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マウントを取りたがるバカを相手にするのは異常に疲れる
「何か有れば、職業柄弁護士とは親しい」
そりゃ、税理士はそうだろうね、知らないと仕事にならないもん、でも、経理関係と離婚は別だから普通受けないと想うよ。

明人がわざわざ電話して脅してきた時、そう想ったけど、わぁ怖いと言ってあげた、目上の人を大切にしてるの僕。

「病院の家族寮を借りたから」
仕事から帰ってきた千尋が言った。
「家族なの?」
「ヒロさんは別居になって寂しいだろうけど」
「娘二人、僕が見るよ?」
千尋は衝撃を受けていた。
「普通、別居なら子供は母親でしょ」
「貴女、普通じゃないじゃん」
千尋は目をひん剥いた、あの一族は目をひん剥く慣習が有るらしい、民俗学的に調べてみよう。
「子供には母親が必要でしょ」
「子供が食べたがらないような不味い飯しか作らない 作れないじゃなくて、作らない母親は要らない」
ニラメッコになったので笑ってやった。

広斗から電話が有った
「普通、子供は母親でしょ」
「君の普通が世間の普通じゃないと想うの」
「姉貴から聞いていて、離婚に為ると想っていたよ」
「あれ、そういう話になっているのね」
広斗の息遣いが、しまったと言っていた。

「弁護士、手配するからな」
「そんな事バラしちゃうの?」
また、沈黙で しまったと意思表示をしている。


水琴と仕事をしている時に配達証明の郵便が来た、杉並の弁護士事務所だった。
「あーら来たね」

当職は○○千尋氏の依頼を受け うんちゃらかんちゃら。

調べたらテレビ出演の多い綺麗な服を着た弁護士さん、ミシュランのマスコットみたいな体型だ。
「フェミニストで女性の権利を守るね」
明人税理士さんは面白い弁護士さんと懇意なのですね。

電話をした、事務員が出て取次ぎ。
「同じ沿線ですね、今からでも伺いますが」
「いえ、日を改めて弁護士会館で」
「杉並から新宿通り過ぎて千代田区ですか?仰々しい」
大庭弁護士さんは譲ってくれなかった。
仕方なく、指定の日時に霞が関に出かけた、途中ヨドバシカメラで120分のカセットテープを買う。

紅い地下鉄で霞が関、緑の地下鉄の出口だから、ちょい歩く。
高裁の建物の手前、奥が家裁の入っている合同庁舎。

学生時代、大好きだった真面目なゼミ仲間の女の子と裁判所デートをした。

傍聴の後、余裕があれば松本楼、気分で有楽町のガード下(笑)

弁護士会館の、けっこう上の階、眺めが悪いなと歩き、指定の部屋に行く、事務員さんに待つように言われ、部屋で待っていると、ピンクのスーツを来たマシュマロマンが入ってきた。
デスクに座り、その前に椅子がある、上役に締められる成績の悪い営業みたい(笑)

「記録をさせていただきます」
僕は機材をデスクの上に置いた、東芝の重低音が出るCDラジカセ、6kg有るんだぞ、電池は単一6本だ。

「ご用件は?」
「DVが有ると伺いました」
「千尋から僕へのですね」
大庭弁護士はえっと言う顔になった、でも依頼人の利益を守るのが弁護士。
「女性から男性へのDVは認められていません(当時)」
「先生も海外の判例を読んでいらっしゃらない? 明人も同じことを言っていましたよ」
「明人?」
「千尋の叔父で、職業柄弁護士を知っているから手配するぞって脅されました」
「いえ、その方は存じません」
「僕はDVなどしていませんが」
「怒鳴るだけでもDVです」
僕は明人が来襲したときの音声データをCDで掛けた
「これですか? 挑発されているのは理解できますね?」
「挑発かどうかは捉え方です」
「裁判官は挑発と認めてくれると思います」
「裁判をお望みですか?」
「あちらはどうです?」
「法律家から話して、DVが収まればとおっしゃっていました」
僕はA4用紙を出す、千尋が舞子にカーディガンで怪我をさせたときの診断書コピー。

「調停、調停不調、審判ですよね」
診断書を見ている大庭弁護士に言った
「はい」
「先生、出汁にされて(笑)」
「え?」
「弁護士さんに説得されると大人しくなるDV野郎多いのでしょ?」
「そうですね、場合によっては刑事事件に」
「立件して下さい、僕も代理人依頼します、裁判って騒ぐヤツって自分が恐れているもので、相手を脅そうとするんですよね」
大庭弁護士、微妙な表情。着手金3~50万、受けた仕事が間尺に合うか、考えているのかも知れない。

「民事はどちらの言い分が正しいか、お国の判断を仰ぐもの、ああ、先方はやんごとなき辺りより古い家系らしいので、自分達の意にそぐわない結果だと認めないかも知れませんね」 
カセットデッキを担いで退出した。


