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⑫ 島根 出雲と温泉津

お仏壇屋時代の朝礼では、まず天照大御神をお祀りした神棚に向かいニ拝二拍手一拝し、それからお経を読んでいました。でも所帯を持たせてもらった40年のむかし、故郷の小ぶりなホテルの結婚式場に現れた神殿に何を誓ったかの記憶はありません。

他人と比べて言い訳するのは卑屈だけど、世間でも和装は神殿、洋装はチャペルの単なるイメージで二者択一していたと思います。中味を理解して、日本の神様かイエス様を選択して誓うなんて聞いたことがありませんでした。今のカップルはどうでしょう。目に見えない何かに宣言することくらいはしてるかもしれません。でも最もしっかり中味を理解する時代に変われば、仏式の復権もあるかも。・・・あぁいや、可能性は低いですね。

前置きはさておき、無事に40年夫婦を維持できたので初めて出雲大社にお参りしてきました。

広大な敷地に堂々とした本殿。ゆったりとした時間が過ぎるなか、出雲大社ではニ拝四拍手一拝と決められているようで、パンパンパンパン。この四拍は「ありがとうございます」のリズムに合います。お参りする方みなさんもパンパンパンパン、パンパンパンパン。感じよかったです。門前の宿は竹内まりやさんのご実家で、彼女やシュガーベイブのBGMが流れる食堂での料理は最高。何もかも、満足感に包まれました。

さて出雲まで行くなら2泊はしたい。せっかくだから大好きな「伝統的建造物保存地区」を巡りたいと思って検索したら、温泉津という町を発見。おんせんつ?、いいえ、ゆのつと読むとか。国宝の出雲大社と比べる必要はありませんが、温泉津もなかなかシブイ。世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」の構成要素の一つで、銀を積み出した港と港町として認定されたそうです。しかも、んっ?妙好人浅原才市さんの町?それは、絶対に見過ごせない。行かない選択は無いと思いました。

事前に水上勉さんの本を求めて才市さんのことを予習しました。北九州の直方で船大工として苦労された話、膨大な数の詩(口あい)を詠まれたという話。お取次ぎ寺が温泉津にあるということ、小浜と呼ぶ小さな港があること。これらを確認のうえで、温泉津の温泉宿を予約して泊まりました。夕方と朝の散歩は、さすがに島根県唯一の伝統的建造物保存地区。非日常感が溢れていました。

安楽寺さんという才市さんのお取次ぎ寺は、ご縁が深い浄土真宗本願寺派。ご住職からお寺に伝わる才市さんの逸話をたくさん聞かせていただきました。ご住職のひい爺さんのご法話を毎日聞かれていたようです。それをもとに1万本におよぶ口あいを詠まれ、ご住職に見てもらってその了解(りょうげ)を確認された。また口あいは人に見せるためではなく、全部ご自身のためのプライベートなもの。親しくなった方が、あまりに素晴らしいので何とか公開するように勧めても絶対に認めない。それで最終的に「自分がハワイの布教所に行くけど、きっともうあなたには会えないから思い出に持っていきたい」と依頼した結果お許しが出て持ち出すことが出来て、そのうちいくつかが後世に残ったことで広く知られるところとなったとか。そのほかの多くのものは才市さんが火にくべて燃やしたか、災害で失ったそうです。

おそらくそのころSNSがあったとしても才市さんは利用されなかったことでしょう。YouTubeでワンクリックでふんだんに布教使さんのご法話が聞けるようになりましたが、妙好人さんのお話は訪ねて初めて触れられるリアルな仏さんのお話でした。

今回の旅は、国宝の松江城お堀めぐりも石見銀山の坑道あるきも先人のご苦労の姿が偲ばれるとても良い経験でしたが、浅原才市さんの生家や像を見られたことは「つねに我が身を振り返り、感謝のうちに励みます」を反芻するまたとない機会になりました。なんまんだぶなんまんだぶ。

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