第30話:来客

店番をしているから、おいでよ

と言ってしまったのは

昨日の夜のことだった

わたしの働くアーケードがある街に

住んでいる、昔の友人が

やってきたのは、翌日の14時、

アーケードが少しだけ

居眠りするような

時間だった

今日仕入れた花がようやく店にならんで

古い花がレジの後ろの小さな作業台に

散らばっていた

アーケードに背を向けて

古い花を一本一本

手に取って、捨てていた

名を呼ばれて振り向くと

友人が立っていた

もう十年以上見ていない顔だった

両手に持っていた

コーヒーカップのひとつを

レジ台の上において

花をみたいといった

今朝並べた花を飾っている

レジの横に

友人と並んで

花をみた

友人はコーヒーを啜りながら

時々、これは、ドラセナの葉っぱ?大きいねえ

とか

この花、うちのおばあちゃんちにも咲いている

かわいいよねえ

とか

花を愛でていた

わたしは時々レジに入って、

こっそりとコーヒーを一口、二口、飲んだ

友人が、きょう花を見れてよかった

と言った

いつでも、また寄ってね

というと

ずっとここに住んでいるのに

今までどうして気付かなかったんだろう

と笑いながらいった

アーケードにはたくさんのひとがいるからね

埋もれてしまうんだよ

実際に、花を見ている人は

時々花ばかり見て

店員などには

ほとんど気付かないということもあるのだ

でもね、このアーケードわたしほとんど通ったことすらなかった

友人が言った

住んでいると、案外、通らない

わたしはこのアーケードに住んでいるようなものだから

この街をほとんど知らない

友人が手を振ってアーケードから出て行った

古い花を捨て終わってから

流し台の小さなスペースで

残りのコーヒーを

飲み干した



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