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奇妙な短編-10作品

お好きな短編をお読みいただけると幸いです。
(無料ですべての短編をお楽しみいただけます。)
最後に、作り方を紹介していますのでご興味ありましたらどうぞ。

Bluetooth


――その音は、確かに私の耳に入ってきた。

時刻は午後六時過ぎ。会社を終え、いつものように新宿発の帰宅ラッシュに押し込められていた。地下鉄の車内は、吐き気を催すほどの人波で溢れている。顔も知らぬ他人の肩や背中、息遣いがまとわりつく。それでも、ヘッドフォンから流れる音楽だけが、私を辛うじて現実から遠ざけていた。

すると、突然ヘッドフォンから音楽が途切れ、代わりに不気味な低い電子音が鳴り響いた。普段聞き慣れないノイズに、一瞬混乱しつつも、原因はすぐに分かった。誰かが近くでBluetoothのデバイスを接続しようとしているのだろう。特に珍しいことではないが、音の正体を確かめようとスマートフォンを取り出した。

――だが、そこで奇妙なことに気がついた。画面に表示されていたのは「Bluetoothデバイス接続希望:あなたの心」という表示だったのだ。

「……何だ、これは?」

一瞬、冗談かと思った。しかし、スマートフォンの画面は間違いなくそう表示している。酔っ払いの仕業かとも考えたが、私の周りにはまともなスーツ姿のサラリーマンばかり。笑い声やふざけた様子は一切ない。

私はそのまま無視しようとしたが、なぜか「接続」ボタンが強引に押され、勝手にデバイスがリンクされてしまった。瞬間、私の脳裏に直接響くような声が聞こえた。

「お疲れ様です。あなたの内面、覗かせてもらっていますよ。」

ゾクッと背筋が凍りつく感覚。周囲の人々は全く気にせず、自分のスマホや新聞に夢中だが、私はその声に恐怖を覚えた。

「……誰だ?」

思わず声を出しそうになったが、口を押さえた。周囲に悟られぬよう、心の中で問いかける。しかし、その問いが終わるか終わらないかのうちに、再び脳内に声が響いた。

「私は、あなたの心の中から語りかけています。」

まさか。だが、その声は確かに私の頭の中に直接語りかけているのだ。

「何の目的だ? 一体何がしたいんだ?」そう心の中で叫んだ。

「単純ですよ、あなたの感情を共有したいだけです。思い出せませんか? 最近、あなたが無意識に押し殺している感情を。」

突然、頭の中で鮮明な映像が広がった。私が忘れようとしていた光景。数日前、仕事で理不尽な叱責を受け、誰にも言えず、ただ一人で悔し涙を飲み込んだ夜のこと。怒りと無力感がこみ上げ、何もできずに立ち尽くしていたその瞬間が、再生されるように蘇った。

「あなたはその時、何もできませんでしたね。悔しかったでしょう?」

声はさらに続く。

「その感情、溜め込んでしまうと苦しいですよ。もっと解放してしまえば楽になる。私と共有することで、あなたはもっと自由になれるのです。」

心の奥深くで抑えていた感情が、まるで波が打ち寄せるように次々と現れた。後悔、恥辱、恐怖。どれも普段は無意識に押し殺していたものばかりだった。だが、それを再び目の当たりにするのは、想像以上に苦痛だった。

「もうやめてくれ……」そう心の中で叫んだ。

しかし声は消えない。

「逃げるのですか? それでは何も変わらない。あなたが感情を受け入れる時、真に自分を解放できるのです。」

不意に車内が揺れ、周囲の乗客も揺られる。現実が再び戻ってきたかのように感じたが、脳内の声はまだ消えていなかった。

「私が本当に恐れているのは、自分自身だ。」

その瞬間、車内放送が響いた。「次は、終点。終点でございます。」私の乗っている電車は、いつの間にか終点に近づいていた。しかし、今の私にとって、そのことはどうでもよかった。

スマートフォンの画面にもう一度目をやる。「Bluetooth接続解除」のボタンが表示されている。私はそのボタンを押そうとしたが、なぜか指が動かない。恐怖に縛られているのか、それとも声が語る「自由」を手に入れたくて、わざとためらっているのか。

電車が止まり、乗客たちは降りていく。私もその流れに従って電車を降りるべきなのだろう。だが、スマートフォンの画面を見つめたまま、私はまだ立ち尽くしていた。

「さあ、どうしますか?」

頭の中の声は、静かに私に問いかけたままだった。

Lastソング


日曜の午後、僕はいつものようにカフェで本を読んでいた。特別なことは何もない、どこにでもあるような日曜日だった。店内にはやわらかなジャズが流れていて、窓の外には秋の空気が漂っていた。少し肌寒い風が、街路樹の葉を静かに揺らしている。

