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語学書の著者のコラム

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ベレ出版語学書の著者による、本を書くこと以外のお仕事の話、教えること、ことばにまつわること、言語について。
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#ドイツ語

【ドイツを想う】第4回 「翻訳」語にみる先人たちの知恵 ~「酸素」と「盲腸」~

宍戸里佳  ドイツ語に接していると、ときどき興味深い現象に行き当たります。ドイツ語と日本語の単語が、そっくりの構造をしているのです。  たとえば、鉛筆。ドイツ語ではBleistiftといいますが、これは分解すると、Bleiが「鉛」、Stiftが「ペン」で、まさに「鉛」+「筆」なのです。  ほかには、たとえば鉄道。ドイツ語ではEisenbahnで、分解するとEisenが「鉄」、Bahnが「道」。こちらも「鉄」+「道」となっています。  日常語では、そのほか次のような単語が、

【ドイツを想う】第3回 ドイツになくて切なかったもの ~正月の飾り、桜、紅葉~

宍戸里佳  ドイツに長く住んでいると、日本のものが恋しくなったりもします。よく言われるのは、食べ物、テレビ、本、といった感じでしょうか。(今はインターネットが発達しているので、テレビや本は、恋しくならないのかもしれませんね。)  幸いに私は、子どもの頃からドイツ生活が長かったので、留学していた時期にも、日本の食べ物が恋しくなることは、ほとんどありませんでした。お米は1か月に1回くらい炊いただけ。ドイツの空気の中にいると、不思議と、日本食を食べなくても生きていけるものです。

【ドイツを想う】第2回ドイツ語ができてよかったと思うこと ~ドイツ語で文学を味わう~

宍戸里佳  前回書いたとおり、私のドイツ生活は合計すると16年になるわけですが、その間ずっと、ドイツ語が堪能だったわけではありません。幼少期には現地の幼稚園と小学校で困らないほどのレベルではあったものの、その後帰国してからの4年間できれいさっぱり忘れ、小5から中3までは日本人学校に通ったので高度のドイツ語力は必要なく、きちんと勉強を始めたのは日本で大学に入ってから。そして、真に留学可能レベルにまで到達したのは、留学直前ぎりぎりの時期です。 このときにはまだ、自分がドイツ語

【ドイツを想う】第1回 どこでドイツを感じるか ~ドイツの空気~

宍戸里佳  私がドイツに住んでいたのは、1歳から小1までの5年半と、小5から中3までの4年間、それに大学卒業後の6年半です。合計すると、16年。つまり32歳の誕生日までは、「人生の半分以上がドイツ生活」という状態だったわけです。(それ以前、中3の途中で帰国してから19歳の誕生日を迎えるまでも、同様です。)  そんな私が「ドイツ」と聞いて思い起こすことは、まず第一に「ドイツの空気」です。ドイツの写真を見たり、テレビでドイツの景色を見たりすると、肌が反応し、かつて自分が包まれ

仕事に活かせる語学力とは[2]

平見尚隆(香川大学 創造工学部教授) 第2回 使わないと身につかない言葉今月、4回にわたり語学学習に関してコラムを連載させていただきます平見と申します。自動車メーカーに勤めていた私はイギリス、アメリカ、ドイツそしてメキシコと合計13年間ほど海外で暮らした経験があります。現在は香川大学においてエンジニアリングデザイン領域で教鞭をとっています。第2回は、「使わないと身につかない言葉」についてお話しします。 「ヨーロッパでは4か国以上の言葉を話せる人がいると聞く。英語、イタリア

独語教師の独り言 第4回 ― 郵便の話

森 泉(ドイツ語教師) 西欧の風景に映し出された語学教師の心の風景、ことば、教育をめぐる私の独り言、4回にわたって思いつくままに語ります。 ホルンはドイツ郵便のシンボルで、このロゴは日本でも意外に知られている。古くヨーロッパで郵便配達夫が吹いていたホルンに由来し、郵便のシンボルとして使われているのはドイツに限らない。ドイツ滞在中はずいぶん郵便局のお世話になったので、このロゴを見ると懐かしい気持ちに襲われる。日本でも個人住宅のポストにこのマークが付いていることがあって、ドイ

独語教師の独り言 第3回 ― 二人の師

森 泉(ドイツ語教師) 西欧の風景に映し出された語学教師の心の風景、ことば、教育をめぐる私の独り言、4回にわたって思いつくままに語ります。 語学の師には随分恵まれたと思う。ここでは、その中でも教師となる上で教わることの多かった二人の師について書いてみたい。 素晴らしき英語の授業 S先生には高校時代に英語を教わった。当時50代半ば(と私は思っていたが実際にはもう少し若かったのかもしれない)、律儀な方で始業ベルと同時に教室に入られ、終業ベルが鳴ると説明の途中でも次回持ち越し

独語教師の独り言 第2回―母語の威力

森 泉(ドイツ語教師) 西欧の風景に映し出されたドイツ語教師の心の風景、ことば、教育をめぐる私の独り言、4回にわたって思いつくままに語ります。 列車で読書 ドイツに長期滞在中、パリの友人を訪ねたときのことである。ドイツから特急で4時間ほどの旅になるので、こういう場合の常として本を持参した。道中読む本であるから日本語の小説か、せめてドイツ語なら軽い読み物を持ってゆけば良いのだが、つい気張って読みかけていた哲学書を鞄に入れてしまった。ドイツ語としてそれほど凝った文体ではないが