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#54 都合のいい女になる決意

こんにちは。id_butterです。

人生で最高に不幸な時に恋に落ちた話 の54話目です。
最近たまらない気持ちになってしまったことがあって、そのことを書く。

去年の夏くらいにはじまった、この謎の恋心にわたしは一喜一憂してきた。
恋心だけじゃなくて、仕事や家族、生活のすべてに翻弄されてきた。
それで、疲れたしひと息つきたくなったここ最近、ちょっと彼から離れてみた、といってもほんの1ヶ月だ。

でもその1ヶ月だけでも、わたしの気持ちは大きく変わっていた。
好きだけど、なんか遠くなった。
久しぶりの打ち合わせで、緊張するようになってしまった自分に気づく。
うまく話せないのだ。

仕事はもう評価を残すだけ、そのためにメッセージのやり取りを再開した。
そのときに、「MTGでは緊張して、言うのを忘れてしまったのだけど、ありがとう」と伝えた。
痴漢に遭ったことを自分のせいだと思わなくなったとか、両親に手紙を書けたとか報告に添えて、あなたのおかげです、ということ。

「緊張しないでよw」からはじまるその返信に含まれた、ただの一文。

僕も介護フェーズに入りそうなので、困ったら話だけでも聞いてください

これに、やられた。

離れちゃいけなかった。
というのが一番に思ったことだった。

「ください」
彼が自分のことでそんな風に言ったことは一度もない、記憶のかぎり。
たとえ軽い口調であっても。

うぬぼれに聞こえてしまうかもしれないし、妄想過多なのも自覚している。
でも、「話だけでも聞いてください」が「離れていかないで」に意訳されて聞こえてしまった。誤訳かもしれないが、誰も困らないので許して。

ひとりっ子で愛されて育った彼にとって、家族は特別なものだとわたしは理解している。
実は、わたしにはあんまりわからない。
でも介護になるかもというもっと手前でちょっとだけ話したとき、彼は体調もさることながら、その介護にあたる親御さんの心境にも胸を痛めていた。
仲の良いご両親なのだそうだ。
当然、ご両親も彼を信頼している。

彼がときどきしてくれる、こどもの彼とそれを見つめるご両親の話がわたしはとても好きで、話してとせがんだこともある。

だから「介護」と「ください」を含むこの短い一文に突き刺された。
わたしが離れようとしていたときに、なにか進んだのかもしれない。
そんな最中に彼を傷つけてしまったかもしれない、と思うと胸をつかれた。

わたしにはできないことがある。
彼に対してだけ、どうしてもできないことが。

嘘がつけない。

全然胸をはれることじゃないのだが、わたしはとても嘘をつくのが得意だ。
そもそも、自分にすら嘘をついてきたから自覚すらない。
息を吐くように嘘をついていたりするし、得するためとかですらない。
ただ、なんとなく、だけで十分だった。
大人になると、嘘をつく方が面倒なことになるからやらないように気をつけていただけで、罪悪感とか正直全然ない。
こどものころの育ちの悪さはこういうところにでる。
気をつけることはできても、癖を自覚しないと直せないってこと。
嘘をつかないのが当たり前だってことを知らないこと。等々。

けれど。
彼には、嘘がつけない。
なんなら隠し事とかもできない。
後ろめたいことがあれば、すぐに自白してしまう。いう必要もないのに。
というか、言わなくても伝わってしまう気がするのだ。
自分の皮が透明になって、中身が全部透けて見えてしまっている。

これは、とても厄介だ。
彼を傷つけることすらも、隠すことができないからだ。
だから、離れるときも全部言った。思ったことを、全部。
傷つけるかもしれない、でも言わないことも彼のプライドを傷つけるから。
どうせ、わかってしまう。
変に大人ぶって言わない、という行動で傷つけるくらいなら全部言った方がいい。