ふと気がつくと、カウンターの隅に古びたジュークボックスが置かれているのが目に入った。何度も来ているこのカフェに、そんなものがあったことに今まで気づかなかったのが不思議だ。昔ながらのデザインで、木のフレームが時の流れを物語っている。

「おかしいな…」と僕は思った。「こんなもの、前からあったっけ?」

店のオーナーはこの街に来てからずっと変わらない顔ぶれで、特に新しいものを導入する様子もなかった。だからこそ、余計にそのジュークボックスの存在が気になったのだ。僕は立ち上がって、自然とそれに近づいていった。近くで見ると、埃一つなく手入れが行き届いているようだった。試しにコインを入れてみる。古いジャズやブルースの曲名がずらりと並んでいるが、見覚えのあるタイトルは一つもない。すべて、聞いたことのない名前だ。

その中で、一つだけ気になるタイトルがあった。「The Last Melody(最後の旋律)」。どこか寂しげで、終わりを告げるようなそのタイトルに引き寄せられ、僕は迷わずそれを選んだ。

ボタンを押した瞬間、ジュークボックスが静かに回転し、スピーカーから柔らかな音楽が流れ始めた。切ないメロディーが店内に広がり、まるで過去の記憶を呼び起こすような感覚が僕を包み込む。知らないはずの音楽なのに、どこか懐かしい。何かを忘れているような、思い出そうとしても思い出せないような。

突然、僕の周りの空気が変わった。カフェのざわめきが次第に遠のき、まるで誰もいなくなったかのように静かになっていく。気がつけば、店内の客も店員もいなくなっていた。僕は一人、ジュークボックスの前に立っていた。

「何が起きてるんだ?」

僕は戸惑い、外を見る。道行く人々は変わらず歩いているが、彼らの姿がぼんやりと霞んで見えた。まるで違う次元にいるような、不思議な感覚だ。僕は再びジュークボックスに目を向け、止まることなく流れ続けるメロディーに耳を傾けた。

その瞬間、背後から誰かが僕の名前を呼んだ。振り返ると、そこには見知らぬ老人が立っていた。白い髪と深いしわが刻まれた顔。そして、何よりも印象的だったのは、彼の目だ。その瞳には、すべてを見通すような冷静さと、計り知れない時間が宿っていた。

「その曲を聴くのは、これが最後だ」と、彼は静かに言った。

「どういう意味ですか?」と僕は尋ねた。

老人は少し笑い、続けた。「この音楽を選んだのは君だ。この音楽を聴く者は、自分の最後を知ることになる。そして、次にその旋律が途切れるとき、君はここを去ることになる。」

僕は言葉を失った。だが、その言葉が嘘ではないことを、なぜか理解していた。僕はずっと、何かを待っていたのだ。何かが終わるのを。いつか訪れるその瞬間を、僕は無意識のうちに感じていたのだろう。

ジュークボックスの音は、ますます小さくなっていった。やがて最後の一音が消え、静寂が店内に広がった。僕は立ちすくんだまま、何も言えず、何もできなかった。

その瞬間、世界が再び動き出した。カフェには客が戻り、店員がレジで作業を始めていた。まるで何事もなかったかのように、日常が再開した。

しかし、僕はもう何かが変わってしまったことを知っていた。音楽は終わり、僕はその「最後」を知ってしまったのだから。

僕はカフェを出て、秋の冷たい風に包まれながら歩き出した。まるで音楽の続きが、どこかでまだ流れているかのような気配を感じながら。

永遠の通路

夜の帳が降りる頃、彼はその町の小さな路地裏を歩いていた。街灯が薄暗く灯るその場所には、人影はまばらで、ただ風が紙屑を吹き上げる音だけが聞こえていた。

名前は木村敬一。どこにでもいる、ささやかな生活を送る男だ。しかし、今日ばかりは彼の胸の内に、不可解な焦燥感があった。普段は通らないその路地を、どうしてか足が勝手に選び、進んでいたのだ。

「おかしいな……」

彼は道の様子に違和感を覚えた。路地を曲がっても、同じような風景が続く。古びた煉瓦の壁、雨に濡れた石畳、そして遠くから聞こえる、風の鳴き声。それがいつまでも終わらないような感覚に、次第に彼は不安を覚え始めた。

「あれ……?」

何度か振り返ってみたが、後ろには自分が通ってきた道のはずなのに、まるで見覚えがない。そう、先ほど通りかかった路地がどこにも存在しないのだ。

彼は進むべきか引き返すべきか迷った。だが、どちらを選んでも同じ景色が広がる。次第にその奇妙な感覚は、彼の全身を包み込んでいった。

歩き続けているうちに、木村の頭にふと浮かんだのは、昔聞いたある噂だった。「無限の通路」――そこに迷い込んだ者は、永遠に同じ道を彷徨い続け、やがて現実から切り離されてしまうという。

