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5. 映画「僕が跳びはねる理由」の問題

 さて、ようやくFCの説明をしたところで、問題の映画『僕が跳びはねる理由』の話に入っていきましょう。

 改めて説明しますが、この映画は世界各地の自閉症の青少年の姿を取材し、東田直樹さんの著書からの引用を挟んで、自閉症の世界とは何かを描き出す映画です。

 いくつかのパートに分かれており、①インドの女性・アムリットさん ②イギリスの青年・ジョスさん ③アメリカの男女二人組・エマさんとベンさん ④シエラレオネの少女・ジェスティナちゃんとそのご両親 の生活が紹介されていきます。

 大きな問題があるのは、③の「アメリカ編」です。

 この映画の監督はこのパートで、FCの紹介を大々的に行っています。

 そう、勝手に言葉を作ってしまうFCをです。

 それも、とても感動的に。

 アメリカ編に登場するエマさんとベンさんは、幼稚園からの幼馴染み。映画のパンフレットによるとベンさんは現在23歳。エマさんも同じくらいなのでしょう。

 映画を見る限り、二人は直接に言葉を交わしたりはしないのですが、なんとなく近くにいて、一緒に行動しているように見えます。もしかしたら「友達」という感覚ではないのかもしれないけれど、「一緒にいて嫌じゃない存在」であるなら、それは十分素敵なことですよね。

 しかし、映画での二人の紹介には、常にFCが付きまといます。

 いわく、二人がお互いを友達だと思っていることが、FCでの発言によって確認できた。いわく、ベンさんはFCを使うようになる前の境遇を「人権の否定」であると考えていた。いわく、エマさんは以前に受けさせられていた教育を「時間の無駄」であると考えていた。

 すべて「今まで誤解されてきた真実がFCによって明らかになった」という構図です。

 しかし、ここまで私の記事を読んできてくれた方にはお分かりでしょう。

 これらは「FCによって作られた真実」なのです。本当の真実ではありません。

 たとえ自閉症で知的障害があるように見えても、本当は高い知性を持っている。文字盤やキーボードを使えば健常者のように会話ができる。今までの学会は自閉症者を誤解してきた。真実はこうなのです。自閉症者は豊かな能力を持つ素晴らしい人たちだと分かりました。私たちの取り組みは世間の偏見をくつがえす素晴らしいものです。

 ……どうでしょう。もしあなたが「FC」の真相について知らなかったら、思わず飛びついてしまいたくなる結論ではないでしょうか。

 実際にそうなのです。映画サイトのレビューを見れば、そこには驚嘆と称賛の声があふれています。自分は今まで自閉症を誤解していた、真実を知ることができて良かった、という感動の嵐です。

 どうして彼らを責められるでしょうか。映画の背景にFCの問題が潜んでいることなど、どこにも書いていないし誰も教えてくれないのです。

 実は映画でも、ちらりとその話題が出ます。彼らが自分で書いているということを疑われるケースがあると。ほんの少し、ほのめかすように。ただそれだけ。見た人にはそれが何を意味するのかまるで伝わらないでしょう。

 ……続きはまた。