第28話:ヤシの木

涼しくなった日に

友人に久しぶりに会った

もうすぐ結婚する友人だ

今日はアーケードが閉鎖される日なので

アーケードに行く必要がない

友人のはなしをきいている

でも、きいているふりをしているだけで

正直に笑っているようにしているだけで

アーケードに置いてきたスプレーバラの50本のことが

頭をかすめたり

昨日しまった売上表にコーヒーをたらしてしまったことが

もどかしくなったりしていた

友人が結婚するはなし、ではなく

過去にいたクラスメイトが

今頃同じ街をうろついているのではないか

という話になっているので、

クラスメイトの名を上げていくと

ようやく友人が好きだった人の名前が上がり

一番最初に、告白した相手の名と

結婚するひとの名が偶然同じだということがわかった

友人がうれしそうにしているのを見ていると

アーケードでずっと立ったまま、花に囲まれている気持ちが

ますますわからなくなった

友人と別れた後

ひとりで道を歩いていると

クラスメイトの顔と名前が次々に浮かんできた

改札に向かって

アーケードの従業員センヨウ入り口の前を通ると

いつもは見慣れない

大きな木が

立っていた

透明な分厚いビニールシートで

全体をくるまれて

どっしりと立っていた

ビニールを上の方から剥がしてみると

葉が吹出したように、頭上に垂れてきた

ヤシの木の葉は頭に触れると

ちくりとした

ビニールはするすると剥がれた

つるりとした幹が現われた

幹の足元に座って

夕暮れを眺めた


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