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「お客さん良い? 呑み」
キーボードと格闘していたら後ろから声を掛けられた
「良いよ、何人」
チェアをくるっとして向き合う、アヤ、なんだかうれしそうだ
「女の子一人、ナパの白を持ってくる」
「好き嫌いは?」
「無いって」

僕は地下鉄の駅へ 豊洲にするか、築地にする?
ワインか 築地にしよう。

戻るとダイニングテーブルにランチョンマットがセットされていた
ワインクーラーもカウンターに出ている 
冷蔵庫にシャンパンと辛口の日本酒
ロックアイスも買ってあった かなりの呑兵衛が来るのね

イタリアン、和食、こってりしたもの、チーズ系
準備万端整った頃、チャイムが鳴った

「はーい」
アヤがエプロンを外して迎えに出る
「アヤちゃああん、着たよぉ」
その声は…

コートを脱ぎながら藤町さん登場
「藤枝梅安か長谷川平蔵、阿玖吾涼次!軍鶏鍋はあるのかしら?」
「あるよぉ、池波正太郎風じゃなくて、水炊きにしたけどね」
「香織ん座って座って」
アヤが席を勧める、
「はい、これ」
香織から紙袋を受け取ったアヤはシンクでボトルに水を掛け拭って冷蔵庫へ

ランチョンマットの上にはカルパッチョ、チーズ、サラダのアンティパスト
ガスコンロをセット、出汁を張った土鍋を乗せ点火
薄いリーデルのフルートグラスに
アンリ ラファール グランド・レゼルヴ ブリュット 泡が下から上へ

シャンパンのボトルをタオルで拭い、バスケットに返して座る
「かんぱーい」唱和
タッチしたクリスタルのグラスが高い金属音を立てる

2人は健啖だ、僕は給仕に忙しい、アルコールもぐいぐい空けていく
「ほーんと、おいしい、アヤ、毎日、おごっつぉ食べてるの?」
「こんなに食材は揃えないけど、涼次の料理は普段もおいしいよ」
「おさんどんは交互くらいさ、アヤのご飯もおいしい」

「二人で褒め合って ひゅーひゅーっ♪」
「いやいや、そういう藤町さんだって料理得意だって聞いてるよ」
「どっからよ?」
「あのクラブのスタッフから、オプションで新婚コースあったでしょ?」
「あったねぇ、お金は有るけれど縁遠い方むけの美女と新婚コース二泊三日で・・・ 涼次の方もあったでしょ?」
「あったよ、おいしいものを喰いたいから料理を覚えた」

アヤは僕たちの過去を知っているけれど、これには興味を持ったようだ
「新婚コース?」
「うん、新婚の雰囲気で、旦那様をおもてなしして、夜のおもてなしもね」
「涼次も?」
「そそ、マダムたちを御姫様に見立てて」

「恋人ごっこの夜に♪ 吐息あっあっと鳴かせて♪」
香織が吉原ラメントを歌う
「哀しいくらいに感じた♪ ふりの吉原今日も雨♪」
香織がワインを飲みほした

「涼次ぃ 水炊きに牡蠣いれてよ、で冷たーい日本酒!」
「はいな」
金のために偽りの恋をして、偽りの愛を演じ、数夜の戯れ、睦言を交わし
自分の感情を観ない振りをして身体を重ねる

知らず知らずに心がダメージを受ける、ボディブローみたいに後で効く 

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