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「上司、部下にイライラする…」は解決できる!西遊記は現代人の欲望との付き合い方を教えてくれていた

 長い人生、穏やかに生きていきたいとは誰しもが考えることでしょう。しかし、穏やかに生きるというのは決して簡単ではありません。特に多くの人にとって長い時間を過ごすことになる仕事の場。この仕事の場でイライラしてしまうということはよくあります。

 どうすれば職場でイライラしなくなるのか、実はそのヒントが西遊記にあります。皆様がよく知っている西遊記に隠されている仏教のメッセージを今回は紹介します。


改めて西遊記とは

 西遊記を知らない人は恐らく少ないでしょうが、改めて簡単に概要に触れます。

 『西遊記』は、三蔵法師が弟子の孫悟空、猪八戒、沙悟浄を従え、天竺に向かって経典を持ち帰るために旅する物語です。彼らは中国からインドまでの道のりで、さまざまな妖怪や試練に遭遇しますが、それを乗り越えていく冒険が描かれています。この壮大な旅と冒険が、多くの人々に時代を超えて愛されてきた理由です。

 『西遊記』の原作は16世紀に成立し、全100章にも及ぶ大作です。この物語は、唐の時代に実在した僧侶・玄奘三蔵の旅路が基になっています。玄奘は仏教の経典を求めてインドまで赴き、多くの困難を経て経典を持ち帰ったとされています。この実話を基に、三蔵法師が孫悟空、猪八戒、沙悟浄を弟子として導き、仏教の教えを求める旅を描く『西遊記』が生まれました。

 この物語は、単に冒険やバトルだけでなく、三蔵法師が弟子たちとともに成長し、仏教の真髄に近づいていく過程としても見ることができます。

 孫悟空・猪八戒・沙悟浄はそれぞれに非常に強い悪癖を持っていました。500年以上も前の物語の登場人物の悪癖を見ていくことが、現代の職場でのイライラの改善につながっていきます。

煩悩の中の三毒

 「煩悩」という言葉は皆様聞いたことがあるのではないでしょうか。この「煩悩」は仏教用語であり、「煩悩」の中にはさらに「三毒」という考えがあります。

 「三毒」とは言葉の通り、3つの毒という意味です。この3つの毒というのが「貪・瞋・痴」(とんじんち)になります。言葉としては馴染みのない方も多いでしょう。この3つを理解するために登場するのが孫悟空・猪八戒・沙悟浄の3者です。

 「貪・瞋・痴」はそれぞれ孫悟空・猪八戒・沙悟浄にあてはめられているのです。

 例えば最初の「貪」。これは猪八戒にあてはめられています。「貪」とは貪欲のことで豚の猪八戒は非常に欲が深い人物で、特に食欲については全く抑えが効かない様子が描かれています。

 続いて「瞋」。これは猿の孫悟空ですね。「瞋」とは瞋恚(しんに)ですぐに怒り恨んでしまうような心の状態を指します。まさに孫悟空は怒り続けており、大暴れしたことで岩に閉じ込められていました。岩に閉じ込められていた孫悟空を三蔵法師が助け、弟子にするシーンは印象的です。

 最後の「痴」は沙悟浄です。「痴」は愚痴を表しています。愚痴というとすぐに不平不満を漏らすことをイメージしますが、仏教では真理に対する無知であることを指す言葉でもあります。そんな沙悟浄は狡猾でずるがしこい様が物語では描かれています。

 このように3者はそれぞれに問題を抱えています。では、この問題にはどのような答えがあるのでしょうか。それは意外なところから発見できます。

名前の中に目指す道がある

 孫悟空・猪八戒・沙悟浄のそれぞれが持つ問題は、実は名前の中に解決すべき方法が示されています。

 一番わかりやすいのは猪八戒でしょうか。名前の中にある八戒は仏教において守るべき8つの戒律を示す言葉です。特に出家生活において守るべきことが記されています。

 戒律を守ることが何につながるのかというと欲望のコントロールです。自分の欲望をコントロールできていないから貪欲になってしまうのです。戒律を守り規律ある生活をすること、このことが猪八戒の貪欲の解決の道だということが名前に示されています。

 次に沙悟浄を見てみましょう。沙悟浄の名前の中には悟浄という言葉があります。つまり沙悟浄の愚痴の解決に必要なのは浄を悟ることだと説かれています。浄は仏教では非常に清らかな状態であることを指します。これは浄土などの言葉を連想すればわかりやすいかもしれません。

 清らかな心を持ち続ければ、不平不満を言うこともなく、智慧を得る方向へと進んでいくことができるということです。確かに人は心が穏やかでないときに不平不満を言ってしまうものです。こちらは実体験として腑に落ちる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

孫悟空に込められた意味

 さて最後はいよいよ孫悟空です。孫悟空は瞋恚(しんに)からすぐに怒ってしまうという特徴を持っています。まさに職場でイライラする方は孫悟空と同じ状態ということです。

 瞋恚の解決の道は孫悟空の中の悟空の部分から見つけることができます。悟空、つまり空を悟るという意味です。

 空は仏教用語では無を意味する言葉です。怒りの感情を突き詰めていくと、実態のない無や幻に怒ってしまっているということはないでしょうか。私たちはもちろん具体的な事象や出来事に対してイライラします。しかし、そのイライラは突き詰めていくと無であり、怒りを沈めることができるというのが悟空という言葉に込められた境地です。

 西遊記の中でも孫悟空は最初、すぐにイライラしてしまい三蔵法師の金の輪によって怒りを制御されていました。ところが、次第に自分自身で感情をコントロールできるようになっていきます。そして空を悟った孫悟空は怒り狂うことなく、世のため人のために行動ができるようになります。

 怒りは膨大なエネルギーです。この膨大なエネルギーを前向きな方向に使うことができればこんなに良いことはありません。その鍵を握るのが空を悟るという境地なのです。

仏教の知恵で生き方を学ぶ

 このように西遊記では「貪・瞋・痴」を持つ3者に三蔵法師が知恵と生き方を教えていくストーリーなのです。そういった教えの物語ということもあり、西遊記のなかで登場するさまざまな妖怪も殺しはせずに懲らしめるのです。西遊記は仏教的な考え方が根底にある物語となっています。

 最後に三毒を克服した孫悟空・猪八戒・沙悟浄がどうなったのかをご紹介します。

 彼らは最終的には体もなくなり、魂だけとなります。ここには体すらも煩悩であるという考え方があります。魂だけになるというのは果てしのない想像することも難しい境地ですね。しかし、それほどの高みまでにこの3者は三蔵法師によって導かれたということがわかります。

 孫悟空・猪八戒・沙悟浄のように仏教の知恵を学ぶことは生き方を学ぶことにつながります。職場ですぐイライラしてしまうという人は、三蔵法師に導かれていく孫悟空の姿から学べることがあるかもしれません。

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