もちろん、そんな話はただの作り話に過ぎないと考えていた。しかし、今、彼の目の前でその幻想が現実となっているかのように感じられた。

やがて彼の足取りは重くなり、疲労が全身に広がっていった。どれほどの時間が経ったのかは、もはやわからない。道の両脇に並ぶ古びた店のシャッターが、音もなく閉まっていく。

「……ここは、どこなんだ?」

その時、彼の目の前に、ふと小さな喫茶店が現れた。店の看板には、手書きで「終着点」と書かれている。彼はなぜか吸い寄せられるように、その店に足を踏み入れた。

カウンターには老齢のマスターが静かに座っていた。店内は薄暗く、まるで時間が止まったかのような空気が漂っている。

「ようこそ、最後の場所へ。」

マスターが口を開いた時、木村は恐る恐る尋ねた。

「ここは……どこなんですか?」

「ここは君が選んだ道の終着点だよ。しかし、終わりとは必ずしも安息を意味しない。」

木村は言葉を失った。彼は確かに迷い込んだ。しかし、どこかで引き返すこともできたはずだったのだ。

「永遠に続くと思われた通路も、すべては君自身の意志だ。君が進んだのだから、この結末が待っていた。」

彼の手元に置かれた一杯のコーヒー。その湯気は静かに昇っていた。木村は、その一杯を見つめながら、次第に体の感覚が薄れていくのを感じた。

喫茶店の外では、依然として風が通りを駆け抜け、誰もいない路地の奥へと消えていった。木村がその場所にいた痕跡は、何も残らなかった。ただ、通路は今もなお続いている——誰かが、また迷い込むのを待ちながら。

そらから降ってきた鉛筆


ある晩秋の夕暮れ、風が強く吹き荒れるなか、ひとつの鉛筆が、ふいに空から落ちてきた。落ちた場所は、東京の片隅にある寂れた町の公園。人気はなく、ただ朽ち果てたベンチと数本の枯れた木が立ち尽くしている。鉛筆はまるで、目的を持っているかのように、すべてが止まった静寂の中に「コトン」と軽やかに音を立てて落ちた。

しばらくして、その鉛筆を拾い上げたのは、サラリーマンの渡辺信一であった。仕事帰りに何気なく立ち寄った公園で、ふと視界に入った鉛筆が彼の運命を大きく変えるとは、渡辺自身は夢にも思わなかっただろう。

「こんなところに鉛筆が……」

彼は特に意味もなくそれをポケットに入れ、再び歩き出す。しかし、どこか不気味な予感が、心の奥底で微かにさざ波を立てていた。

翌日、渡辺は会社で書類の整理をしていた。いつも使っているペンが突然インク切れを起こし、焦ってデスクの引き出しを漁っていたそのとき、ふと前夜拾った鉛筆のことを思い出した。

「そういえば、あの鉛筆があったな……」

彼はポケットから取り出し、何気なく手に取った。その質感は古めかしく、しかし妙に手に馴染む感じがする。不思議と、使ってみたくなった。

試しに一枚の白い紙に何かを書いてみることにした。鉛筆は驚くほど滑らかに走り出し、渡辺の手は自然と動き、いつしか彼は無意識のうちに「昇進」の二文字を描いていた。

次の日、信じられないことが起きた。上司が突然、渡辺に昇進を言い渡したのだ。

「おめでとう、渡辺君。君の仕事ぶりが認められたよ」

彼は驚愕した。昇進を望んでいたが、まさか、あの鉛筆がそんな力を持っているのか……?

その後、渡辺は試しにもっと多くの願望を書いてみることにした。次々と、彼の願望は現実になっていく。給料の増額、新しい家、そしてあこがれていた女性とのデート――。

「この鉛筆、まさか、何でも叶えてくれるのか……?」

渡辺の顔には欲望に満ちた笑みが浮かび始めていた。彼はどんどん大胆になっていき、手当たり次第に願望を書き連ねるようになった。しかし、それは無限の幸福を約束するものではなかった。

一見順調に進むかに見えた彼の生活は、少しずつ軋み始めた。まず、彼の昇進によって同僚たちとの関係がぎくしゃくし、友人たちは次第に彼を避けるようになった。さらには、憧れの女性ともデートがうまくいかず、彼女は突然の理由で姿を消してしまった。

渡辺は焦り、再び鉛筆を使って新たな願いを書こうとした。だが、その鉛筆の芯が急に折れ、書けなくなった。

「何だ、この鉛筆……」

彼は不安に駆られながらも、すぐに鉛筆を削り直し、再び願望を書き続けた。今度はもっと強く、もっと貪欲に。だが、結果は同じだった。彼が願うものは次々と崩れ、想像を絶する形で悪化していった。

