃんが立候補します。好々爺然とした小柄な老人に完全に舐めている他チームの選手。子供たちも嘲笑していますが、ここからがまさかの展開。裏表紙でヒロシ君が着ている"テー"シャツで心酔振りが読み取れます。

ひとりでえほんかいました

くすのきしげのり 作, ゆーちみえこ 絵 『ひとりでえほんかいました』 (アリス館,2017)
自作の「ひとりでおかいものけん」を誕生日のプレゼントにもらったかおりちゃん。(何歳とは出てきませんがケーキの蝋燭は7本)おばあちゃんといっしょに街の本屋にいき、いろいろ引っかかったり、隣の子のお母さんを探してあげたり、尿意を覚えたりしつつ、知り合いの書店員のお姉さんの助けも借りてようやく絵本選びに。絵本がたくさん描かれるとなるとやはりここは仕込んでくるのが作者の絵本。絵の人の作品の「えらいこっちゃのようちえん」や「ねむりいす」は実名で登場。(作は別の人)そして、「おこだでませんように」そっくりの装丁の「おこられました」や「ええところ」にそっくりの「いいところ」。ついそちらに目がいきますが、いっぱい迷っていいという書店員さんの言葉がとても心強いひとことです。

わたし、もうすぐ2ねんせい!

くすのきしげのり 作, 江頭路子 絵 『わたし、もうすぐ2ねんせい!』 (講談社,2016)
卒業するお姉ちゃんにまだおめでとうと言えないでいるみさとちゃん。言おう言おうとしているのに、憎まれ口を叩いてしまうのは仲のいい5歳違いの姉妹ならではなのでしょう。きっとピアノを間違える、と言ったその憎まれ口を強く後悔することになります。歌の途中での体育館全体の静寂と再開。最後の一緒の下校時にやっと言いたかった言葉を言えます。「いちねんせいの1年間」シリーズはすべてくすのきしげのり作で絵はそれぞれ異なる人での6冊のシリーズ。1年間の最後を飾りタイトルどおりにひとつお姉さんになる展開へつなぐのがこの本です。

メロディ だいすきなわたしのピアノ

くすのきしげのり 作, 森谷明子 絵 『メロディ だいすきなわたしのピアノ』 (ヤマハミュージックメディア,2012)
版元はヤマハの楽譜出版部門。他に絵本は出していないようですが、帯の「これからピアノを弾くあなたへ。そしてかつてピアノを弾いていたあなたへ。」というキャッチフレーズがぴったりなのと同様、ピアノ目線で描かれるこの物語にはこれ以上ない納得の版元です。
工場から出荷されて店頭に展示され、ある女の子に気に入られて、「メロディ」と名づけられたピアノ。毎日弾いてもらい幸せな日々を送ります。しかし女の子が中学生になり高校生になると、あまり弾かれることがなくなり、何年も経ち部屋から運び出されてしまいます。ピアノの代わりに何を置くかという話を聞いて自らの運命を悟り、解体されるであろう工場に入ると自ら眠りにつきますが・・・。
とある箇所に※印とSを一つにしたような記号があります。セーニョマークというそうですが、これは物語の最後のD.S.(ダル・セーニョ)、そして途中のFineに呼応しています。ストーリー自体が一種の楽譜になっているわけで、その意味でもこの版元なわけですね。「おんなのこ」という表現も実は伏線であったことが分かります。表紙には連弾している女の子が二人。この二人って?服装を確かめるとやはりそうでした。



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