映画と語学 1
曽根田憲三(アメリカ映画研究者・シナリオ翻訳家)
映画は魔法の学習教材か
テレビやDVDで映画を鑑賞していて登場人物たちの話す言葉を字幕なしで理解したい、彼らのように流ちょうに話せたらどんなに素敵だろうかと思ったことはありませんか。
実際、映画は私たちの心をときめかせるようなおしゃれで、刺激的な場面をウキウキするような楽しい会話とともに目の前のスクリーンにドラマティックに映し出してくれます。
しかも、ハリウッド映画にあって、世界中から集まって激しい競争を勝ち抜いた魅力的な俳優だけが演じる作中人物のあやつることばは、一流の脚本家によって練りに練られたものだけに、場面や状況などに最もふさわしいものになっています。
もちろん、時代や地域、社会的地位、職業、性別、年齢、さらには人種などの細かい要素も抜け目なく考慮に入れられているのです。
だから、役柄により使い分けられる表現は言うまでもなく、しゃべり方や間の取り方、発音やイントネーションなどの微妙な違いもしっかり反映されているわけですね。
ということは、私たちが語学書や教科書から習うような模範的な表現とは少々異なるものであり、文法的にも正しいものばかりではないということになります。
そこには短縮形あり、省略形あり、方言やスラング、また作品によっては一般的な会話本では決してお目にかかれないようなタブー表現が所せましと飛び交っています。
だからこそ、映画は文科省お勧めの表現だけを教えてくれる教科書とは異なり、リアリティとヴァラエティに満ち溢れた、社会に生きる人々の息づかいを感じさせる、自然で生き生きした表現の宝庫というわけですね。
しかも、ことばが私たちの経験を通して五感で感じとることにより習得されるという事実を考えると、様々な経験を間接的に体験させてくれる映画は、実にありがたい、まさに理想的な教材ではありませんか。
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