ドラゴンが飛んでいる。 満月、空はミッドナイトブルー
白き月に黒き竜

シヴァの城塞都市、大きな外壁の外に、もう一重、突貫工事で造られた壁がめぐらされている。 回廊が伸び砦や丸に繋がっている防衛線。

壁には攻城砲を防ぐ為、大きな長い鎖がカーテンのように垂らされている。

中央に有るロッソのシャトー、4つ有る塔のどれにロッソがいるか魔法で調べて有る。

満月の夜には窓を開け放している5階の部屋、ロッソはそこにいる
来たわ、ロッソ
カノンは心で呼びかけた。

本当なら王子様が姫を助けに来るのに、
ちょっと逆だけど良いわ
そう思いながら
アキュラ竜と窓に突っ込む、窓より遥かに大きいのに
そこは魔法だからすんなり入った。

ロッソはベッドで横になっていた
「なんだ、こいつ壊れてるのだ」
アキュラが嬉しそうに言う。

カノンは黙って背中から降りる、すぐにルナは気づくだろう
時間は無い。

右手を水平にまっすぐ伸ばす
「おいで、ロッソ・ノウィット・エニーム・ドミヌス・クイ・スント・エイス あなたは私のもの」

ロッソの身体が硬直したままベッドから垂直に立ち上がる。 寝巻きがわりの白衣一枚纏っている。 それが人形のように伸ばしたカノンの指先まで、するすると空中を移動してカノンが身体をまわし指で竜の背中を指すと
そこへ運ばれて、そのまま跨る、目は虚ろ、まるで木偶の様だ。

カノンはその前に座り、背中をロッソの身体前面に押し当て彼の両腕を肩に担ぐ
「行くのだ」
竜が飛び上がる。

ロッソの暖かい腕がうれしくて、振り返る。 がっくりした首がカノンの肩に乗って蒼い瞳は開いている、その中に居る自分。

左後ろに首を廻して、そっと口づけをする。
ルナが下の会議で長引いているから、その間、ロッソの様子を見ようと
マリアは2階から5階へ上がっていく

部屋に入るとベッドにロッソが居ない。 開け放たれた窓でカーテンが揺れている
ダークグレーの太い紐のようなもの、ずるずるっと窓から出て行く、棘の着いた竜の尻尾。 異変を察知し、背筋が寒くなった。

胸騒ぎがして、ルナは外に飛び出した、中庭から空を見上げると竜が飛んでいる。 月明かりに照らされて巫女とロッソが乗っているのが見える。

塔の2階の部屋でヒルダが本を読んでいた、疲れた目を休ませようと月を眺めると竜が飛んでロッソが巫女を後ろから抱きしめている、唇を合わせているのが見えた
「本当に男って・・・」
羊皮紙を開いた本の物語はノルドの神話、恋物語。
『クリエムヒルドの母、ウォテに忘れ薬を飲まされたジークフリートは・・・』

「全く、何回生まれ変わっても空気の読めない女なんだから」
ルナは怒りながら会議に戻った。
「どうした?」
グンターが聞いた。
「どうと言うことも無いわ、ちょっとロッソが誘拐されただけ」
場が凍りついた。
「すぐに取り返しに行かないと相手は?」
 2mあるハーゲンが剣を?みながら立ち上がる。 壁がいきなり出来たみたいだ。
「相手は教会の巫女です、竜に乗っていたから、ちょっと厄介ね」
「ルナ、随分落ち着いているが」
グンターは驚いている。
「本当にパニックのときは、ゆっくり動けと・・・」
「婿殿がか?」
「私が気づくのが遅れたこと自体、なにか細工があるのでしょう」
「婿どのは病で、身が案じられないのか」
「あの女はロッソが欲しくて仕方なかったから粗略には扱わないと思うわ、ただし飽きるまでだけど」
「ルナ、婿殿に性格が似てきたな」
「じたばたしても好転しないもの。 兄上、ロッソは病で何も出来ません、
今、この局面で、居ても居なくても同じこと、私は彼の代わりにこの国を守らなくては、それが彼が望んでいることだし、王妃の務めです」
ルナは眉間にしわを寄せて、小さく言い放った。

