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「謝れば済むって思うなよ!」
「謝れば済むと思ってんだろう」

現場で接客をされている方なら、一度は言われたことがある言葉ではないでしょうか。こちらに非があるかないかに関わらず、ご迷惑をおかけしたことに対して、真摯にお詫びしているのに怒鳴られてしまう。

「謝れば済むって思うなよ!」
「謝れば済むと思ってんだろう」

お詫びしても、謝罪の言葉を重ねても怒りのスイッチが入ってしまうと、この手の方は容易には振り上げた拳を下ろしてはくれません。

昭和という太古の時代にマナー講師によって作られた「謎マナー風」の仕草には

「お客様にご迷惑をおかけしたらまずお詫び」
「こちらが悪くなくてもまずお詫び」
「ご納得いただけるまで誠心誠意お詫び」

があります。謎マナー研修でも繰り返しロールプレイが行われます。私に言わせれば「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」のようなドM接客は働く人の心を痛めつけるだけで、一万害あって一利なしとしか思えません。

これって、誠実でもなんでもなくて、ただの思考停止ですよね。それでうまく言ってないのですから、やり方を変えないと。


では、少しだけ冷静に分析してみます。

「どうしたら良いか」ではなく「なぜ、そうするのか」を考えてみます。太古の謎マナー講師が言う「誠実(風)のお詫び」の先にある目的は、

「誠実な社員さんだな、ここまで腰を折って心からお詫びしてくれている。迷惑も被ったし、嫌な気持ちにもなったけれど、今回は許してあげよう」

と思って、怒りの鞘を納めてもらうことが目的なのでしょう。
知らんけど、多分。

日本全国、謝っても謝っても許してもらえず、怒りは増幅するばかりで、ついに心折れて出社できなくなっている人を大勢知っています。

「いや、それでうまく言っているよ」と言うケースは一見、クレーム対応に成功したように見えますが、それは先方が「もういいや」と諦めて立ち去っただけ。恐らく納得などしていないし、二度とリピートすることもないでしょう。


クレーム対応の本質は顧客心理。

「何を言われているか」ではなく「なぜ、言っているのか」に着目しましょう。

(1)なぜ、この人はアカの他人にここまで感情爆発させるのか(原因)(2)怒りの理由を知り怒りを認める(共感同調)
(3)どうしても欲しいと思っているのか(着地点)
(4)自分(接客側のメンタル)を守るための心得



(1)なぜ、この人はアカの他人にここまで感情爆発させるのか(原因)

怒りの理由が明確な場合でも、怒りの本質はそこにはないことがあります。私自身が過去、大失敗してしまった経験で言うと、クレームの原因は明らかだったのに、私がその申告を受けた時、「まあ、それを言っちゃおしまいよ」と心の中で思ったことが、私の表情に出たことがあるのですね。「ふっ」と一瞬だけ笑ったのです。無意識に。

そのお客様は、自分が深刻に相談しているのに馬鹿にされたと思ったのでしょう。後から「あなた、あの時、笑ったでしょう」と言われました。

怒りの原因はクレームを引き起こした元の原因ではなくて、私の態度だったのです。

思い込みは危険です。

クレーム対応はコミュニケーション。怒りの爆発はコミュニケーションエラーです。(悪意があるクレーマーは別です、彼らは犯罪者です)

まとも(だと思われた)お客様が感情爆発しているときはお詫びするよりも先に謝罪以外の言葉を使って、コミュニケーションを取る努力をしてみましょう。

申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません

と念仏のように連呼することは、接客側の、お客様に対しての「コミュニケーションの拒絶」なんです。話し合う態度ではないのです。

「これだけ謝ってるんだから許してよ」
「こんなに謝っているのに許さないあなたはクレーマーだよ」

と、謝罪しているふりをして、喧嘩をふっかけているようなものです。太古の昭和マナー講師の先生方、ここ重要です。謝罪しているフリを現場に強要しないでくださいね。

怒りが収まらないお客様には同調、共感、質問を投げかけて、コミュニケーションを取るようにしてください。小手先のテクニックですが、まずは怒りを収めるための第一歩。怒りを認めることです。(誰が正しいかは関係ない)

「お客様のお怒りはごもっともです」
「私がお客様の立場なら、同じような気持ちになると思います」

これは「正直」そう思ってなくても構いません。怒りが収まらないことには話し合いになりません。怒鳴っちゃている時点でダメ出し、大声による恫喝は犯罪なのだけど、怒らせてしまった原因が「もしかしたら」こちら側にある可能性があるので、謝罪する前に「なんでそこまで怒るのか」を本人から聞き出すのがいちばん良いのです。

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※注意
ただしボルテージが上がってしまい、「●すぞ」「●ね」「●っ飛ばすぞ」「馬●野郎」などのNGワードが出てしまったときは、100%こちらに非があったとしても、すぐに警察を呼びましょう。一線を超えてしまっている人につける薬はありません。

