子を持つ親に見てほしい、命がけの旅「ミッドナイト・トラベラー」


今年はWILL 2 LIVEというオンライン映画祭として開催されているUNHCRの難民映画祭。

やっと時間が取れて1本見ることができたんだけど、想像はしていたものの、重い……。

見終わった時のモヤモヤ感たるや。消化しきれなくて、誰かに伝えずにはいられないので、ここに書きます。(ネタバレ注意)

命を狙われたアフガン人家族

ミッドナイト・トラベラーは、平和をテーマにした映画を撮影したことでタリバンから死刑宣告を受けた映画監督が、妻と娘2人を連れて故郷アフガニスタンを逃れ、ヨーロッパを目指して旅した日々を記録したドキュメンタリー。全編スマホだけで撮られていて、臨場感ある作品。

「ミッドナイト・トラベラー」

車に詰めるだけの荷物を持ち、時には徒歩で、アフガニスタンからヨーロッパを目指して国境を越えていく家族。

密航業者に騙されたり、寒い冬の森で夜を明かしたり、建設中のビルで寝泊まりさせてもらうことも。

難民キャンプでやっと少しはまともな(屋根のある)部屋に暮らしたかと思えば、ヘイトクライムに身の危険を感じて、また逃げ出す……。

捕まるかもしれない、暴行されるかもしれない、娘たちが誘拐されるかもしれない、この緊迫感。

心休まる時なんてないよ……。


娘たちの存在の大きさと親の葛藤

そんな中でも、束の間ほっとした気持ちにさせてくれるのが、娘たちの存在。

大人でも辛くなるようなシチュエーションでも、遊んだり笑ったりしてたくましく生きている。(他人の果樹園からスモモを無断でとってきたり……)

彼女たちが他の子どもたちと無邪気に遊ぶシーンでは、ああ、この子達にこういう瞬間があって本当に良かった、と心から思う。

冒頭から、長女と次女は文句も言わずに両親に着いてきて、こんな無茶苦茶な生活にほとんど不満も漏らすことがない。子どもたちはきっと親の事情をなんとなく理解して、わがままもあまり言わないんだろうな。

私はそれが心配で、時々情緒不安定になって泣いてしまったりするシーンに逆に安心した。

子どもたちは明るいけれど、この子たちは親についていくしか選択肢がないのだ。それを思うととても悲しい。

そして親もまた、子どもたちになるべく怖い思いをさせないように、明るく振る舞っていたり、怖いことは伝えないようにしていて、そんな親の気持ちがわかりすぎて胸が痛む。

本当なら、幼稚園や学校に行ったり、友達とたくさん遊んだり、好きなおもちゃや洋服を買ってもらったりする年頃。怖い思いも不自由な思いもすることなく、屋根の下で普通の(本当にごくごく普通の)生活ができればいいだけなのに、この子達はそれすらもかなわない。

子どもたちのためにも普通の(最低限の安全がある)生活を手に入れるために、時に不法な手段で国境を越えていく。でも、不法入国にはリスクも伴う。

最後、母親が「娘たちにもう野宿をさせたくない。合法的に入国したい」と考えたその気持ちが痛いほどわかる。その結果、ヨーロッパへの到着は遠のいた。

早く安全なところに行きたい。でも、非合法な手段で子どもたちをさらなる危険にさらしたくはない。そのせめぎあい……。

私ならどんな手段を取るだろうか。正直、こんなに緊迫した毎日を送ったことがないから想像もつかない。

日本からヨーロッパまで、飛行機で飛べば半日くらい。その距離が、彼らにとってはどれほど長いものなのか。


無力感しかない

この映画を見て、彼らのために私に何ができるかなんて考えることすら不遜なんじゃないかと思った。無力感。

直視するのは、正直つらい。でも、見ても見なくても、世界にはこういう現実があって、普通の生活すら送ることができない子どもたちがいる。

そういう子どもたちのために、私にも何かできることがあるのか。答えは見つからないけど、目をそらすことはしないでいたい。

こんな時に、心の支えになるのは、緒方貞子さんの言葉。

見てしまったからには、何かをしないとならないでしょう? したくなるでしょう? 理屈ではないのです。(緒方貞子回顧録より)

何もできない微力な私だけど、せめてこの映画の感想を誰かに伝えることができたら、少しでも関心をもってもらえたら。

そんな思いもあって、この記事を書いてみた。

Will2Liveの映画はあと5本。きっと重いんだろうな……。でも、残りも全部見て、感想をあげたいと思う。


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