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今日もアーケードにいます

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すべての記事をまとめた一冊です
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2021年8月の記事一覧

第38話:ダリア

ダリアを 抱えて 電車に乗った 着いた場所で 雨に降られた ダリアを抱えて 傘をさした しばらく行くと 道が、分かれた 抱えたダリアを 軒先のシャッターに 立てかけて 電話した すぐ近くまで 来ていた そうしてやっと ダリアを抱えたわたしを 彼女が 迎えてくれた 抱えたダリアを 彼女にわたす 彼女はダリアを抱えて うそおダリア と笑った 昔一緒に 花を売っっていた頃 ダリアを何十本も抱えて 彼女は忙しく 走り回っていた

第37話:スイカを割りに

はい、絞めるよ 絞められている間は なんだ、本当に真っ暗だ と思いながら 口元は やっぱり ちょっと ゆるんでいたかも 集まったのは 新鮮食品売り場の 三人と 警備員さん それから清掃のグループ そしてわたし 一番若そうということで 棒を振り下ろすことになった スイカ、ほんとうに 割れますかね 何回か 外したのちに スイカは 真っ二つに割れた 警備員さんが 薄暗い地下に 手持ちのライトを 照らす 静まり返った アーケード

第36話:夜の定食屋

閉館前 アーケードに向かって お辞儀を繰り返す、あの あれ、あの儀式 なくなるかもしれないよ 社長にいわれた 夜の定食屋は 社長には あまり 似合わない 社長の 手首の銀の時計 右手でくるくる 動かして 触る、その手と 竹箸を持つ手が 同じ手だということを たった今、この 夜の定食屋で 知ってしまった そういえば、 お彼岸の発注さ、 社長が水を飲むと 蝉が一匹ずつ 静かに死んでいくような 心地が かすかに 湧いてくる 菊

第35話:コスモスとグラウンドピアノ

市民会館の 大ホールに 真っ黒な グラウンドピアノを 見たのは コスモスを生ける前の まだ静かなときだった 舞台に立つと 鍵盤と 木目板の 香りが 通り抜けては また香った 舞台の中央の 一角に 新聞紙を並べて コスモスの束を 置いた コスモスを 手に取ると 少し湿った ほっそりとした葉が さわさわと ゆれた リハーサルの こどもたちが やってきた ひとりひとり 順番に グラウンドピアノに 触れて 音を たしかめ

第34話:キャンプ

長く続く 波のような ゆれだった ゆれがおさまってから アーケードの警備員が すべてのひとを アーケードの入り口に 誘導した テナントのスタッフの 安全確認をしてから 各店長は 店の前に立って アーケード側の 指示を待った 安全確認を終えた スタッフらが 店を後にして アーケードの 入り口の方へと 歩きだしている 店舗待機の店長らは 書きかけの日誌 準備中の棚 清掃中の床 にとりかかる 花屋は 桶の水を 取り替えながら

第33話:お惣菜屋さん

朝9時集合といわれ 会議室に入ると 総菜屋の店長が パイプ椅子に座って 煙草を吸っていた 目が合うと 店長会議は アーケード側の都合で 突然中止になったと おしえてくれた 総菜屋の店長ではあるけれど 頭に布を巻いていない 真っ白な長靴もはいていない ここらへんも物騒になった 店を閉めて 駅のロータリーに 降りると 地べたに座って 歌っているひと ずいぶん増えた そうですね 缶ビールを片手に ロータリーをうろうろしているひとが 結構

第32話:ひまわり

お向かいのケーキ屋さんに 最近 新しいひとが 立っている アーケードの明かりが消えたのに まだ明かりが灯っている ケーキ屋さんで 新しい人が ひとりで ケーキのショーウィンドウを ふいていたので 捨ててしまうだろうひまわりを 持って行った 翌日、同じ時間に 同じ人が ウィンドウに霧を 吹きかけているところ きのうと同じ花を 持って行った その次の日には もう別のひとが ウィンドウに 薬をかけていた 売れ残ったひまわりは 半分捨て

第31話:枯れない花

花が枯れたと 電話があった 買った翌日に 枯れたのだそうだ じゃあ、新しい花を、プレゼントします そうゆうことじゃない、電話のひとはいう じゃあ、どうゆうことだろう 水を入れましたか? 当たり前です 室内のエアコンがききすぎていたとか…? 動物の仕業でしょうか…? それとも、花の寿命でしょうか…? 結局、電話は一方的にきれた 翌日、わたしの家のシャクヤクも枯れた というより、散った そうこうしているうちに 仕入れる花もほとんど草木に変わった

第30話:来客

店番をしているから、おいでよ と言ってしまったのは 昨日の夜のことだった わたしの働くアーケードがある街に 住んでいる、昔の友人が やってきたのは、翌日の14時、 アーケードが少しだけ 居眠りするような 時間だった 今日仕入れた花がようやく店にならんで 古い花がレジの後ろの小さな作業台に 散らばっていた アーケードに背を向けて 古い花を一本一本 手に取って、捨てていた 名を呼ばれて振り向くと 友人が立っていた もう十年以上見ていない顔だった

第29話:真っすぐに

アーケードのおもしろいところはいろいろある 例えば人が真っすぐに歩いているところ アーケードが真っすぐに伸びているから 花屋はアーケードに入ってくるひとが 一番最初に通り過ぎていくお店だ ☆☆☆ 夜中に目を覚まして バラの花をちぎるのは ジャムをつくりたかったのに 花はどんどん 腐っていくから 茎はとうに黒くなり パサパサと落ちてくる花びらは 湿っている 通り過ぎていく人が 見ない花を持ち帰って 時々テーブルの上に飾って どうゆうわけか 自

第28話:ヤシの木

涼しくなった日に 友人に久しぶりに会った もうすぐ結婚する友人だ 今日はアーケードが閉鎖される日なので アーケードに行く必要がない 友人のはなしをきいている でも、きいているふりをしているだけで 正直に笑っているようにしているだけで アーケードに置いてきたスプレーバラの50本のことが 頭をかすめたり 昨日しまった売上表にコーヒーをたらしてしまったことが もどかしくなったりしていた 友人が結婚するはなし、ではなく 過去にいたクラスメイトが 今頃同じ街