見出し画像

ベンさんとエマさんのFCが本当ならノーベル賞ものであるという問題

 映画『僕が跳びはねる理由』のアメリカ編において、ベンさんとエマさんは「自閉症であるが、FCを使えば高い知能を発揮し、内面が健常者と同じであることを示している」という扱いをされています。

 しかし、これが本当なら現在の「自閉症」の概念はすべて間違いで、介助も治療も全部誤りという、ノーベル賞級の大発見になるはずです。

 そんな大胆な話が映画ではなぜサラッとしか語られていないのか。

 自閉症についてあまり詳しくない人、近くで接したことがない人から見れば「へ~そうなんだ」で流してしまいがちな主張かもしれませんが、少し考えてみると不自然なことに気付くと思います。
 世界中のお医者さんも介護者の人も研究者もみんな間違っている!という驚愕の事実を扱っていることに、映画製作者たち自身ですら気付いていないかのようです。

 もしFCを使わない限り自閉症者たちはみんな人格を誤解されて生きている、ということなら、それは大変なことで、どの自閉症者にもFCを使わせるべきだ、という話になるでしょう。

 作中に出てきた他の自閉症者、インドのアムリットさんも、イギリスのジョスさんも、シエラレオネの、あの楽しそうに遊んでいたジェスティナちゃんも、みんな誤解されているということになります。

 なぜ映画ではその点に触れないのでしょう。

 あれこれ考えてみましたが、整合性のある答えは思い浮かびません。

 苦労しながらもFC無しでジョスさんとコミュニケーションを取ろうとしていた彼のご両親が、本作のプロデューサーを務めていることを考えるとますます腑に落ちなくなります。映画通じて「FCで健常者のようにコミュニケーションが取れるよ!」と言われて彼らはどう思ったのでしょう?

 映画製作者たちの中で「自閉症とは何か」という基本的な知識が共有されていなかったのでは、というのが私の想像できる範囲での答えでしょうか。

 ……続きはまた。