ダルヘンの沖10km 整然と並んだ大艦隊が碇を下ろしていた。
摂政、ハインツ・ブルーダー・フォン・フィッケンの旗下、ゲルマニア騎士の大軍が乗った500余艘の船だ。

クロイツェラー10万と言われている軍勢の大半5万を占める大軍団だ。
月明かりを頼りにここまで来たが事故を防ぐ為、入港は夜明けと決まった

明日、陸送されてくる馬を港で受け取り、身支度を整えてクロノスとシヴァに進軍する予定になっている。

艦隊の船はそれぞれ見張りを立てて寝静まっている、月明かりに、穏やかな心地よいくらいの風。 船と船の間で波が起こり船体を叩いて、ちゃぷちゃぷっと音をさせるは子守唄
ゆうらりゆうらり、ゆっくりした揺れはゆりかごのようだ。

そこへ音も無く忍び寄る細長い黒い影、バイキングの船、カヌートの手下の海賊たちがそっと忍び寄る。

その数、数千、グレートデーンだけではなく、ノルドやスゥエイドの海賊も総動員を掛けられている。
今までロッソの仕事をして気持ちよく働けたし、たんまり稼がせてもらった。

大きな船に小さな船が何艘も取り付き、大きな虫にたかるアリの様だ。

かつんかつんと音をさせて、鉤のついた投げ縄。 意外に出っ張りの有る木造船の船体をするすると登っていく。

それぞれが腰に油の入った皮袋を下げ身を沈め、辺りを見回してから
皮袋を開き、油を撒く、甲板から船倉に掛けて丁寧に撒いて行く

ひたひたと、ひたひたと 気づかれ、騒がれそうになれば、海賊の技で喉を一突き、声も出させず片付ける。
もとより、敵船に乗り込み分捕るのも商売のうち海賊たちにはお安い御用だ。

全ての海賊が自分の船に戻り準備が整うとバイキング船から丸い玉が投げ上げられる。 月明かりに黒い放物線を描き次々に甲板へ落ちる。

Chinaで発明された「てつはう」と言う手投げ弾だヘイバイトスとロッソで相談して更に工夫して改良されている。

中に燃えやすいように油脂がたんまり仕込んで有る、落ちたとたん、陶器で出来た球が割れて爆発的に火を噴いた。

火は甲板を這い撒いた油を辿るように燃え広がる、どろりとした油脂は甲板に粘りつきマストに木の壁に張り付いて燃える、更に火を呼ぶ。

予め撒いた油の効果は絶大で海を埋め尽くす大艦隊で船火事が起きる

消そうと水を掛けると熱せられた油は飛び散り、更に火の手が上がる。
逃げ惑う騎士や船員が炎に照りはえ、またシルエットになる。

バイキング船には、炉が置かれその上で丸い鉄玉を焼いている
「今までの木のカタパルトじゃこうはいかねぇやな」

カヌートが笑いながら、鉄球がカタパルトの鉄籠に乗せられるのを見ている。
ヘイバイトスが作り上げたレール式の最新型だ。 幅の狭いバイキング船を横切るように置かれているが小型だから取り回しが楽だ。

測距用のボードを見るまでも無く見当をつけて、ラチェットのボタンを押してレバーを倒す。
しゅんっと音がして籠がレールの上を突っ走った。

カタパルトから焼かれた鉄の玉が次々打ち出される、最初白く光っていて、
飛んでいくうちに照度が落ちて赤になり艦隊の横っ腹に突っ込んで穴をあける。その後にまた、てつはう。 甲板が燃え船倉からも火の手容赦なく燃えていく、どこの船でも阿鼻叫喚。