渡辺の周囲は、日に日に崩壊していった。仕事も失い、家も失い、友人も去り、彼はただ孤独に取り残される。焦った彼は、ついに最終的な願望を鉛筆に書き込んだ。

「すべてを元に戻してくれ……!」

しかし、その瞬間、鉛筆はまるで意志を持つかのように彼の手を振り払い、転がり落ちた。彼の願いは紙に刻まれることなく、無情にも空白のまま終わった。

途方に暮れた渡辺の前に、突然、黒い影が現れた。長いコートを羽織ったその男は、にやりと不気味な笑みを浮かべている。

「お困りのようですねぇ、渡辺さん」

その男は、渡辺が拾った鉛筆をじっと見つめながら、ゆっくりと彼に近づいてきた。

「その鉛筆、どうやら少しばかり使い方を間違えたようですねぇ……」

男は渡辺の耳元で囁くように言う。渡辺は震えながら男を見上げた。

「お助けしましょうか? ただし――」

その言葉に、渡辺はなすすべもなく頷いた。

男は渡辺に条件を提示した。すべてを元に戻すために、彼の「何か」を引き換えにするという。渡辺は迷わなかった。彼はもう何もかも失っていた。命さえ惜しくない。

「何でもいい、すべてを戻してくれ……」

そう言って彼は男に手を差し出した。その瞬間、男はにやりと笑い、渡辺の手から鉛筆を取り上げた。

「契約、成立です」

すると周囲の風景がぐるりと歪み、渡辺の意識は闇の中へと沈んでいった。

数日後、その公園にふたたび鉛筆が落ちてきた。今回は、無邪気な少年がそれを拾い上げた。

「おっ、ラッキー!」

その少年は嬉しそうにその鉛筆を手にして、何気なくポケットにしまった。誰も知らない。渡辺が、そして鉛筆を手にした者たちが、どんな運命を辿るのかを。

空からふってきた鉛筆――それは誰にも渡る、恐ろしい運命の鍵だった。

見えないお客様



田中はごく普通のサラリーマンだ。平凡な日常に埋没している彼は、仕事帰りにいつも通り自宅近くのコンビニに立ち寄り、晩酌用のビールと軽いつまみを買った。その日も、変わらぬ日常の一コマに過ぎないはずだった。

コンビニに入ると、見慣れない男がレジの前に立っていた。身なりはぼろぼろで、どことなくこの世の者ではないような雰囲気が漂う。田中は少し気味が悪くなりながらも、その男の後ろに並んだ。

レジの女性店員は、その男に何かを言いかけていたが、突然、声を失ったかのように口を閉ざした。男は無言のまま、ポケットから硬貨を取り出し、手のひらにのせた。その様子をじっと見つめていた田中は、ぞくりとした。

男が差し出した硬貨が、透明だったのだ。

それはまるで、空気を包んだかのような不思議な硬貨だった。店員も、何事もなかったかのように会計を済ませ、男は品物を手に取らずに外へ出て行った。見えない品物を持っているかのように。

田中はその一部始終を目の当たりにし、震えが止まらなかった。何かおかしい。しかし、気を取り直して自分の会計を済ませようと、カウンターにビールを置く。だが、店員は微動だにせず、田中のほうを見つめていた。

「すみません、これ、会計お願いします。」

田中が声をかけると、店員は怯えたような表情で答えた。

「お客様…お会計は…済んでおります。」

その瞬間、田中は自分の手元を見た。ビールがない。代わりに、自分が握りしめていたのは、あの透明な硬貨だった。

家のコンセント


その家に引っ越してきたのは、わたしが一世一代の大勝負に出たからだった。市内から少し離れた、静かな住宅街。二階建ての広々とした一軒家で、見た目は何の変哲もない。だが、内見した時に感じた妙な違和感を拭い去ることができず、心の片隅に引っかかっていた。

家の中を見回しながら、私はその正体に気づいた——コンセントだ。この家には、やたらとコンセントが多い。それも奇妙な場所に配置されている。床の端、壁の高い位置、さらには天井近くにも。それは、まるで家中を網羅するかのように張り巡らされていた。

「まあ、古い家だからな」

そう自分に言い聞かせ、新しい生活に期待を寄せることにした。だが、その無数のコンセントが、やがて私の平穏を狂わせることになるとは、この時はまだ知る由もなかった。

引っ越しの初日、荷物の整理をしながら、ふと不自然に思うことがあった。家具の配置を決めるために、壁際のコンセントを探していたのだが、どこを見ても普通のコンセントがない。代わりに、妙に数が多く、少し大きめのものが点在している。それは、通常の電気機器用のものではなく、まるで何か特別な用途のために作られたかのようだった。

「まあ、使わないなら無視すればいいさ」

そう考えて、私は普段通りに家具を配置し、日常生活を始めた。しかし、何かがおかしい。最初にそれを感じたのは、夜のことだった。寝室で床に座りながら、コンピューターの電源を入れた時、壁に近いコンセントがカチリと音を立てた。まるで、スイッチを押したかのような音だ。

