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『北原白秋詩集』(北原白秋著、神西清編、新潮文庫)の感想

 近代詩人の白秋には高校時代から偏見があった。
 詩の霊的な印象では宮沢賢治に、自我の表現としては萩原朔太郎に、詩の世界観のシュールさでは中原中也に、肉体描写では高村光太郎に、ストレートな叙情では三好達治にかなわない。
 そんな偏見でもって、大人になるまでまともに読んだことがなかった。
 この偏見から見るかぎり、白秋の良さは「字配りによるムード」がメインとなる。「身も霊(たま)も薫(くゆ)りがこがるる」(p14)「夢の香の腐蝕」(p15)「縺(もつ)れ入るピアノの吐息」(p25)など。華麗な字配りによって詩という異世界の香気を感じる。けれどもそうした魅力では、大手拓次の方がわずかに上だと思っていた。
 私は白秋の詩には、詩人の個性を認知するには何かが足りないと感じてきた。けれども、テレビでふと「落葉松(からまつ)」の朗読を聞いて、魅力を感じた。そして、私の考え方が間違っていたと思った。

   からまつの林を過ぎて
   からまつをしみじみと見き
   からまつはさびしかりけり
   たびゆくはさびしかりけり(p160「落葉松」一)

 この「さびしかりけり」という詠嘆はごく自然だろう。それは作者の自我の表現というよりも万人に共感できる表現だ。詩人の個性を感じさせるより、読む意識にすっと溶け込んでしまう白秋は詩人のなかで個性的だ。
 私は本を買って読んでみた。そこで白秋の作詞した歌謡を読んで、その魅力をしっかりと確認できた。「からたちの花」(p180-181)のような、心に溶けあわく包むようなポップな抒情である。

からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。

からたちのとげはいたいよ。
青い青い針のとげだよ。

からたちは畑(はた)の垣根よ。
いつもいつもとほる道だよ。

からたちも秋はみのるよ。
まろいまろい金のたまだよ。

からたちのそばで泣いたよ。
みんなみんなやさしかったよ。

からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。

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