てつはうが破裂する音、火薬の臭い木がこげる匂い

「おーい、物資を積んだ輸送船は沈めるなよ」
カヌートは予め指示してあったことを大声で、駄目押しした。
部下から復唱が戻り、やがて、30余艘拿捕したと報告があった。
これで、またオアシが稼げる。
カヌートはにんまりした。

月明かりに負けない火炎の灯火、まるで昼のように明るくなった海に
艦隊から次々に人が飛び込む。 バイキングたちはそれを魚でも突くように
上から槍で突いていく。

戦闘用に造られたバイキング船と兵員が眠りこけた輸送船では勝負になるはずも無くゲルマニアの騎士団は、ほとんどが海の藻屑と消え去った。

夜明け、海に浮かぶのは無数の死体と物資大量の木屑。
その間をバイキング船が走りまわり大きな熊手で、めぼしいものを拾い
身代金のとれそうな貴族を掬い上げた。


教会の魔方陣、カノンとロッソを乗せたダークグレーのドラゴンが飛び出してくる。
「はい、お疲れ様、アキュラ」
「言うこと聞いてくれるって言ったよ」
「明日ね、今日はやる事が有るから」
「ロッソとナニするのか」
「馬鹿な事を言わないで、彼に本当を教えて魂を浄化してあげなくちゃ」
「そうか、ヲレたちみたいな純愛を貫けるピュアなハートにしてやるんだな」
「うーん、ちょっと違うけど、まぁそんなところ、本当にありがとう、アキュラ」
カノンが呪文を唱えるとアキュラは魔方陣の中に消えた。

ロッソは宙で直立している、足はつま先が床に向いているつま先と床の間に3cmほど空間が有る。

腕もだらりと下がり俯き加減の瞳はとろんと半眼になっている。
「髪が緑になっちゃったのね」
 カノンは暫くロッソを見つめていた。
「おいで」
カノンが手をひくと
ロッソは滑車に乗っているかのように、すぅっと移動した。そのまま礼拝堂を出て廊下から階段を上がり2階に有るカノンの寝室へ行く

自然にドアが開き、2人が入る。 カノンがベッドを指差すとロッソはふわりと宙で仰向けになり、ゆっくりとベッドに降りた。

その横に滑り込む
母親が子供にするように、横に寝そべり額から髪を撫でる
「私よ、ロッソ、私よ」
額に唇を押し当てながら何度も繰り返す。


ドラゴンのアキュラはスロンに飛んでいた。 ウンターシュタットかイーバーシュタットで夜這いを掛けると、ほぼ100%の成功率だった

割と性的に奔放な所なんだなと嬉しい。 もっとも、魔法で自分の見栄えを
良くするという技を使っているからという理由も有る。

ただ、ベッドに入り込み、いざ事に及ぶと哀しいかな、小さいのと未熟さが露呈され罵倒されることもたびたびで怒りの為に正体が露呈して大騒ぎ、強姦されたと騒ぐ女が多かった。

「世間体を守るためなら人を陥れる奴ばかりなんだから」
アキュラがぶつぶつ言いながらもカウクーのゴジャッペー地区へ行くのは
教養の高いカーリヤのスファラディの女たちに相手にされないからだ
貞操に関する考えが、他のカウクーと異なり堅固だから夜這いを掛けた時点で大騒ぎになることがほとんどでカーリヤでは成功したことが一度も無い。

被害者がゴジャッペーばかりで、カーリヤには居ないと言う事実が
強姦魔=スファラディという図式になり、
狭量で考えなしなゴジャッペーの世論が形成されていく
これが身勝手なゴジャッペーの被害者意識を造り
スファラディに対する反感を高める一因になっているのだが、神経質ぶっているだけで、実質無神経な本人はそんなことを知る由も無い。

「そりゃ、やる前に騒がれるより、小さいとか早いとか言われても
やってから騒がれるほうが得なのだ」
アキュラがなおもぶつぶつ言いながら、ウンターシュタット上空に来ると、
いつもと気が違っていた。