「風かな?」

そう思い、気にしないようにしたが、その日から同じことが何度も続いた。パソコンやスマートフォンの充電をしようとする度に、コンセントのどこかから音がする。しかも、日に日にその音は大きく、そして近くなっていく気がするのだ。

次第に、私はその異様さに耐えかねてきた。充電をする度に、コンセントがまるで呼吸をしているかのように音を立て、さらには夜中、眠っている時に不意に光り出すこともあった。それは一瞬のことだが、確かに家全体がわずかに揺れるような感覚さえ覚えるのだ。

ある晩、とうとう恐ろしくなった私は、隣に住むお婆さんにこの家のことを聞いてみることにした。彼女は、どこか気味悪い笑みを浮かべてこう言った。

「あんた、あの家に住むことにしたのかい? あの家のコンセントには、何も繋がない方がいいよ。昔の住人たちが、みんなおかしくなってしまったんだから。」

その言葉に、冷たい汗が背中を流れた。

その晩、私は決意した。コンセントがなぜこんなにも気味悪く感じられるのか、その正体を突き止めなければ、安心して暮らすことはできないだろう。深夜、懐中電灯を手に、家中のコンセントを一つ一つ確認していった。

そしてついに、一つのコンセントを外した時、私は愕然とした。それは、ただの電源ではなかった。内部には無数の細いワイヤーが、家の隅々まで張り巡らされていた。まるで、家自体が一つの巨大な機械のように。その先に何が繋がっているのか、考えるだけでぞっとした。

突然、背後から不気味な音が響いた。振り返ると、他のコンセントが次々に音を立てて開いていく。そして、床や天井、壁に至るまで、家中のコンセントから無数のワイヤーが伸び、私の周りを取り囲んでいった。

私は後退しながら、必死に逃げ道を探した。しかし、どこもかしこもワイヤーに覆われてしまっていた。電気の唸る音と共に、家全体が生き物のように動き始めた。コンセントがまるで口を開け、私を呑み込もうとしているかのようだった。

「ここから逃げ出さなければ!」

その恐怖に駆られ、私は玄関へと走り出した。だが、扉はびくともしない。ワイヤーが締め付けていたのだ。コンセントは私を放さない。ついには足元に絡みつくようにワイヤーが伸びてきて、私は転倒した。

床に倒れ込んだ私は、絶望的な思いで家中を見回した。逃げ場はない。コンセントの無数のワイヤーが私を完全に包み込み、息苦しささえ感じる。次の瞬間、視界が白く輝き、家中のコンセントが一斉に光りだした。

その光の中で、私は最後の言葉を呟いた。

「まさか、こんな終わり方になるとは……」

翌朝、通りかかった近所の人々は、その家の異様な静けさに気づいた。だが、家の中を確認する者は誰もいなかった。ただ、以前からこの家に住んだ人々が次々に姿を消していったという噂は、街に広がり続けた。

そして今日もまた、一人の住人が、この家から姿を消したのだった。

その家のコンセントは、今も変わらずそこにある。だが、それに触れる者はいない。家の中には、今も誰かの囁き声が聞こえてくると言う者もいる。それが誰なのか、そして何が起こったのかを知る者は、もう誰もいない。ただ、次にあの家に住む者が現れるまで、コンセントは静かに待ち続けているのだ。

ランチパック

昼下がりのビジネス街。スーツ姿の男たちが忙しなく行き交う中、一人の若いサラリーマン、田中はコンビニの前に立ち尽くしていた。彼の手には、ランチパックが握られている。白いパンに包まれたシンプルなサンドウィッチ。しかし、その表情には迷いが見えた。

「今日も、これでいいのか…?」

田中は毎日、同じランチパックを昼食にしていた。それが彼の日常の一部となっていた。ルーティンの中で、無駄なく、効率的に働くための一つの習慣。だが、今日に限って、その平凡さが急に重くのしかかってきたのだ。

「たまには違うものを食べようかな…」

そう思った瞬間、彼の背後から低く響く声がした。

「ランチパック、お悩みですか?」

田中が振り向くと、そこには黒いスーツを着た不気味な男が立っていた。彼は背が高く、痩せていて、眼鏡の奥の目は妙に光っていた。彼はニヤリと笑いながら、田中の目をじっと見つめた。

「私、ランチを少しでも楽しく、特別にする方法を知っているんですよ。もしよろしければ…」

田中は戸惑いながらも、その男の言葉に引き寄せられた。毎日同じ繰り返しに飽き飽きしていた彼には、その言葉が甘い誘惑に聞こえたのだ。

「どういうことですか?」

「こちらをご覧ください。」

男はジャケットの内ポケットから、奇妙な光を放つランチパックを取り出した。見た目は普通のものと変わらないが、そのパッケージには見慣れない文字が並んでいた。「願望実現サンド」と書かれている。

