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昔むかし、ロンドンでパブに行こうとしたら

みなさんお元気だろうか。ベルリン酒場探検隊である。今回も再び世界各国に暮らす物書き仲間によるリレーエッセイ「日本にいないエッセイストクラブ」としての参加である。前回走者と次回走者については、文末をご覧いただきたい。リレーエッセイのこれまでの記事は、マガジンにまとめられているのでこちらもご一読いただければ幸いだ。


リレーエッセイ6周目となる今回のお題は「冒険」である。

冒険、か……。ベルリンでただ酒を飲んでいただけのわれわれには、命がけのアドベンチャーなど遠い世界の出来事であるが、常連の(おもに)中高年ドイツ人男女が集う「完全に内輪感」が強い酒場にいきなりわれわれアジア人女性が乗り込むこと自体が、冒険といえば冒険であろう(本記事の主旨とは関係ないが、なぜ「日本人女性」ではなく「アジア人女性」と書いているかというと、そのように見られるからである。日本人がヨーロッパ各国の人の違いを見分けるのが難しいように、ヨーロッパ人もまたアジア各国の人間を見分けるのは難しい)。

酒場突入活動をミッションとしているわれわれベルリン酒場探検隊だが、考えてみると隊員久保田にははるか昔にその原体験ともいえる出来事があったのだ。

レポート提出者:久保田由希

90年初頭のロンドンでの出来事じゃった

そう、あれは90年初頭の出来事じゃった……(TVアニメ『まんが日本昔ばなし』ナレーション市原悦子さんの声で読んでいただきたい、リアルタイムで見た人は少ないかもしれないが)。

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(写真はpixabayよりお借りしたロンドンのパブのイメージ)

まだ大学生だった隊員久保田は、友人とともにロンドンを旅行しておった。
その頃はインターネットなどというものは一般人は誰も知らなくてのぅ、海外旅行といえば分厚い『地球の歩き方』を1冊携えて、その情報をもとに旅をするのが定番だったんじゃ。

「ロンドンの名物はパブである」という文章をどこかで読んだ隊員久保田は、現地でパブに行ってみようと目論んでおった。ガイドブックには有名なパブも紹介されていたと思うのだが、記憶が定かでない。

その日はバスでちょっと辺鄙なところを走っていた。どの辺りかは、今となっては謎である。土地勘もないまま、当てずっぽうでバスを降りてしばらくふらふらと歩くと、何やら光る看板がある。

「もしやあれがパブというものではないか」

とっぷりと日も暮れて、辺りにはめぼしい店も見当たらない。中の様子はうかがえないが、無知とは恐ろしいもので、当時は躊躇することなく入店できたのであった。人はそれを若さと呼ぶ。

暗がりのなか見えたのは……

厚い扉を開けて中へと入った友人と久保田。薄暗いせいか、タバコの煙のせいか、辺りがよく見えない。
しかし、客の視線が一斉にこちらに刺さったのはわかった。

「まずい……」

われわれが場違いな客であることは疑いようがなかった。目が暗さに慣れてくると、周りにはガタイのいい男たちがビールを飲んでいるようである。

その時点でさっさと出ればいいものを、何を考えたかわれわれは律儀にもビールを注文してしまった。

入り口付近の、立ち飲み用の小さな丸テーブルで必死にビールを飲み干そうとするも、炭酸が邪魔をする。

すると客たちが一斉に別の方向を向いた。その先では、ステージで女性が裸になって踊っていた。

教訓

どうやってホテルに帰ったかはよく覚えていない。そのまま店にいたところで取って食われることはなかっただろうが、あのいたたまれない感覚だけは忘れることはない。

この旅ではほかにも一歩間違えば危険な場面はあったと思う。今なら絶対にやらないであろうことも、情報も知識もなかった当時は平気だった。

だが今は、インターネットでいくらでも情報が出てくる時代じゃ。無謀な行いは冒険ではない。きちんと下調べをして、楽しく旅をしてほしいものじゃのぅ……。


教訓
・海外では事前に行く場所の治安を調べよう。
・行き当たりばったりの行動も楽しいが、日中の治安のいい場所でやろう。
・ロンドンでパブに行くなら、有名店か、現地の人と一緒に行こう。
・ベルリンの酒場に行きたいなら、このベルリン酒場探検隊のnoteを参考にしていただきたい(ただし2021年2月17日現在、ドイツはコロナによるロックダウンのため、酒場は営業停止中である)。

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前回走者、アルゼンチン在住奥川駿平さんの記事はこちら。

紛れもなく、生死をかけた冒険の物語である。奥川さんのエッセイはいつも情景が目に浮かぶ。アルゼンチンに行ったことはないが、奥川さんのおかげで随分と近く感じられるようになった。

次回走者はチリ在住のMARIEさんだ。前回記事はこちら。

たまたまベルリン酒場探検隊の前回記事でも上記エッセイをご紹介したが、皆既日食を見たエピソードである。とにかく雄大な自然を感じる。ビバ地球!という思いである。

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