目をつけていた庄屋の家の上に来ると矢を射掛けられた、1本2本ではない
数十人の兵が一斉射撃。

どうやらマサカドの軍が警備に当たっていたらしい。竜になっているときは全身が亀の甲羅のように装甲されているから、かんかんと当たるだけで刺さりもせず跳ね返したが兵の気という奴がアキュラは怖い。

宙でくるっと向きを返ると帰ることにした。

カーリヤの上空に開いている魔方陣への通路へ飛び込み消えた。

マサカド軍が勝鬨を上げる。

レジデンツと呼ばれる教会の隣の小さな宮殿、以前は司教が住んでいた落ち着いた瀟洒な建物だカノンはロッソをここのベッドルームに移していた。

あの日から街道には見張りを立てているシヴァの王家が動いたら、すぐに逃げる用意もしている

ベッドの中でロッソを抱きしめる数日、こうしてロッソに触れ魔法の限りを尽くしているがロッソは木偶のままだ

そっと服をまくり、発達した胸に頬をつける。 左の胸に指をあてると
とくとくと脈打っている。

神秘的な性的技巧をこらしてみても、ぴくりとも動かない
ロッソは天蓋を見つめたまま蒼い瞳に光は無い。

「治してあげるわ、私が治してあげる治ったらいっしょに暮らしましょう」
愛しい男にキスの雨を降らせる。

その、同じ夜
タウゼント、スロン国境のトーネ川、タウゼント側の広い川原に軍勢が集結しだした。

ウィステリアフィールドとカンムー本家の連合軍 4000の騎士団と2万の歩兵・弓兵

馬の口を縛り、剣や弓に布を巻いて音が出ないようにしている。6000居る弓兵の半分は前回の敗戦に学びロングボォを用意している。

マサカドの動員力は多く見て5000
5倍の兵力でかかればよもや負けることはないし今回はこちらが官軍

緒戦を叩けば、マサカドとカンムー両方の旗色を伺っている諸侯もこちら側につくはずだ。
今度川を赤く染めるのはマサカドの血だ。

カンムー・ウィステリアフィールドとも復讐の予感に歓喜していた。

人足が4人ロープを持って水に入る、浅瀬を囲うように対岸までそれを張った。
ロープには暗闇でも見易いように磨き上げた金属の箔を貼り付けて有る
張り終ると、ヒデ・ウィステリアフィールドがさっと杖を前に倒した
騎馬隊の先陣がゆっくりと渡河を開始する。
ざぶざぶと水を掻き分ける音

対岸のスロン側で何か動いた。 びぃんと言うバネの音。 しゅんしゅんしゅんっと空気を切り裂き何かが騎馬隊の頭上を飛びタウゼント側の川原に落ちる。 破裂音と共に2m近い炎

馬が逆立ち、前脚を上げ瞬時に大混乱になる。上がった炎めがけて
つぎつぎに「てつはう」が撃ち込まれタウゼントの川原は昼の明るさになる

そこへ今度は、榴弾を仕込んだてつはうが飛んでくる、今度は派手に燃え上げる代わりにてつはうの中に入った無数の丸い鉛球が馬と言わず人と言わず食い込み、ばたばたと薙ぎ倒す。

ぶんぶんっと音がするたびに、10kgを越える岩も飛んでくる。薙ぎ倒される密集隊形の歩兵逃げ惑う弓兵にも容赦ない。

馬を捨てて慌てて逃げようとタウゼント側の土手に駆け上がり始めると
そこから敵兵が長槍を突き出して逆落としに落ちてきた。

ハリーポルテル率いるシュバイツ人の傭兵部隊、陸兵としては最強と謳われ
シュバイツの傭兵同士を戦わせると最期の1人まで止めないと言われている
死を恐れない死兵でもある。

それが3000、山岳で鍛えた足腰を持って川原の土手の斜面で
カンムーやウィステリアフィールドを突き立てる

逃げ場を失い、たちまち阿鼻叫喚死神の大鎌が頭上を旋回している
タウゼントの兵は恐慌に掴まれた。 いななく馬の声乱れた蹄の音
断末魔の悲鳴、骨を立つ音、飛び散る肉と内臓。 血飛沫に顔を朱に染める
てつはうの炎が下火になり、暗くなるとシュバイツの傭兵がさっと引き上げる