「これを食べれば、あなたの望む通りの昼食が体験できる。何でも望みが叶うランチになるんです。」

田中は半信半疑だったが、その言葉に抗えなかった。好奇心と、日常への倦怠感が彼を突き動かした。

「本当に?」

「もちろんですとも。ただし、食べ終わるまで決して残してはいけません。それが唯一のルールです。」

田中はその「願望実現サンド」を受け取り、少し緊張しながら一口かじった。すると、瞬く間に目の前の景色が変わった。どこかの高級レストランの中にいた。テーブルの上には見たこともない豪華な料理が並んでいる。口の中には、これまで経験したことのない極上の味が広がった。

「すごい…これは…」

彼は次々と料理を平らげ、夢のような時間を過ごした。次の一口ごとに、彼の望みがどんどん実現していく。普段は手の届かない贅沢が目の前にあるのだ。しかし、ふと気がつくと、最後の一切れだけが残っていた。

「…もういいか。満足したし、残しても…」

そう思い、田中はナプキンで口を拭き、立ち上がった。だが、その瞬間、周囲の景色が歪み始めた。目の前の豪華な料理は黒く染まり、腐敗した匂いが立ち込める。レストランの内装は急速に崩れ去り、周囲の人々の顔が次々と不気味に歪んでいく。

「なんだ…これは…」

恐怖に駆られ、田中は走り出した。しかし、走っても走っても、出口は見えない。まるで悪夢の中に迷い込んだように、彼は同じ場所を何度も彷徨う。気がつくと、再び黒スーツの男が目の前に立っていた。

「ルールを破ってはいけないと言ったはずですよ、田中さん。」

男の目が冷たく光る。田中は後悔したが、もう遅かった。最後の一口を残したことが、彼をこの異様な世界に閉じ込めてしまったのだ。

「あなたの日常は、もう戻りませんよ。」

その言葉と共に、田中の意識は暗闇に飲み込まれた。彼の最後の声が、虚空に消えていった。

翌日、ビジネス街のコンビニの前には、変わらずサラリーマンたちが忙しなく行き交っていた。しかし、その中に田中の姿はもうなかった。そして、あの黒スーツの男は再び、別のサラリーマンに声をかけていた。

「ランチパック、お悩みですか?」

体験型SNS


小雨の降る黄昏時、主人公の中村は、いつものように自宅の薄暗い一室でパソコンに向かっていた。彼は世間との繋がりを求め、常に最新のSNSを渡り歩く「SNSジャンキー」だった。しかし、どのSNSも飽きてしまう。結局、薄っぺらな自己顕示欲にまみれた他人の日常を眺めているだけなのだ。

そんな時、画面に一通のメールが舞い込んだ。「体験型SNSへの招待状」という見慣れぬタイトル。差出人は「ミスターM」という謎めいた名前だった。興味をそそられた中村は、無意識にそのメールを開いた。

「我々のSNSでは、他では味わえない『リアルな体験』を提供しています。全く新しい感覚を体験したい方、こちらのリンクからご登録ください」

怪しさはあったが、それ以上に興味が勝った。中村は思わずそのリンクをクリックした。

登録が完了すると、目の前の画面が暗転し、奇妙なサウンドが流れ始めた。やがて、画面に表示されたのは「今すぐ体験を開始しますか?」という一文。指示に従い「はい」をクリックすると、瞬く間に部屋の空気が変わった。

周りを見渡すと、彼は見知らぬ街角に立っていた。目の前には、通りを急ぐ人々や自動車が行き交い、まるで現実そのもの。いや、それどころか、現実以上にリアルな感覚が中村を包み込んでいた。触れたコンクリートの冷たさ、すれ違う人々の息遣いが、皮膚を通じて伝わってくる。

「これが…体験型SNS?」

半信半疑のまま、彼は街を歩き始めた。すると、遠くから一人の男性が近づいてきた。無表情な顔に、鋭い視線を投げかけるその男は、中村に近づくと静かに言った。

「あなたも、このSNSを体験する一人ですか?」

その男は「田島」と名乗り、この体験型SNSのシステムについて語り始めた。田島によれば、このSNSは、ユーザーが「他人の人生」を体験できるという。どの人生を体験するかはランダムに選ばれるが、一度選ばれた人生を味わう時間は限られており、その間は「完全にその人間の感覚」を共有できるというのだ。

「まるで他人になった気分になれるんですよ。仕事、趣味、恋愛…他人の感情をそのまま感じ取れるんです。それが、このSNSの醍醐味です」

中村は半信半疑だったが、その日の夜、田島の誘いに乗り、初めての「体験」を試みた。彼は「佐々木」という名の平凡なサラリーマンの一日を選んだ。

画面の指示に従い、「開始」を押すと、中村は一瞬にして目の前が真っ暗になった。しかし、次の瞬間、彼はオフィスに立っていた。周囲には書類やパソコンが並び、電話が鳴り響く。これが佐々木の「現実」なのだ。中村はその瞬間、佐々木の感覚をすべて体感していた。

