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素人が「あかさたな話法」をマネしてはいけない理由

 最近目にする機会が増えた「あかさたな話法」という言葉。
 障害のある方とのコミュニケーションに使用されるとのことですが、私個人的には「慣れない方がマネをしたら危ないのでは…!?」と心配に思っています。
 今回の記事ではその理由を4つに分けて説明したいと思います。
(※もし私が誤解している点がありましたらご指摘ください)

1.子供や学生さんがやるのは危ないかも??

 これは「あかさたな話法」に限らないことなのですが、外国語通訳など、コミュニケーションの橋渡し役には大きな責任が伴います。
 しかし、当然のことながら若いうちは誰しも「責任」に対して未熟なものです。また、周囲の大人からの期待に無意識に応えようとしてしまう心理もあるでしょう。錯覚で「通訳できた!」と思い込まないように、細心の注意を払うことが重要だと思います。

2.成熟した大人でも危ないことがある??

 「あかさたな話法」に似た要素のある支援方法として「ファシリテイテッド・コミュニケーション」というものがあります。通称「FC」です。
 この「FC」に関連して、2015年、米国ラトガース大学のアンナ・スタブルフィールド氏が、重い障害のある男性に対して不法な性的行為を行ったとして訴えられる事件が起きました。彼女は2018年、最終的に有罪を認める形で裁判を終えています。(ソース
 一体なぜこのような事件が起きてしまったのでしょう? それは彼女が「FC」によって、男性と恋愛関係を築けていたと思い込んでしまったためです。彼女は被害者の男性と2009年頃に知り合い、2011年まで緊密に「FC」の介助者を務めました。そして、あやまちを起こしてしまいます。スタブルフィールド氏自身は、自分が十分に「FC」を行う能力を持っていると信じていましたが、それでも事件は起きてしまったのです。(ソース
 もちろん「FC」と「あかさたな話法」はイコールではありませんが、同様の悲劇を繰り返さないためにも、私たちは歴史に学んでいく必要があると思います。

3.日本語の方法でも危ないことがある??

 一つ上で紹介した「FC」は、基本的にアルファベットを利用して行われる通訳です。一方、「あかさたな話法」は日本語の五十音を利用して障害者の言葉を読み取ります。
 ただ、日本語を使っているから安心というワケでもありません。
 これは私の経験談なのですが、私は「あかさたな話法」によく似た仕組みの「あかさたなスキャン」という方法を実際に見たことがあります。それを行っていたのは日本の大学教授の方でしたが、彼は徐々に「あ、か、さ、た、な…」という言葉を使うのをやめ、最終的には「障害者の肩に手を置いただけでスラスラと言葉を読み取れる」状態になっていました。(当時のレポ
 こう書くとまるでテレパシーですが、たとえテレパシーであっても正確な通訳であるなら私は問題はないと思います。…とは言え、本当に『正確なテレパシー』なのかどうか、検証実験は行ってほしいと思いますが…。
(★検証方法の例は記事の一番下に書いておきます)
 ちなみに教授が「あかさたな…」を省略して素早く読み取りができるのは「予測変換」に近いことを行っているからだそうです。(ソース

4.ちゃんと手で触ってみても危ないことがある??

 「あかさたな話法」は障害のある方の体に手で触れて、その体の動きを読み取るコミュニケーション方法です。先に述べたテレパシーのような手法に比べれば、だいぶ正確そうに感じられるかもしれません。
 しかしながら、ちゃんと手で触れたとしても一つ大きな問題があります。
 それは不随意運動です。
 口頭や筆談でのコミュニケーションが難しい障害を持つ方の中には、体に不随意運動が現れるタイプの方も少なくありません。不随意運動とは、自分の意思とは無関係に体が動いてしまう状態のことです。
 もし障害のある方に触ってその動きを読み取ろうとしても、不随意運動が混じれば、どれが正しい合図か分からなくなり、間違った言葉を読み取ってしまう事もありえるでしょう。こういった可能性を考えると、「あかさたな話法」を誰にでも使ってしまうのは問題があるかもしれません。


 以上が、私の「素人が『あかさたな話法』をマネしてはいけない」と思う4つの理由です。今もしかしたら、テレビなどで「あかさたな話法」を見て、「自分も試してみたい!」「世間に広めていこう!」と前向きに考えている方もいるかもしれません。
 普段コミュニケーションが難しい障害者の方に対し、「もっと話してみたい」「相手のことを理解したい」と思う気持ちは本当に素晴らしいと私も思います。私もそういった方に出会った時は、変に遠慮せずに全力で会話できるよう努力しています。(まだまだ未熟ですが…)
 しかし、そういった大切なことだからこそ、一度立ち止まって慎重に考えた方がいいケースもあるのではないかと私は思います。

 この記事が「あかさたな話法」に興味を持っている方のご参考となれば幸いです。

★検証方法の例(昔からあるものです)

  1. 通訳をされる側の障害者の方に、録音した音声(例:りんご)をイヤホンなどで聞いてもらう。この際、通訳をする側の介助者には別室などで待機してもらう。

  2. 介助者が障害者の方に、聞いた音声は何か尋ねて、それを読み取る。

  3. 実際に障害者の方が聞いた音声と合っているかを記録。

  4. これを繰り返し、どのくらいの精度で伝達ができているか検証する。