上野の弁護士さんを訪ねた、水琴の紹介だ、事務員のアルバイトをしたことが有るらしい。
「私も行くよ」
予備のパソコンで遊んでいた舞子が言った、水琴とは仲良しだ。

公園口、桜が咲き始めていた。
平家先生、僕より一回り上のダンディで飄々とした風貌。
「手回し良く、お嬢さん連れてきたの?」
「いえ、今日は午前授業でパソコンで遊んでいたもので」
「丁度良いや、ねえ舞子ちゃん、パパとママ、どちらと暮らしたい?」  語り口ソフト、優しい人柄なんだろうな
「千尋は豚っデブって言うんです、叩いてパパに言うなって口止めするし」
「解った」
平家先生、こちらを向いた。
「受任します」
書類に署名して、振込先のメモを貰って帰った。

千尋は、わざとらしく飯を作るようになった、でも子供達は食べない。
「好き嫌いしないの」
「それ以前の問題じゃん」
目玉ひん剥き技が出た。

「未熟な技術と知識で碌でもないものこさえて、子供に好き嫌いだと押し付けて、恥ずかしくないのか? 愛情が無いじゃん、おいしいものを食わせようってんじゃなくて、ちゃんと食事を作っている私をしたいだけだ、それも今更、今までは実家が大事で、家族だったわけじゃん、そのまんまで良いよ」
千尋はなによぉおって感じで外へ飛び出していった。

「なぁ、火曜日で刺し身が有るってのに、べちょべちょのハンバーグは無いよな」

僕は寝室に逃げている娘達に声を掛けて、木屋の刺し身包丁を取り出した。

翌日、夕方に為っても舞子が帰ってこなかった。
「遅いね、いつも私が帰る前には戻ってきているのに」
水琴が消えているディスプレイを見て言った。
携帯が鳴った。
「パパ、帰れない」
舞子がか細い声で言う
「どうしたの?」
「ママと病院の家族寮」
水琴が病院のホームページを調べだした。
「杉並と北 どっち?」
「北区」
「今から迎えに行くってママに言いな」
電話の向こうでやりとりが聞こえる。

「帰っていいって」
「タクシーで帰っておいで、降りる時にパパが払うから」
水琴に礼を言って帰ってもらった。

舞子が帰ってきたのは19時過ぎだった。


学校帰りに千尋にタクシーに押し込まれ、寮に連れて行かれ、一緒に住むように強要された。

「布団敷いちゃってさ、布団に入って、パパが怖いのって足をばたばたさせて、帰っちゃ駄目って ずっと騒いでいるの」
「あれま、災難だったね」
「本当だよ、ますます一緒に居たくない」
「御意」
「パパが迎えに来るよって言ったら、ガバっと布団から出て、帰っていいって」
「何、それw 僕一度も手を上げたことは無いんだけど」
「殺されるとか言ってる」
「明人叔父さんが女は殺せるとか言ってるから、吹き込まれたんじゃね?」
「てか、私のことを叩いたりつねったりするのは千尋じゃん」
「すまねえな」
「本当だよ、どうして、あれと結婚したの?」
「若気が行ったり着たり往復きっぷだったのさ」
あれ、このやりとり、母とした気がする。


次の日曜日、事件が起きた。
娘と3人で紀伊国屋とハンズへ行こうと話して、着替えを済ませた頃、千尋が乗り込んできた。
「真央ちゃん、お家を見に行こう、新しいお家だよ」

寝室、舞子は僕の後ろで真央子を抱えて震えている。
「藪から棒になんですか? また報連相無視?」
「真央ちゃん」
僕を無視して、4歳の真央子の手を引こうとする。
「怪我したらどうすんのさ、やめない」

延ばしてきた手を払ったら、極初心者の柔道の受け身みたいに、尻もちを着いて見せた、そこから、ゆっくりと両足を上げて、ごろんっと転んだ。
「暴力だ、突き飛ばされた、舞ちゃん救急車呼んで」
呼ぶわけもない、3人であっけにとられてみていた。
千尋はゲッツの芸人みたいに退場していった。

「なんなのあれ?」
3人で顔を見合わせた。

新宿のハンズへ出かけ、パワーストーンのコーナーで娘達がじゃらじゃらと石やストラップを見ていた。
携帯着信
「入院したからね、警察に告訴もした」
「あら、ご苦労さま」
千尋は何かをやりとげた! みたいな ドヤった声だった。

3人で外食をして、家に戻り、日曜だったので平家先生の留守電に顛末を入れ、メールで録音データも送っておいた。

その夜、千尋の兄弟、親戚から電話がじゃんじゃん。
「ヒロさん、あんた偉い事してくれた」
岳父
「はい、何でしょう?」
「何でしょうじゃなかと、娘に怪我をさせて」
「はぁ 怪我ね」
「なんだ、その態度は」
「呆れていてます、フレームアップをするんだなって」
岳父はフレームアップが解らなかったらしい
「真央子の手を引っこ抜こうとしたから、防いだのですよ」
「嘘だ」
「嘘じゃないですよ、舞子と話します?」
舞子が電話に出た。
「パパはやってないよ、真央が危なかったの」
「嘘だ、お前は嘘をついてる、ヒロに言わされてるんだろう」
感情的に喚いている、舞子が泣き出した。
「おめぇ いいかげんにしろ、この酔っぱらいが、脳みそアルコール漬けかよ、だから晩酌はやめろって言ったろ 惚けが」
電話を切った。

