バイリンガル教育(2)~ドイツで実践中~
1.バイリンガルとは
「バイリンガル」とはどのような状況をいうのでしょうか。
バイリンガルと聞くと、たいていの人は、2つの言語がある程度流暢に話せることをイメージするのではないでしょうか。
ざっと辞書で見てみると、
①「2か国語を母語として話すこと」、
②「2か国語を場面・状況にあわせて自由に使いこなせること」、
③「2つの言語を使用する能力を持っている人のこと。この能力に関しては明確な基準はないが、一般にはどのような場面、用途においてもかなり自由にコミュニケーションができるレベル以上のものをいう。」
とあります。
①はだいぶ定義が厳しいですね。操る2言語が「母語レベル」ならわかりますが、厳密に母語でなければならないとすると、大人になってから習得した言語はそれがどんなに上手でもカウントされないということになります。これはちょっと厳しすぎると思います。
その意味では、②と③の「場面・状況にあわせて(かなり)自由に使いこなす/コミュニケーションできる」レベル(以上)という説明は、多くの人にとってイメージ通りで、納得のいくものだと思います。
研究者の間ではこの「バイリンガル」の定義について様々に議論されていて、例えば、かつては(1950年代)、「How are you」や「Good morning」など、短くても完結した文が言えればバイリンガルと言えると定義した研究者もいれば、2つの言語に能力の差がなく、どちらも母語話者のように完ぺきにコントロールできることをバイリンガルと見なす研究者もいたようです。
現在では、バイリンガルの分類も以下のように多様化しています。
2つの言語の能力の差や習熟度に着目
・二重バイリンガル:両言語とも母語話者レベルで操ることができる
(ほぼ存在しない)
・均衡バイリンガル:2つの言語の能力がほぼ均等である
(すべての場面で同等の能力で使える必要はない。目的や機能に応じて、使い分けられればよい)
・偏重バイリンガル:2つの言語能力に差がある
(優勢言語と非優勢言語がある)(多数派)
・限定的バイリンガル(ダブル・リミッテッド・バイリンガル):どちらの言語も年齢相当のレベルに達していない
習得時期に着目
・早期バイリンガル(獲得型):2つ目の言語の習得が子どものころ
-同時バイリンガル:2つの言語を同時に習得
-継続バイリンガル:1つの言語の基本的な習得をしたのちに2つ目の言語を習得
・後期バイリンガル(達成型):2つ目の言語の習得が思春期以降
「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能の発達の差異に着目
・聴解型バイリンガル:「聞く」のみができる
・会話型バイリンガル:「聞く」「話す」
・受容バイリンガル:「聞く」「読む」のみができる
・産出バイリンガル(バイリテラル・読み書き型バイリンガルともいう):「聞く」「話す」「読む」「書く」のすべてができる
※ 日本人の場合、英語を「読む」「書く」のはよくできる、という人が多いと思いますが、それではバイリンガルとは言えない、ということになりますね。
うちの子でいえば、2つの言語を同時に習得する同時バイリンガルであるから、できれば均衡バイリンガルをめざしたいけど、偏重バイリンガル(優勢:ドイツ語、非優勢:日本語)が現実的だろう。
そのうえで、会話型バイリンガルの「聞く」「話す」は最低限抑えておきたい、といったところだろうか。
産出バイリンガルをめざして、日本語に力をいれた結果、限定的バイリンガルになっちゃった、となるのだけは避けなければ、とも思いました。
2.言語の組み合わせ
子どものバイリンガルを目指すとき、2つの言語の組み合わせもキーポイントになると思います。
例えば、英語とドイツ語はインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属しているため、共通点が多いです。インド・ヨーロッパ語族イタリック語派ラテン・ファリスク語群に属す、イタリア語とスペイン語、フランス語もしかり。そのため、これらの組み合わせのバイリンガルはやりやすいはずです。
以前、アイスやさんでちょっと会話したご夫婦は、二人ともドイツ語母語話者でしたが、お母さんは子どもに英語で話しかけていました。独英のバイリンガルをめざして、とのことでした。これはまったく問題なく可能だと思います。
そもそも、ドイツの子どもたちは、普段の生活の中で英語をよく耳にします。保育園には英語を話すお友だちがいますし、公園では知らないママと子どもが英語で会話しているのが耳にはいってきます。ママやパパが隣人と英語で立ち話をしたり、英語で道を尋ねられるといったことも当たり前にあります(ま、私は英語ができませんが)。そのため、子どもは小さいころから英語という言葉の存在を知っていますし、聞き分けられます。同じアルファベットを使いますし、とにかくドイツの子どもたちにとって英語は身近な存在といえるでしょう。
別の例ですが、私のママ友でフランス人女性がいます。彼女はフランス語が母語ですが、英語も流暢で、バイリンガルレベルといって間違いないでしょう。彼女の夫はドイツ人で、彼女はドイツ語も日常会話に困らない程度にできますが、夫との会話は英語が主です。
その彼女は子どもとも英語で会話します。本当は、子どもにフランス語を習得して欲しいと思っているようですが、ドイツ語(インド・ヨーロッパ語族 ゲルマン語派)とフランス語(インド・ヨーロッパ語族 イタリック語派)という語派の違う言語を同時にというのは難しいだろうという判断で、英語にしたそうです。やはり独英のバイリンガルの事例ですね。
ただ、子どもは、フランスにいるママ方のおじいちゃん、おばあちゃんに会いに行けば、ママも親戚もフランス語で会話していますし、ここドイツでも、ママにはフランス人の友だちがいて、その友だちとはフランス語を話しているので、ママの言葉はフランス語なんだという意識もあることでしょう。簡単なやりとりならば理解できるかもしれません。その場合、この子たちにとってフランス語ってどういう位置づけなんでしょうね。第一言語では間違いなくないし、厳密には母語でもない。でも、切っても切れない深いつながりのある言語ではある。子どもたちの興味と努力次第では、トリリンガルになることも可能な環境にあることは間違いありません。
さて、では日本語とドイツ語の組み合わせは、といえば、、、。
ドイツ語を教えていた経験からいえば、ローマ字読みが結構いける、ということ以外は、日本人にとってのとっかかりやすさのようなものは見つからず、、、。ドイツ人にとっても、日本語はアルファベート(50音)から学ばなければならない言語ですし、やはり学びやすい言語ではないはず。お互いにとって、共通点やそれによる学びやすさというものは正直言ってない、と思います。
でも、だからこそ、ドイツに住む日本ハーフ、という条件をうまく使って、2つの言語を母語として身につけさせてしまうのがいいだろうと思うのです。次回は、日本ハーフの子どもを取り巻く言語環境について書いていきます。
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