#07. メーカー知財部のお仕事

 この記事は"知財"という言葉に興味があるけど、実際にどんな業務かわからないので知りたい!といった人向けの記事になります。なお、今回の記事は別のサイトで私が書いていた記事をリバイズしたものになります。
 (主に就職活動をこれから迎える学生や、開発から知財への異動を考えている方、向けです)

 ちなみに以下のページによりますと、企業で知財業務に従事している人は全国に2万人弱いるみたいです。初めて知りました。


1.企業によって業務は大きく異なる

 企業における知財業務の形態は様々です。例えば、

(1)「知財部」という組織が存在し、主に特許や技術契約を担当
(2)「知財部」という組織が存在せず、企画部や法務の組織に属し、
特許や技術契約のみならず、事業企画や一般契約まで担当

といった具合に、会社の規模の大小、老舗の企業なのか?ベンチャー企業なのか?によって、やるべき仕事によって大きく異なります。「知財=特許」と考えている人は、いきなり(2)のようなところで働くより、企業における特許の必要性を学ぶために(1)のようなところで働くことをお勧めします。「知財部」が組織としてあれば、まずはOJT等によって実戦を前に学べる機会が確保されるからです。(1)で経験を積み、(2)に行く、というのは全然ありだと思います。

 ここで、知財部の業務を大きく分類すると、①技術契約業務、②知的財産権の取得・保護に関する業務、の2つになります。②をさらに分類すると、(A)特許を取得する業務、(B)取得した特許を行使する業務、に分けられます。私は、メーカーの知財部でこの(A)を担当する特許技術者をしています。なので、以下は特許技術者の話をしていきます。

2.特許技術者のお仕事

 特許技術者が行う業務を時系列で分類すると、以下の4つに分類できます。

  (1)発明発掘
  (2)特許出願
  (3)権利化
  (4)権利化された特許の管理

2.1 発明発掘


 まずは、開発から発明の発掘作業を行う必要があります。このリエゾン業務と呼ばれる発掘業務は非常に難しく、経験とセンスを必要とする業務です。新人がいきなり担当することは稀であり、どうしたら技術を特許にできるか、いわゆる発明のツボを理解している人がやる仕事です。

 ただ、求人情報を見ていると後に出てくる権利化業務より待遇が悪い(給与が低い)ケースが見受けられます。企業によっては軽視しているのかもしれませんが、大変重要な役回りです。かつ、特許事務所だと経験しにくいため、企業知財部ならでは重要な業務だと思います。

 発明発掘に必要なスキルは、まず①発明のツボを分かっていること、です。関連記事を先に紹介します。

 発明のツボとは、開発の技術内容を把握し、得た情報から特許に必要な、課題・解決手段・効果という3つのエッセンスを抽出する作業になります。特許に詳しい人、から、初めて特許を生み出そうとしている人、まで様々なレベルがいる開発の話を、自分たちの特許の言語に翻訳する、作業とも言えます。また、発明の種そのものを生み出す作業も行います。いわゆるアイデア出しを牽引する役回りです。

 この業務は部門間を超えた仕事になりますので、②他部門との交渉・折衝能力も必要となります。「知財部」は「開発部」とは別組織ですから、開発のメンバーとコンタクトをとり、開発の最新の進捗等の情報を取りにいかないといけません。情報を取りに行くのですから、開発から人として信頼されることも重要です。また、開発の言いなりになることは求められていませんし、開発が分かっていないと投げ出すのではなく、開発に自分たちの狙いをきちんと伝える教育業務もあります。

2.2 特許出願

 開発から、課題・解決手段・効果という3つのエッセンスを抽出したら、この発明を特許出願します。そのために出願書類を作成します。これも会社によって異なりますが、出願書類は(1)自社で内製する、(2)特許事務所が作製する、の2パターンがあります。多分ですが、全件を特許事務所が作製する企業が多いです。弊社は(1)(2)を使い分けています。

 自社で内製する企業で働くメリットは、「将来、特許事務所への転職が可能になるスキルを得られる」ということになると思います。弁理士の資格を取らなくとも、明細書の内製の経験があれば、転職は可能だと思います。ただし、弁理士の研修時に「明細書は100件書いて1人前」と言われた世界ですから、企業で100件書くのは、それなりに時間を要すると思います(私は約3年で40件くらいです)。明細書をかけるようになるには、日本語を上手になっておいた方がよいです。日頃から文章中で、主語と述語を明確にするクセをつけておきましょう。なお、日本語の主語と述語が明確だと、英訳しやすくなるというメリットもあります。

 また、出願は国内のみならず外国出願もあります。外国の出願原稿のもととなる文章を日本語で校正し、翻訳会社に翻訳を依頼します。ここが機械翻訳で内製できると、企業知財にとってはコストダウンになるのでしょうが、機密の観点から暫くはそうはいかないと思います。この翻訳が正しいかどうか判断できる程度の英語能力は必要になります。

2.3 権利化

 出願した特許は、審査請求を行うことにより、特許庁の審査官に審査がされます。そして、だいたいの発明には拒絶理由通知がきます。この拒絶理由に応答する業務が主です。審査官が指摘してきたこと対し、自分たちの発明が特許されるべき理由を論理的に意見する、難しくかつ腕の見せ所の業務です。ただし、出願明細書の作成よりは難易度は低い作業だと思うので、この業界に入った人が、まず担当する業務になっているのではないでしょうか。

 また、日本のみならず外国の特許でも同様のことをします。外国の件はオフィスアクションといいます。なので、外国の代理人とコミュニケーションをとる場面も多々あります。

 これらの応答案をすべて特許事務所に作らせる企業も多いようですが、作成させた応答案の妥当性を検討したり、よりよい応答案を考えます。また、私のように、大半の件数の方針を考える人もいます。企業規模にもよりますが私の場合は、年間150~200件くらい対応していますね。

2.4 権利化された特許の管理

 権利化された特許は、他社に権利行使をしたり、他社とのクロスライセンスのリストに入ることにより、初めて目に見える形の利益貢献をすることになります(権利化されたことにより、他社参入障壁を築いたり、他社が設計変更することにより、他社ダメージを与えることもあるのでしょうが、これはわからないですからね)。日本はたいした金額ではありませんが、アメリカやヨーロッパで特許を保有し続けるのはコスト大きなコストが発生します。そのため、特許技術者は開発の意を汲みながらも必要最小限の特許に絞らなくてはなりません。

 ここでは、特許1件1件の技術的特徴、自社の特許群における位置づけ、他社牽制力からそれぞれの価値を評価し、俯瞰する能力が求められます。この情報を、実際に交渉業務を行うメンバーに正しく伝えなくてはならないからです。


 と、いろいろ書きました。今日の記事は、就活生などにも役立てばよい!と思って書きました。このように知財としてやっていくには、数学・物理・化学・生物といった理系科目のみならず、国語・英語も必要になりますし、調整・折衝能力も必要とされます。こうやって羅列すると、学生の方は不安に思うかもしれませんが、私なんて35歳でこの業種に飛び込んで、なんとかやれていますから、そんなに不安になる必要はないと思います。すごく、やりがいを感じる楽しい仕事ですよ!

 と書きましたが、本当に書きたいことは「コロナ禍により、私たちの業務はどのようなことを変えていかなければならないか?」ということです。そのために自分がいまやっている主な業務をまとめた次第です。最近は、例えば、特許業務を縮小せよ、テレワークが増えるときの弊害は?なんてことをずっと考えています。このあたりの考えていることを、次回の記事に書いていこうかと思います。よろしくお願いします。

 

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