広斗から掛かってきた
「親父が酔っ払いって言われたんですが」               まあ憤慨してるのね
「孫に嘘つきと怒鳴るなんてシラフなのかしら」
「シラフでしたよ」
「じゃあ、惚けの外来でも行けよ」

月曜に平家先生から電話が有った、大庭弁護士から抗議が有ったそうだ、僕の録音データで説明をしたそうだ。
何かが有れば対処をしてくれると頼もしかった。

火曜日、何かが有った。

「奥さんへの暴力の件で話を伺いたいので、今から出頭頂きたい」
所轄の生活安全課だと言う、あれ、課は仕事柄、全員知っているのだが、聞いた名前は初耳。
夕方だったので
「子供に夕食を食べさせて、19時頃で良いですか?」
「ふざけんな、直ぐに来い」
上等じゃん 盛り上がってまいりました♪

舞子と真央子にカツ丼を食いに行くぞとコートを着せた。
手を引いて、とぼとぼと3人で警察に向かう。             大通りだけど暗く感じて寒いの

紅いランプの玄関、門番の六尺棒の人に一礼、 2階の生活安全課、顔見知りの女性職員に声を掛け、舞子に財布を渡しておいた。職員さん少年課だったかしら、武道初めで真剣の型と剣舞やってたんだよなw
「蕎麦屋が警察には出前してくれるんさ、カツ丼でも天丼でも良いぜ、あそこの海老天美味いじゃん、蕎麦は伸びるからやめとき、食い終わる頃に帰れるから」

生活安全課、DV担当の小林君は強面だった、イントネーションは右上がり、北の人だな北関東?東北?
取調室に案内された、何回か入ってるのさ、この部屋(笑)銃を買った時、登録で寸法や番号をチェックするのに使う部屋。

名刺にDV担当と書いてある、この頃から始まった担当だ、張り切ってるね(笑)

「奥さんに暴力を振るったって?」
「振るってませんが」
「先程面会したが、コルセットをして鞭打ち症の診断書を持ってきている」
コピーを提示された、ほっほお♪
「女性に暴力は不味いでしょ」
「僕、殴られたことはありますが、手は出してないですよ」
「突き飛ばしたんだろう?」
「4歳の子の手を無理やり 引っ張ろうするので、脱臼の懸念があり、払って防ぎました」
オリンパスのレコーダーを再生した
「音だけじゃ揉めてるようにしか聞こえない」
へえ、鼻薬効いてるね
「北千住北署の山辺さんがDVにしろって?」
「誰だ、それ」
目が泳いでいるよ、千尋の叔父さ
「小林さん、2つ前、そこに居て、ここに転属でしょ? 知らないのです? あっちの署じゃ居付きの名物刑事だって本人言ってましたが」
「舐めてんのか」 怒鳴られちった♪
「まーさか」

取調室に入室有り
「ヒロさん、どうしたの?」
生活安全課の課長
「DVの取り調べだってさ」
「あれ」
「いえ、取り調べではなく、聴取です」
「舐めんなって言われた」
僕はちょっと大きなAiwaのカセットレコーダーを出した。

「あんま虐めないでやって、最近来たんだよ、小林くん」
課長が手招きをして、小林君をドアの外へ、何かを話してる。
小林君は階下へ行ったようだ。

「難しい事件が片付いてさ、またお祝いやるから来てよ」
「はいな」
「あの酒、美味かったね」
「ああ嫁の里の酒ですね」
「嫁さん、お子さんと面会してるよ」
「あら、上の子は怖がると想うんですけど」
「大丈夫、少年課の職員が付き添っている」
「剣舞をやる別嬪さん」
「そそ」

小林くんが戻ってきた、この時間だと署長は居ないけど、署長連絡係の軍隊なら古参軍曹みたいな係の人がいる、この人も顔見知り。

「夫婦喧嘩ちゅうことで」
「あれ、そうなんですか? 音声でDVって言いましたよね?」
「いえ、お嬢さんも下のお嬢さんを守って手を払っただけど」
「娘に言わせた?」
僕の声はちょっと怒気を含んだ。
「家庭内の事なので」
「家庭内なのでDomesticと言うのですよ」
目が据わっていたと想う。
「まぁまぁ」
課長に停められた、署長の直々の声だし(笑)

「監護権の有る僕に許可を求めずに虐待者に面会をさせた?」
「申し訳有りません」
「ヒロさん、もうレコーダー停めてよ」
「うん」
Aiwaを停めた。 

「虐待者って小林さん認めたからねw 裁判で使おうっと」
少年課のエリア、千尋は僕の顔を見ると、そそくさと引き上げた。

千尋が来たので、カツ丼も天丼も喰ってなかった。
スーパーへ行ったら、時間が時間だったのでA4牛肉が半額だった、加ト吉のうどんを買って、豪勢な肉うどんをこさえて3人で食べた。

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