「これが…他人の人生…?」

その後、中村は次々と他人の人生を体験していった。時にはエリート銀行員、時には一流モデル、そして時には犯罪者。どの人生もそれぞれの感情や欲望が渦巻き、リアルな体験が彼を魅了していった。

だが、次第に中村の中で奇妙な感覚が芽生え始めた。それは、単なる「体験」を超えた「欲望」だった。彼は次第に「もっと強烈な体験」を求めるようになり、ある日、限界を超えた体験を選択する。

「次の体験は…

そのボタンを押した瞬間、中村は激しい恐怖に襲われた。身体が凍りつくような感覚、心臓が止まるような圧迫感。目の前には、巨大なトラックが迫り、彼は瞬時に跳ね飛ばされた。

気がつくと、中村は再び自分の部屋にいた。しかし、心拍は乱れ、全身から冷や汗が吹き出ている。死の瞬間を「体験」したのだ。しかし、それがSNS上の体験だと分かっていても、その恐怖は現実と何ら変わらなかった。

「こんなもの、もう二度と…」

だが、彼の指は無意識のうちに再びログインボタンを押していた。「もっと強烈な体験を…もっとリアルな死を…」

次第に中村は、SNSと現実の境界が曖昧になっていくのを感じた。彼はもはや「自分自身」ではなく、他人の人生に溶け込んでしまっていた。どの人生が本物で、どの体験が虚構なのか分からなくなっていたのだ。

ある日、彼はふと気づいた。このSNSから「ログアウト」するボタンが消えていることに。どんなに探しても、ログアウトできる手段がない。

「まさか…ここから出られない…?」

中村は叫んだ。しかし、誰にも聞こえるはずもない。彼は無限に続く他人の人生の中で、永遠にさまようことになった。

体験型SNSは、ただの「ゲーム」ではなかった。それは、人々を永久に囚われの身にする、悪魔のような装置だったのだ。

画面の向こう側、闇の中で一人の男がほくそ笑む。「ミスターM」と名乗るその男は、次の獲物を待ち構えていた。

「いらっしゃい、体験型SNSへ。君も『他人の人生』を体験してみないかい?」

男の目には、また一人、新たなユーザーがログインするのが映っていた。

祖母の家にある謎の箱


その日、私は久方ぶりに祖母の家を訪れた。古びた木造の一軒家は、祖母の亡き後も、寂れたまま、ひっそりと佇んでいる。風にさらされた外壁は苔むし、草木が庭を支配し始めていた。しかし、私にとっては、そこは幼き頃の記憶が詰まった懐かしき場所だった。

古びた扉を押し開けると、軋む音が家中に響いた。埃っぽい空気が鼻をつき、しばらく手入れをしていないことを物語っている。私は思い出を探すように、一つ一つの部屋を歩き回った。そこで、ふと、祖母の寝室の片隅に、何かが私の視線を引き寄せた。

古びた箱だった。木でできた頑丈な箱で、鍵穴が一つあり、奇妙な模様が彫られている。私はその箱を見た瞬間、胸に何かがざわめいた。この箱は幼い頃、祖母が決して触れさせなかったものだ。いつも箱の前で厳しい顔をして、決して中を見てはいけないと言い聞かされた記憶が蘇る。

「何が入っているのだろう?」

好奇心が私を突き動かす。しかし、鍵は見当たらない。箱を振ってみるが、音もしない。私は押し入れを引っ掻き回し、棚を探し回ったが、鍵はどこにもなかった。それでも、箱の中を覗き見たい衝動はますます強まる。

「祖母は何を隠していたのだろう…」

夕暮れが近づく頃、私はついに思い立った。どうにかして箱を開けるしかない。ハンマーを持ち出し、意を決してその蓋に打ち付けた。木が軋む音がし、いくつかの釘が外れた。何度か叩くうちに、蓋がぐらつき、やがてパカッと開いた。

中を覗くと、ただの真っ黒な空間が広がっていた。物は一切入っていない。拍子抜けしたが、同時に不気味さが募る。何もないはずの箱の中から、じっと見られているような感覚に襲われた。

その時、耳元で低い囁き声が聞こえた。

「それは、開けるべきではなかったのだよ…」

驚いて後ろを振り返るが、誰もいない。心臓が早鐘を打つように脈打ち、汗が額ににじんだ。箱の中を再び覗き込むと、そこに光が揺らめいている。何かが動いているようだった。目を凝らすと、突然、箱の底がぐにゃりと歪み始め、黒い影がゆっくりと湧き上がってきた。