その後を追って逃げようとすると、また、てつはうが飛んできて
燃え上がる
砲撃が済んだと思ったらスロン側から騎馬隊が先ほど張ったロープを頼りに突っ込んでくる、水しぶきを上げ下馬している騎士、兵隊かまわず蹄に掛ける

「ハリー、見張りは?」
「カンムー本家も、ウィステリアフィールドも数を頼んで、ろくな見張りを立てていなかった」
「片付けたのか?」
「神に召された」
「これで、おまえも逆賊だぞ」
「いや、俺たちはプロさ、国には女房も子供も居る
稼がなきゃ・・・」
ハリーは童顔でにこりと笑った。
赤に白十字の傭兵隊、ハリーポルテルと赤に銀のアゲハの紋章のマサカドが握手をしたのは夜明け直後だった。

サダ・カンムー、ヒデ・ウィステリアフィールドともに捕虜になり、その主だった武将も捕虜または討ち死に24000の連合軍は散り散りになり
トーネ川に骸をさらし川原と川を赤く染めていた。


ロッソは礼拝堂に連れて来られた、魔方陣の横に有る祭壇に寝かされている。
服を解かれ裸体のカノンが上に乗る、ロッソの目は虚ろなまま
身体は全く動かない

魔方陣が盛り上がり形を整えやがて竜になった。

「なぁ、カノン」
竜が、ちろちろと炎を吐きながら不満そうに言う。
「ヲレのお願い・・」
いつ聞いてくれると言おうとして遮られた
「ごめんねぇ待ってね、アキュラ、もうちょっとだから」
「いつまで待てば良いのだ?」
カノンは裸でロッソにまたがったまま、まっすぐアキュラを見る。
「じゃあ、もう一つお願い 今度はアキュラも楽しい奴」
「なに?」
「ロッソの奥さんを頂いちゃったら?魔法を使ったら簡単でしょう」
「それ、楽しそうだなぁ、言葉虐めしても良いか」
「良いよ」
「縛っても良いかな」
「赤いロープにしてあげてね」
「いっぱい苛められるな」
「アキュラ好みの美女が3人よステキね」
「行って来る」
 アキュラは喜び勇んで魔方陣に飛び込んだ。陽が傾き、針葉樹の林上で夕焼け雲が刷毛で描いたように、その空を飛んでいく期待に胸を膨らませて

シヴァの城塞都市。この間より更に防御が出来上がっている、壁は厚くなり
鎖のカーテンは増やされている。

お目当ての女3人は城の中庭にいた、中庭でなにやら機械を操作している。

美女3人相手にハーレムだヲレの好きな変態がいっぱいできる。
アキュラは小さな陰茎を目一杯膨らませて中庭に音も無く降り立った。

「あっ、ドラゴン」
背の小さな可愛らしい女が言った、こいつは立ったまま後ろから貫く♪
黒髪の女がこちらを見る、こいつは長身にロープが似合うだろう
そして、王妃上品な顔立ちをしている。膝まずかせてヲレのをしゃぶらせてやる。 うれしくて、にへらと笑った。

小さな女がレバーを操作していた、 そう思ったら、顔に丸いものがぶち当たった。 ガシャンと割れる景色がオレンジの炎ごしに見えた。 だらっと垂れた脂が更に燃え上がる
「あっちあちあっちちち」
顔を覆い転げた。

また、スプリングの音がした、何かがざぁっと落ちてきた
20本の鉄の矢黒髪の女がこちらを見ている。

貫通力が強いらしく矢が腹といわず顔と言わず突き立った。

風が起こり良いにおいがしたと思ったら王妃がやけに長い剣を振り上げていた
「うひゃぁ」
と叫びながら逃げようとした背中に斬り付けられた、ざっくりと斬られて赤い血が噴出す。
たまらなくなって羽を出して飛び上がる。
「いてぇ、いてぇよ、有りえない」
アキュラは泣きながら飛んだ。

