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カメラマンはなぜ必ず笑顔を撮れるのか

写真・映像科を卒業後、カメラマンになりました

ポスター、チラシ、CM、ホームページ、商品パッケージなど
私の専門は、食品と人物の撮影です
カメラマンにはそれぞれ自分の専門分野があります

駆け出しのころ苦労したのは人物撮影でした
笑顔を撮ることのむずかしさ
カメラマンなら必ず通る道ですが、これと戦っている時期は本当に苦しいものです

人物撮影の案件で被写体となるのは、多くの場合が初対面の相手
限られた時間の中で場を和ませ、自然な笑顔を撮ります

シンプルですが、最初はこれがとても難しい
上手く笑顔が撮れなければ、カメラマン失格、次の仕事は来ません

カメラマンはみんな、何年かやっていると気付くのです
重大な勘違いをしていたことに…

笑顔を撮るとなると、面白いことを話したり、気の利いたことを言ったり、コミュニケーションの中で相手を楽しませて笑顔を撮ろうと思いがちです

でも、これが間違いです

もちろん、できるならやればいいんですが、
できないのにやろうとするから大変なことになります

でも、それを除いてどうやって相手を笑わせるんだ
面白いこともないのにどうやって、と思うかもしれませんが、
からくりがあります

人が笑うのには2種類あります
むかし落語家からきいた話も大切な教えです

ひとつは面白くて笑うことです
芸人さんを見て笑ったり、テレビやマンガが面白くて笑うのがこれです

そして面白い話で笑わせようとするのもこれです
でも、みんなお笑いのプロじゃないから上手にできません

大事なのはもうひとつの方です

それは、安心して笑うことです

これに気付かない場合が多いんです
安心して笑うとはどういうことか
ピンとくるでしょうか
カメラマンの多くはそのキャリアの中でこれに気付きます

音声が乗らない写真の世界では、
相手がどういう理由で笑ったかは関係ありません

厳密には、面白くて笑ったときと安心で笑ったときとでは表情は違います
でも、それが仕事上問題になることはありません

というよりむしろ、安心の笑いは親しい人物に向けるような優しくて柔らかい表情になることが多いです

面白さで爆笑した表情よりも印象がよくなることがほとんどです
爆笑した顔というのは写真にすると下品に写ることもあります

人は緊張から緩和されたときに笑います
面白いことなどなくても笑います

合格発表の日、緊張しながら「合格」の2文字をみた瞬間に笑顔になります
誰も面白いジョークなど言っていないのに
変な動きもしていないのに
緊張状態から緩和されると人は笑います

むかし、落語家さんが教えてくれたのがこのことでした
ジョークどころか言葉も理解できない赤ちゃんが「いない、いない、ばあ」で笑うのも緊張と緩和なんだよと教えてくれました

緩和の前段階には緊張が必要です
でも、緊張の作り方はそれほど気にしなくていいです
なぜかと言うと、被写体は勝手に緊張していることがほとんどだからです

問題なのは、その緊張を事前に解いてしまうことです
撮影前にやたら親しく話しかけてはいけません

コミュニケーションを上手くとって場を和ませるタイプもいます
これはコミュニケーション能力が一流の人たちです
コミュ力不足で笑顔が撮れないと悩む人間の真逆にいます

コミュニケーションが上手でなくても笑顔が撮りたいなら
撮影前にやたら親しくなってはいけません

実際にどうするか

緊張する相手に、体の向きや表情などを伝えます
相手がそれに応じて体の向きや表情を変えたら、少しオーバーに認めます
「そうそう、そんな感じ」
「いい表情」
「OK、その顔いいからそのままキープして」

人は承認欲求の生き物で、
緊張と緩和、その緩和は承認で十分です

承認と褒めはほぼイコールで、どちらでも相手は笑います
そのままでいい、いい感じ、OKと相手を認めること。
認められたらうれしくて優しい笑顔になります
安心の笑い
面白いことなど言わなくても笑います

そのままキープでって冗談っぽくいうのは特に表情がゆるみます
ありのまま、素のままを認めることが大事です

もうひとつ重要なのは相手を否定しないこと。
認めるのが大事なことなら、わるいのは否定することです
ちょうど反対同士です

意図する表情にならないとき、相手を否定するカメラマンがいます
結構ベテランでもいるものです
「ちょっとかたいなー」
「もっと自然にできないかな」
「もう少し笑える?」

相手を否定する言葉が状況を改善することはありません
どうしても表情がかたいときでも相手を認めます

確かに焦る気持ちは分かります
笑顔を撮って帰らないと次の仕事がなくなるんですから
でも、ぐっと堪えて余裕を見せるのです

ぜんぜん笑わない人がいたとしても、めちゃくちゃいいと言うこと。
じゃあ反対も撮ろうと前向きな言葉で進めます

相手もばかではないので、いまのでいいんですか?ときいてきます
でも、その今のでいいんですかは大体笑いながらきいてきます

大御所の芸能人でも素人のファンに好きだといわれると少し照れたりします
承認で笑わない人というのはほんとにいないものです

篠山紀信に写真を撮られると想像したらきっと緊張するでしょう
でも彼が撮影中にふと「いい表情だ」と言ってくれたらなんだかうれしくなるでしょう

撮影で笑顔を撮るには、緊張と緩和を上手く使い、その中で相手を安心させるということが大切です





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