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【読書感想文】『居酒屋』ゾラ

2019年12月に個人サイトで書いた感想文をサルベージしたものです

『居酒屋』(ゾラ)を読みました。
古い海外文学全集の、 古賀 照一 訳です。

前半までの感想


しんどい。

非常に有名なフランス古典文学であり、ゆえに結末が悲劇になることは残念ながらわかってしまっています。
精緻で手の尽くされた描写を積み重ねながら、貧しくとも平凡で善良な庶民の女性がじわじわ、じわじわと泥にのまれていくように沈んでいくさまが丹念に丹念に描かれていくの、かなりつらい。
ちょっと浮上したかと思うとそれは罠でしかなく、浮上させてくれた人のために緩々と沈み、また浮上したかと思うとガクッと沈む。

一番最初にド底辺まで落とされて、そこからは2歩進んで3歩下がるの繰り返し。たまに5歩下がって4歩進みますが、沈んでいることには変わりがない。 つらいよー……。

何がつらいって、こんなに鬱々としながら読んでいるのに、まだ半分以上ページ数が残っていることです。
いったいどうなっちゃうんだ……知りたくない………。

2019.12.14

読了後の感想


すさまじかった。

中盤まで(破滅の気配だけは漂わせながら、浮き沈みが小さく続く日々)は、これからどうなっちゃうのかが恐ろしくて遅々として読み進められなかったんですが。階段を踏み外したように、中盤以降で転げ落ち始めてからが止まりませんでした。

堕落し絶望してからが、文豪・ゾラの真骨頂。

丁寧に糸を繰られた人形劇のように、張り巡らされていたこれまでの描写が次々と色彩を変え伏線となって立ち現れて、人々の何気ない日常こそが絶望の色に変貌していく。

序盤で「父が酒で死んだから自分は絶対酒はやらないんだ」と主張していた男が、怪我をきっかけに労働から離れてしまったところ、僻みと倦怠から、あっという間にアルコールに溺れてしまいます。
でも、中盤のあたりでは、彼は陽気な酔っ払いでしかなかった。
ちょっと厄介ですが、それだけ。
そんな彼が次第にやつれ、毎朝胃液を吐くようになり、痛みすらも酒で誤魔化すようになり、最後には狂い死んでいくさまがリアルに容赦なく、痙攣の時間や部位やおかしくなってしまった幻覚の細部までが物凄い筆力で描かれていくところは圧巻でした。
なんか、こう、あの。
月並みな感想ですが、お酒はあまり飲まないようにしようと思いました……いやほとんど下戸なので大丈夫なんですけど……。

けれど、考えたのです。
私はストレス解消に~といって、気楽にコンビニで買ってきたお菓子を毎日ちょこちょこ食べたりするわけです。身体によくない、食べ過ぎれば将来的に病気になる、とはわかっていても、やっぱり週に1回とかじゃ我慢できなくて食べてしまう。
そりゃお酒に比べれば、甘いものの害はあまり直接的でも重篤でもないし、依存によって精神が崩壊する~というほどのものでもない。(イライラしやすくなったりするらしいので、まったく害がないわけではなさそうですが)
でも、取り過ぎない方がいいんだよなあ、と思いながらも、甘いものをボリボリ食べてはいます。

現代には、ストレス解消のために、こんな風にお菓子があって。
娯楽も多いから、ゲームをやっていっちょストレス解消、とか、漫画を一気読みしちゃうとか、そういうストレス解消法もできる。

ストレス解消の方法が、もしお酒くらいしかなかったのなら、私はどうしただろうな。

そう考えてしまうと、『居酒屋』のジェルヴェーズの末路も、ぜんぜん他人事ではないのです。
『居酒屋』で死んでいった人々は、誰もが明確な悪なんかではなくて、ちょっと安きに流されやすいだけの普通のいいひとたちだった。たった200年程度しか経っていないんだから、彼らの歩いていた地獄の縁は、きっと今も私の真横に口を開けて待っている。

しんどい一冊でしたが、読み通せてよかったです。

2019.12.27


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