よたよた、落ちそうになりながら飛ぶ、魔法の呪文を唱えると
身体から矢が抜け、ばらばらと落ちる
火も消えて頭頂あたりでぶすぶすと燻っているだけになった
そして、背中、翼を動かすたびに傷が酷く痛む。

本当に酷い目に有った、痛すぎるし、悔しすぎる。 これと言うのもロッソがカノンを独り占めしているせいだ

こんな恰好じゃ恰好悪くてカノンの所へも帰れない、ロッソめロッソめブタ、紅い豚。 おまえの大切にしているものを壊してやる。 まずは手始めに、俺にやらせてくれなかった、カーリヤのスファラディを壊してやる。

アキュラはカーリヤにテレポートした。

カーリヤ上空で炎を吐いた、憤怒を炎に変えて家を焼いた。 折からの西風に煽られて家が燃え上がる面白くて、次々に炎を吐き燃え上がらせた

人々が家から飛び出し、家財を持ち右往左往する、それが面白くて炎で追い立てる。

陽が落ちた
ウンターシュタット、イーバーシュタットツェントロからカーリヤの火事が見える。

「カーリヤが燃えているべ」
「奴ら、正真正銘の異教徒だ財産を持っているのが生意気なんだ」
「今回はマサカドさまが勝ったけど皇帝の軍隊が来たらどうなるかわかんないべ今のうちに、スファラディをぶっ殺して皇帝陛下のご機嫌をとるべ」
「浄化だ、女はやっちまえ神の臣民の血をわけてやるだ」
「いくべ」
「いくだ」
カーリヤ周辺の住民が手に手に農具や武器を持って雪崩れ込んだ
その数1万略奪と殺戮が始まり、炎があがり、あちらこちらで強姦が行われた。

子供を抱えた女が子供を引き離され押し倒される。子供は炎に投げ入れられ
泣き叫ぶ女に数人の男がのしかかる。

年端も行かない少女の服を引き裂き、無理やり四つんばいにさせる

それがオレンジの炎に浮かび上がる、犯している農夫の表情はまさにオルグか魔か

父の、息子の、夫の死骸の前で陵辱される女たち、素人に刺され、斬られ、死に切れず呻く男たち赤い空に地獄絵図

アキュラが魔方陣から戻ってきた祭壇の上にロッソだけが仰向けに寝ている
アキュラの姿が竜から人に戻る2mの見上げるような大男。
ハーゲンに勝るとも劣らない偉丈夫

つかつかと祭壇へ行くとロッソの足を持った

以前自分がそうされたようにロッソをぶんっと投げる
礼拝用のベンチにぶち当たってベンチが壊れる

足をつかんで棍棒代わりに振り回しベンチを壊して歩く木片が飛び、ロッソの血が飛ぶ

「アキュラ」
カノンが礼拝堂に入ってきた、呪文を唱える、アキュラの身体が止まる
手からロッソの身体が逃げていく。

腫れ上がった顔。 血にまみれた緑の髪鼻血を噴出し、口も真っ赤になっている、目が腫れあがり細くなっている。

「なんでこんなことをするのロッソが壊れちゃうじゃない」
「こんな奴壊れれば良いんだ」
「なんで」
「なに一つヲレの思い通りにならない。やい、ロッソ、自分が壊された気分はどうだ。 おまえの大切な女房どもをやろうとしたら反撃したぞ、ヲレを酷い目に遭わせたから、おまえが大切にしていたカーリヤを焼いてやった。
暴徒に襲われてカーリヤは全滅だ。ざまーみろ」
「なんてことを」
カノンは呆然とアキュラを見つめた。身体も表情も動かないロッソの蒼い目から涙がこぼれた
ぼろぼろ、ぼろぼろ
「はんっ、ロッソが悪いのだ」
アキュラは言い捨てると魔方陣に飛び込んだ。


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