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最初は犬の時代

当代女王 ティア・フンゴロニャオ・4世陛下は長女メイドがお気に入りで、今は彼女のベッドわきのホットカーペットにのべ~っ

先ほどまで僕の脚元の押し入れ上段で湯たんぽに肉球を当てて寝ていたのにw ロイカナを食べに降りてきて、そのまま長女の所へ行ったらしい。

「このような時間に如何なされた?」                「猫は夜行性ゆえ、爺も心得ておるではないか、出来ればウェットを所望じゃったが」

前脚を舐め、顔を拭き拭き寝支度をなさっている。

                                 「ウェットの食事は散歩の後と決まっておりまする」         「爺はうるさいのぉ 猫に規則は無かろう、腹が減ると眠れぬゆえ、ロイカナのドライで堪えたが」

正統派のキジトラらしい、ちょっと硬めの和毛(にこげ)立派な体格、ゆるっと撫でさせてくださる。

「外の桜猫、ホルスくん、みけさまの事を想えば、多少の我慢はなさりませ」                               「わらわが統べる前から、この地に居った様じゃし、同朋ゆえ王国への立ち入りを堪えて居るが」                       「爺が介護に戻った15年より、数多(あまた)の猫がこの地に居りましたよ、子守歌代わりにフンゴロニャオ王国、ニャンタジアの御噺でも致しましょうか?」

姫は一度立ち上がり、前脚を前にうーんっと伸ばしてぐぅっと伸びをした、くるっと回って、尾を上げ、そのままゆるっと横たわり、僕を見た。

「寝物語に聞かんでもない」                     首輪の隙間に指を入れて撫でると目を細めて居る、長女には沢山与える喉鳴らし ごろごろを僕には殆どしないのは

「気分じゃ」                            はいはい、猫様の気まぐれですね(笑)

「はよう話さぬと寝てしまうぞ」                  「うとうとしながら、お聞きなさいませ」

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フンゴロニャオ王国の噺は、二つばかりニャンタジアに入れておりますが、では、分かりやすく詳細に、御話居ていきましょう。

以前も、御話しましたように、爺の母親が戌年だったせいか、当家は犬と縁がありました。 爺が子供の頃は犬殺しと呼ばれる捕獲員が小さなトラックで廻り、野犬を捕獲していた時代でございます。 

爺も野犬の仔犬を連れ帰り、父親に嫌な顔をされ、殴られながら小さな家の外に小さな犬小屋をこさえて、飼っていました。 犬は外飼いが当たり前の時代、父親が動物嫌いで家の中では専制君主の昭和の親父でしたから。

小学生だった爺は、仔犬の躾けが出来ず、寂しがって啼く犬を宥める術と言えば、外の犬小屋で一緒に寝るくらい。 それも父に殴られて止められ、更に犬が啼く。 ある日学校に行き戻ると、ちび と名付けた その仔は居ませんでした。 残った首輪、近所を狂ったように探したけれど居ない。 父が当時、世田谷に在った保健所に。

「躾けも出来ぬものを飼うからだ」                  会社を立ち上げて、ストレスが溜まっていたのでしょう、 野方という小さな家が建ち並んだ西武線の住宅街、周りの目も気にしたのだと想います。 爺は今でも犬の名を呼びながら探す夢を見るのです、もう半世紀経っているのに

爺が更に小さい頃、ポインターが居ました。 ネルと言う名の優しい子で父が猟に伴っていたらしい。 爺は赤ん坊の頃から記憶が在るのですが、舐めてくれる時の犬の匂いを覚えております。 ネルもいつの間にか居ませんでした。 ブロードウェイが出来る前の中野駅、近辺の平屋のアパート、家の前にネルが、犬小屋に入り込んで一緒に遊んでいると、父に叩かれた。 あれは何を叱られたのだろう。

父はイタリア人のエニオ小父さんと知り合い、彼のデザインした商品を扱うことで、会社が飛躍的に伸びました。 そして、この地に土地を買い会社兼住宅を。

父は新宿の大ガードの向こうに住みたかったらしいのですが、当時は交通戦争等と言われていて、交通事故に遭い命を落とす子供が多かったので、母が反対し、また、伸び始めた会社の規模では、内側に大きなものを求めるのも難しく、たまたま掘り出し物だった、ここを求めて鉄骨ヘーベルの事務所を建て、住居は元からあった、平屋の木造家屋。 そこへ甲斐犬の乙姫が来ました、商売がうまく行っているので、趣味だった猟を始めようと爺が赤ん坊の頃以来の猟犬。

キジトラの和毛をゆっくりゆっくり撫でると、珍しく喉を鳴らしている。

「年寄りの昔語り、つまらなくはありませぬか?」          「犬の帝国から緩やかな猫の王国への噺、興味が有る、話せ」

では、続けましょう。 乙姫=ヒメは良い仔で小学生だった爺とも仲良くしてくれました。 紅い虎毛が混じっているけれど優しい目をした別嬪でした。 日本犬ゆえ、主人である父には絶対服従、父がウズラを求め、都庁は愚か京王プラザも出来る前の淀橋浄水場の跡地の野原で猟犬の訓練をするのに何度か付き合いました。

ヒメは可哀そうでした。 今、考えると父は愚か者で、何でも思い通りにならないと気に入らない、ヒメが放鳥したウズラを上手にリトリーブ出来ないと癇癪を起しきゃんっと言うまで打擲する。

会社が伸びて、今まで住居だった日本家屋を取り壊し、旭ヘーベルの新しい建物を建てるのに、この隣家のマンションを鰈手、そこにケージを入れ、ヒメも室内に。 

父の目を盗んでは、妹たちと一緒にケージの横で寝ておりました。 見つかると鼻血が出るまで殴られるんですけどね(笑)

ヒメが脱走したのは早朝でした。 散歩中、新宿中央公園の辺りで首輪が抜けたそうです。 爺は小学校が終ると、ランドセルも放り出し名を呼んで歩きましたが、二度と戻ってきませんでした。

甲斐犬は賢いし、出てこないという事は、どこぞで飼われたのでしょう、殴らない飼い主だったら良かったなと思うのです。

会社のゼロックスを使い、父が撮った写真を貼りこんで張り紙を作り、さんざん探した。 また逢いたい、戻っておいで。  父は割とすぐに諦め、多忙、建て替えの混乱を言い訳にしていた、  こいつ嫌いだ、爺が父を嫌いだした切っ掛けでした。

「おや、ティア姫、寝ちまいましたか、では また明日」




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