なんで。
だが後悔しても、そのようにしかできないし、ならない。

逆に、彼はあんまり何も言わない。
本音とかプライベートとか、まぁ、言ってくれない。
でも、それでも伝わってくるときがある、今回みたいに。

最初のころは、わたしが追い詰められているときだった。
わざとじゃなかった。
もうわたしがどうしようもなく崩れてしまうと、本音とか普段言わないことを「わたしのために」ポツポツ話してくれる。
そのあとは、彼に信じてもらいたかったから、かもしれない。
言い方は悪いけど、犬がお腹を見せるみたいに、こどもが親に全部わかられてしまうみたいに、あえてしてきた。
そうすると、彼が最後に自分の本音とかを1行だけ、言ってくれる。
彼は安心してくれているのだ、と思っていた。
(詳細は省くけど、このせいでわたしは彼から「性欲が強くなった」と思われている…とほほ。どんだけやらかした笑)

でも、それくらい本音が聞きたい。
好きだから。
それに、心配だから。
お酒をのみすぎてしまう彼のお酒を少しでも減らしたい気持ち。
そう、本音には彼がもらせないぼやきみたいなのも時々あった。

つきあっているわけじゃないから、干渉できない。
どうやら一定の距離を保ちたいらしい彼が「しょうがなく」距離を近づけてくれる、それを狙う戦略だったはずなのだけど、そのせいで近づきすぎた副作用に今やられている。

そもそも、今回はすこし違うのだ。
わたしは何も仕掛けてない、それなのに本音が見えてしまっている。
おそらく、最近彼は弱っていて、それに気づいてしまった。

でも近づかせてはくれない。
弱っているのがわかるのに、つきあっているわけでもないし何もできない。
一旦作ってしまった距離があって、いつもみたいに自然に「全部いう」作戦ができない。
彼が本音を見せられるような環境を作る能力を、わたしは失った。

でも。
なんでこんなに心配なんだろう。
彼は何ならわたしより大人で、年下だけどしっかりしている。
なんてったって上司様であるし、優秀なのだ。
わたしの妄想なんじゃないか、わたしが異常なのかもしれない、なんかストーカーみたいにわたしがちょっとおかしくなった?

何度も打ち消したけど、不安が拭えない。
彼が本音を言える場所になりたい、ならなくては。

そんなことを考えていたら、最初に好きだって言ったときのことを思い出した。#8 のときだ。

あのときも同じようなことを考えていた。
彼がつらそうで、味方だよって伝えたかった。
好きになってほしいというより、信じてほしい気持ちの方が強かった。

今も、ほんとうは関係の名前なんてどうでもいいのかもしれない。
好きになってほしいという気持ちがないわけじゃない。
けれど、それよりも彼に何もしてあげられない方が何倍もつらい。
なんでなのかはわからないけど。

何にもできない。
させてくれない。
かなしい。

彼がちょっとあったまるなら、もうセフレでも毛布でもなんでもいいからそばに置いてくれないかな。
ポコポコ赤ちゃんを産んでくれるかわいい女の子ともう結婚しちゃえばいいのに。そうしたら、何がなんでも笑ってご祝儀を渡してみせるのに。
好きじゃなくなれば、友達だったらずっとそばにいられるだろうか。

単なる片思いだったはずなのに、もう意味がわからないことになっている。
距離感とか、何がほしいのか、どうすればいいのか、もうよくわからない。

しょうがないので、また好きだということにした。
「緊張しないでよw」に、
「好きすぎて緊張するだけだよ笑」
と返信した。
そうしたら、無事既読?未読?スルーされたので、何となく安心した。

すこしは安心してくれたのかもしれない。
もう、しょうがないから言い続けてあげることにする。
なんて都合のいい女なんだ。
(でも、意外とセフレとかできないんですよ。)

あれだけ努力して離れたのに、徒労に終わったのは残念だけれど。
これが、今はいいのだからもういいや。


bucknumberで一番好きな曲。


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