「あぁ…!」

後ずさりしたが、すでに遅かった。黒い影は私を飲み込むように広がり、まるで無限の闇に引きずり込まれるようだった。足が地面に吸い込まれ、次第に意識が遠のいていく。

目を覚ますと、私は祖母の寝室に立っていた。周りは先ほどと変わらないが、何かが違う。私の手元には、あの謎の箱が再び閉じられており、鍵もかかったままだった。しかし、今度はその箱を開けようとは思わなかった。

私の心の中には、あの囁きが今も響いている。

「それは、開けるべきではなかったのだよ…」

私は急いで家を後にした。再び祖母の家に足を踏み入れることは二度とないだろう。

世の中には、触れてはならないものがあるのだと、私は深く学んだ。あの箱が何を封じ込めていたのかは、もう知りたくもなかった。箱は今も祖母の家に眠っているだろう。次にそれを開ける者が現れた時、何が起こるかは、誰にもわからないが…。

ぼくの記憶にない、昨日会った人



朝の光が、ぼくの部屋に射し込む。ベッドから起き上がったとき、頭がぼんやりと重かった。夢を見た気がするが、それがどんな内容だったのか、まるで思い出せない。ただ、心の奥底に何か違和感が残っているのだ。

時計を見ると、もうすぐ出勤の時間だった。あわただしく着替え、朝食を摂る。いつも通りの慌ただしい朝だ。しかし、ひとつだけ、違うことがある。

「昨日、誰かに会ったはずだ。」

ふと、そんな感覚が胸に広がった。だが、誰に会ったのか、何を話したのか、全く思い出せない。仕事の同僚か、取引先の人間か、友人か。それともまったく知らない人間か。昨日のことがまるで霧の中にいるかのようにぼやけている。

会社に向かう電車に乗りながらも、その感覚は消えなかった。昨日、何があったのか。ぼくは思い出そうとするが、頭の中がふわふわして、記憶は掴みどころがない。


昼休み。会社のカフェテリアで一人、コーヒーを啜っていると、隣の席に見覚えのない男が座っていた。男は薄笑いを浮かべながら、ぼくに視線を送ってくる。

「おや、もう思い出したかな?」

その声に、ぼくは心臓が跳ね上がった。

「…君、誰だ?」

「それが、君の昨日の忘れ物さ。ぼくは、君が昨日会った人間だよ。」

男はふわりと笑った。顔つきも、声も、まったく知らない。だが、確かに何かが引っかかる。その笑みの奥に、ぼくが知らない何かがあるような気がした。

「昨日、君はぼくに大事な約束をしたんだ。」

「約束?そんな覚えはない。」

ぼくは頭を振る。だが、男はゆっくりと首を横に振り、「思い出す必要はないさ」と言った。

「記憶なんてものは、あってもなくても大したことじゃない。君に必要なのは、ただその瞬間をどう生きるかだけさ。」

その言葉が妙に胸に響いた。ぼくは言葉を失い、ただ男を見つめた。男は笑いながら立ち上がり、ぼくの肩に手を置いた。

「さて、次に会うときは、もう少しは覚えていてほしいものだね。」

そう言うと、男は去って行った。ぼくはその背中を見送りながら、ふと胸が重くなるのを感じた。


その日、仕事を終えた帰り道。ぼくは夕暮れの街を歩きながら、頭の中が混乱していた。あの男は一体何者だったのか。本当に昨日、ぼくは彼と会って何かを約束したのか?

すると、突然、足元に何かが落ちた。振り返ると、小さなメモが道端に落ちている。拾い上げて見ると、そこには短いメッセージが書かれていた。

「明日、君はまた忘れるだろう。でも、その時、君はもっと大切なものを失う。」

ぼくは震える手でメモを握りしめた。その瞬間、昨日のことがふっと頭に浮かんだ。ぼくは確かにあの男と会っていた。そして、何か重大な約束をした――だが、それが何だったのかは、やはり思い出せない。

ぼくは、何を約束したのだろうか?


家に帰っても、その不安は消えなかった。ぼくは一晩中、頭を抱えながら、昨日の記憶を探し続けた。だが、記憶は深い海の底に沈んだままで、決して浮かんでこなかった。

そして、翌日も、ぼくはまた、何かを忘れてしまうのだろう。あの男に会うたびに、ぼくは少しずつ、何かを失い続けている。まるで、ぼくの存在そのものが少しずつ消えていくように。

ぼくは、自分が何を失っているのかさえも、もう分からなくなってしまった。


エピローグ

数日後、ぼくは再びあの男に会った。今度は、ただ道端でぼんやりと立っていた。

「やあ、また会ったね。」男は微笑んだ。「どうだい、思い出したかな?」

ぼくは黙って首を振った。何も思い出せない。ぼくが何を失い、何を約束したのか、そのすべてが、もうどうでもよくなってしまっていたのだ。

「いいさ、またいつか思い出すだろう。だが、その時は――君はもう、ぼくじゃなく、別の何かに会うだろうね。」

その言葉に、ぼくは深い不安を感じながらも、ただ静かに頷くしかなかった。


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