警察呼べない?その場合は「大声で恫喝されてしまい、話し合いが続けられませんので、これで終わらせていただきます」と終了を宣言しましょう。防犯カメラ、ない場合は音声の録画なども忘れずにお願いします。クレーム解決よりも自分の身を守ってくださいね。そこまでのお給料はもらっていないはずです。
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まともなお客様なら、自分がなぜここまで怒っているかをキチンと伝えてくれます。ボルテージが上がって意地悪がしたくなり「そんなことはお前が考えろ!」と言われても怯まずに「以前、思い込みで対応して失礼がありましたので、直接、お客様からお伺いさせてください」などとしっかり向き合います。
原因が特定できないと、次に進めない。

思い込みや、マナー講師の先生方が大好きな「察する力」でズレた対応をするのはやめましょう。人の心を透視するなんて、エスパー伊東じゃないのだから、私たち素人にはできないのです。

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「自分に責任があったとしてもお詫びしない方法はありますか?」

と質問をいただきました。絶対ではありませんが、あると思います。

思います、というのは先方も人間ですから心理状態は人それぞれ違いますし、「これをやれば絶対」というテクニックはありません。

それでも太古の昭和マナー講師の先生方が念仏のように唱える

「とにかく謝罪、すぐに謝罪、誠意ある謝罪」をするくらいなら、お詫びなどしないほうが解決には近づきやすいです。なぜか?

多くのケースではお客様は「謝って欲しくて」怒っているのではないからです。謝って欲しいのだったら、繰り返し謝罪したら大満足なはずです。謝っても収まらないどころか「謝るな!」と怒っているのです。原因が誰にあるかなんて、ここでは問われていません。

つまり、あなたが悪いかどうか、トラブルの原因が誰にあるかは基本的に関係ないのです。では、お客様はどうして欲しくて怒っているのか。

これは、身も蓋もないのですが、実は本人に聞いてみるしかないのです。

「どうして、そこまで怒っているのですか?」と

ただ、こんな聴き方をしたら、更に怒りは増幅します。現に怒っちゃってますから、まずは怒りを収めないと先に進めないですね。

「お怒りはごもっともです」

と怒りを認めることで、少なくとも謝り倒すよりは事態が改善に向かいます。100%自分の責任だとわかっていても、今はそこに責任を感じるのではなく、

「ご不便をおかけします」
「お怒りはごもっともです」
「大変心苦しく思います」

など「申し訳ございません」以外の言葉を投げかけて、先方が落ち着くのを待ちましょう。

お客様が何か口にされたら基本的にはおうむ返しで同調してみてください。

「急いでいたのにどうしてくれるんだ!」
「お急ぎでいらっしゃいましたよね」

「大事な会議に間に合わなかったらどうする?」
「大切な会議がおありだったのですね」

「こんなことをされたのは初めてだ!」
「お気持ちお察しいたします」

「本当に気分が悪い」
「ご気分を害してしまい心苦しく思います」


壊れたカセットテープレコーダーみたいに「申し訳ございません」を繰り返すのではなく、会話が卓球のラリーのように行き来するイメージでやり取りすることです。

申し訳ございませんは単なるサンドバッグです。

叩かれている方は心身を病みますが、叩いている方も(悪意あるクレーマー以外は)、別に叩きたくて叩いているわけではないので、怒りが増幅するのです。

会話っぽくなってきたら、お客様が解決の糸口になるキーワードを何か言い始めます。

「子供の誕生日だったんだよ」とか
「やっと取れた貴重な休みだったんだ」とか

会話が成立するようになったら、ぜひメモを取ってみてください。先方から見ると「真摯に向き合っている感じ」がします。これ、大切です。怒りときちんと向き合っている感じが作れます。

いや、実際に向き合っているのですよ。メモを取ることは、先方への最大の敬意です。「逃げませんよ」のサインです。

太古の昭和マナー講師の先生方が提唱される「とにかくお詫び、最初から最後までお詫び」はスキあらば、謝って終わらせようとのずるい思惑が見え隠れするのです。

おそらくですが、

(1)同調、共感、怒りを認める
(2)会話を復活、成立させる
(3)メモを取り、論点を明確にする
(4)悲しみや困惑を可視化する
(5)対策を共に考える

ここまでやれたら、一度たりとも「謝罪」をせずにゴールまで伴走することは可能です。ただし、多少の経験、テクニックは必要になりますから、無理をせず、自分の心身を大切にしながら、試行錯誤してみてください。

最後にもう一度言います。

謝罪はコミュニケーションの拒絶です。謝った方がいいケースは限定的です。

<謝罪した方がいいケース>

(1)お客様に実損が出ている
 服を汚した、モノを壊した、金銭的な損害を与えているなど

(2)お客様のメンツを潰した
 他の人がいる前で犯罪者扱いした、恥をかかせたなど

これは可能な限り責任者が出て行って、「立場」ある人から謝罪した方がいいです。特にメンツを潰したケースにおいては、早急な損害回復が必要となります。

少しでもお役に立てたら幸いです。
ご質問、経験談、異論反論など大歓迎です。

謎マナー根絶と過剰要求をなくす機運を盛り上げていきましょう。

高萩徳宗

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